起立性調節障害とは
起立性調節障害は、
心身の成長期である思春期に、
心的なストレスなどによって
自律神経に障害をきたす疾患です。
主な症状は、
朝起きられない・頭痛・
めまい・覚醒度の低下・
立ちくらみ・失神
など、とても多彩です。
これらの症状が朝~午前中に強くみられ、
午後になると改善することが多い
のも特徴です。
日本では、小学生の約5%、
中高生の約10%が起立性調節障害に
罹患していることがわかってきました。
近年ではこの疾患が
子どもの不登校の原因として
注目されています。
不登校の状態にある子どもの
30~40%がこの疾患に
罹患していることもわかってきました。
小児心身医学会のガイドラインでは、この疾患を疑う項目として、以下のチェックリストをあげています。
10個のうち3つ以上あてはまれば、起立性調節障害である疑いがあります。
- 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
- 立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる
- 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
- 少し動くと動悸あるいは息切れがする
- 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 臍疝痛(へその周辺の刺すような痛み)をときどき訴える
- 倦怠あるいは疲れやすい
- 頭痛
- 乗り物に酔いやすい
起立性調節障害が疑われた際には、
甲状腺や心臓の病気などがないことを確認し、
起立試験(「シェロング試験」や「ヘッドアップチルト試験」)を行います。
起立試験の結果から、以下の4つのタイプに分類します。
- 起立直後性低血圧(INOH): 起立直後に血圧が低下し、回復に時間がかかる
- 体位性頻脈症候群(POTS): 起立後に血圧は低下しないが、著しく脈拍が増加する
- 血管迷走神経性失神(VVS): 起立中に血圧低下をきたして失神する
- 遅延性起立性低血圧(DeOH): 起立後3~10分後に血圧が低下する
診断がついたら、
重症度やストレスの関与
の評価を行って治療を試みます。
一般的な治療について
小児心身医学会の治療ガイドラインでは、
①疾病教育(疾患について理解を深める)
②非薬物療法(生活習慣の改善など)
③学校への指導や連携
④薬物療法(昇圧薬や漢方薬)
⑤環境調整
⑥心理療法
などが提案されています。
塩水の大量摂取や
生理食塩水の点滴投与、
昇圧薬の投薬などが
行われることもありますが、
この疾患の病態生理(病気になった時、
身体機能がどのようになっているか、
異常を起こしている原因は何なのか)
を考慮すれば、
単に血圧を上げれば
解決するものでないことは明らかです。
疾患に対する理解を深め、
自律神経障害の原因となっている
ストレスや環境を
改善してあげることが
最も重要であると考えています。
大分県立病院 脳神経内科
麻生 泰弘 (日本神経学会認定 神経内科専門医・指導医、医学博士)
参考文献)
- 小児心身医学会ガイドライン集 改訂第2版. 南江堂(2015年)
- 小児起立性調節障害. 小児科 61巻5号(2020年)
- 起立性調節障害. 小児内科 55巻 6号 pp. 970-973(2023年)
- Toward the Goal of Leaving No One Behind: Orthostatic Dysregulation. JMA J. 2023 May 10;6(3):334–336
- 不登校と身体症状. 精神医学 66巻 10号 pp. 1324-1329 (2024年)