「運動会、行きたいけど行きたくない」不登校の繊細な子が動き出した「褒めない肯定」の声かけ

監修: むらかみりりか
発達科学コミュニケーション マスタートレーナー

「運動会に出たい」と言いながら、練習にも本番にも不安で動けなくなった不登校の繊細な娘。心のブレーキがかかる娘に、これまでの頑張りを認める「褒めない肯定」で関わり、自分で決めて運動会に参加できるまでの親子の体験を紹介します。

1.不登校になった繊細な子が参加を希望する運動会

 

「おじいちゃんが見に来るし、運動会には出たい!」

 

私には、学校での失敗体験やお友だちとのコミュニケーションが上手くいかなかったことが重なり不登校になった繊細な娘、千帆がいます。

 

千帆は小学3年生。

 

不登校になって半年、ほとんど家で過ごす日々でしたが、運動会の参加を希望したのです。

 

「徒競走も学年競技の縄跳びの演技もみんなと一緒に出る。」

 

と、口では言うものの、「クラスのみんなに会うのが怖い」と言って実際に練習に参加することができません。

 

10日ほど前に学年全体の練習を見学することはできたのですが、それっきり、運動会の話題を避けるようになっていました。

 

千帆にとって、クラスの子たちは、なにか特別に意地悪をされたとか、個人的に絶対にあの子には会いたくない、というような明確に「怖い」理由はないのです。

 

ただ、「学校=嫌なところ」という図式ができあがってしまっているため、好意的に「千帆ちゃーん!」と名前を呼ばれたり、手を振られることだけでも、怖くて不安で仕方がないのです。

 

 

不登校ではありましたが、先生とは連絡を取り合っていたので、練習スケジュールのお知らせが届きました。

 

千帆に話すと不機嫌になるので、見えやすいところに練習の予定表を貼ることにしました。

 

本番まであと5日。

 

全体練習は、今日を含めてあと2回。

 

あと1時間後には今日の練習が始まります。

 

時間が差し迫る中、今日も千帆は練習に参加する素振りがありません。

 

母である私の方が焦りを感じていました。

 

私は、子どもの自信や意欲を育てる家庭での関わり方「発達科学コミュニケーション(以下、発コミュ)」を学んでいました。

 

練習まで時間がなく、焦る気持ちはあっても、諦めてはいませんでした。

 

私が説得して私の意向を押し通すわけではなく、どんな形になったとしても、千帆が考えて「やりたい!」と思ったことを行動に変えていく方法がまだあると分かっていたからです。

 

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2.行こうとすると不安で動けなくなる繊細な子の脳の仕組み

 

繊細な子の脳は、ネガティブな感情と経験を強く記憶しやすい特徴があります。

 

これは人間の本能的な防衛反応です。

 

過去の「怖かった」「嫌だった」という記憶がインプットされ、同じ危険から身を守ろうとする働きです。

 

不登校になるまでに積み重ねた、小さなストレスや不安の記憶。

 

それが脳に「学校=嫌なところ」という回路をつくってしまっていたのです。

 

だから本人が「運動会に出たい」と言っていても、いざ学校に行こうとすると脳が「やめた方がいいよ」と心のブレーキをかけてくる。

 

これが、練習に参加できない脳の仕組みです。

 

 

では、どうすればよいのでしょうか?

 

焦って背中を押したり、無理に引っ張ったりすることは逆効果。

 

大切なのは、安心と自信を積み重ねていくことです。

 

「これもできたね」「あれもできてるよ」

 

小さな「できた!」を伝える声かけこそが、繊細な子の心のブレーキを外し、行動に繋がるスイッチになるのです。

 

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3.「褒めない肯定」の声かけで不安を話し始めた娘

 

 

私が取り組んだポイントは2つ。

 

①今までの気持ち、実際に取り組んだことを肯定的な言葉で伝えました

 

「運動会、出たい!って思ったんだよね」

「動画を見て縄跳びの練習したよね」

「こっそり練習を見学できたよね」

 

そして、

 

「運動会に出ても出なくても、お母さんは千帆が頑張ってきた姿を知っているよ」

 

と伝えました。行動を決めるのは千帆自身です。

 

それまでの私は、子どもが何かできたときに褒めることが多かったのです。

 

発コミュを学ぶ中で、できた結果だけでなく、やろうとしている姿や、取り組んでいる途中の行動にも目を向けるようになりました。

 

今振り返ると、こうして子どもの気持ちや行動をそのまま認める関わりが、「褒めない肯定」だったのです。

 

②「練習に行こうかな」という気持ちをそっと後押しするご褒美作戦です

 

「今日の5時間目に全体練習があるんだよね。もし練習に行けたら、明日クレープ食べに行かない?」

 

すると千帆は、

 

「行きたいけど行きたくないの。クラスの子に“千帆ちゃん”って言われるのが嫌」

 

と心のブレーキが少しずつ外れ、練習についてどう考えているか話してくれたのです

 

「そっかぁ、気持ちを教えてくれてありがとう。なんか良い作戦ないかなぁ?この前の見学のときに、お母さんが先生にお願いしたみたいに、もう一回先生からみんなに言ってもらおうか?」

 

そして追加のご褒美作戦を提案しました。

 

「もしさ、3人に“千帆ちゃん”って言われたらクレープのトッピング1個追加!6人で2個!どうかな?」

 

それを聞いた千帆は、

 

「じゃあ20人に言われたら…ジュースもつけていい⁉︎」

 

「OK!良いよ~」

 

すると、どんどん表情が明るくなってきました。

 

そしてついに行動のスイッチが入った千帆は、

 

「みんなに名前呼ばないでって先生に電話する!」

 

と、自分で学校に電話をし、先生にお願いしてきたのです!

 

そして、まだパジャマのままだった千帆は、クローゼットに向かいました。

 

4.練習に参加できた娘が踏み込んだ心のアクセル

 

心のブレーキを外して着替えに向かったのですが、そこでまたストップ。

 

子供服のコーディネートをまとめた本を開いて、釘づけになった千帆。

 

「私って骨格タイプどれかなぁ?」

 

本当なら今すぐにでも出発させたい気持ちをグッと堪えて、フラットなトーンで対応します。

 

ここで「急いで!」「そんなの帰ってきてから読んで!」などと言ってしまったら一気に感情のスイッチが入って、練習どころではなくなってしまうからです。

 

以前の私なら、着替えが進まない娘に服の組み合わせを提案し、着替えまで手伝っていたかもしれません。

 

だけど、このとき私が立ち返ったのは、「迷ったら肯定に戻る」という、発コミュで学んだ関わり方。

 

一緒にフローチャートを進めて「骨格ストレートって出たね」と診断結果を読み上げました。

 

すると、千帆は自分で服を選び、 「これどうかな?」と聞いてきました。

 

「いいじゃん!かわいい!」と返すと・・・

 

そこからは、着替え・歯磨き・髪セット・靴下と、トントン拍子で準備が完了し、家を出ることができたのです!

 

学校に着いてからは緊張と不安で顔がこわばっていました。

 

すぐに、さきほど電話で話した先生が迎えに来てくれ

 

「クラスのみんなには千帆ちゃんが来て嬉しくなっても『名前を呼んだりしないであげてね』って言ったらみんな『分かった』って言っていたよ」

 

と伝えてくれました。

 

こうして安心した千帆は、先生と一緒にクラスへ合流することができたのです。

 

私は、千帆の表情、先生とのやりとり、合流してからの千帆の動き、全てが心配で気になって仕方がありませんでしたが、千帆に不安がうつってしまうので、笑顔で見守りました。

 

縄跳びの演技がほぼ仕上がっているクラスの輪に入った千帆。

 

これまで家で練習してきた甲斐もあり、少し戸惑う様子はありましたが、先生の指示や周りの子の動きを見ながら、一生懸命演技に取り組んでいます。

 

 

そして、なんと、練習が終わったらすぐに帰ると言っていたのに、まさかの…クラスに戻って帰りの会にも出席!

 

実際に練習に参加できなくても、準備できただけでもハナマルと思っていた私は、千帆の行動力にただただびっくりでした。

 

私自身も、どう関わればいいか迷ったら、肯定に戻ればいい。

 

そんな自分なりの答えを見つけた出来事でした。

 

5.運動会当日、もう一度かかった心のブレーキ

 

 迎えた運動会当日。

 

おじいちゃんも北海道から応援に来てくれました。

 

千帆は体操着に着替え、荷物も準備万端。

 

ところが、出発時間になっても玄関に来ません。

 

寝室に行くと、そこにはうなだれる千帆の姿。

 

最後の最後に、また心のブレーキがかかったのです。

 

長く学校を休んでいた千帆には、以前一緒に登校していたお友達との約束もなくなっていました。

 

長女とそのお友達と一緒に行く予定だったものの、出発できずにいたのです。

 

だけど、このときの私は、「もう運動会に出られなくてもいい」とも思っていました。

 

なぜなら、千帆がここまで積み重ねてきた小さな「できた!」や「やってみようとしたこと」を、私はずっと見てきたからです。

 

家での自主練習、放課後の徒競走の計測、人目を避けながらの練習見学。

 

そして、ついにクラスの輪に入って練習に参加できたこと。

 

本番に出ても出なくても、ここまでの頑張りがなくなるわけじゃない。

 

そんなとき、繊細な子の心と脳を強くする親子の関わり方を教えている、むらかみりりかさんから届いたメールの言葉が浮かびました。

 

 

お母さんとしては千帆ちゃんが決めていいんだよってスタンスで、どんな千帆ちゃんの決断でもお母さんとしてはOKと肯定してあげてくださいね!

 

 

私は、これまで千帆がやってきたことを伝えたうえで、こう話しました。

 

・おじいちゃんが見に来ているからといって、絶対に出なきゃいけないわけじゃない。

・出るか出ないかは、自分で決めていい。

・どんな決断でもママはOKだよ。

 

そして、今ならお姉ちゃんたちとの集合場所に間に合うことも伝えたのです。

 

すると・・・千帆が寝室から出てきました。

 

玄関で靴を履き、マンションの廊下を走って、お姉ちゃんたちの集合場所へ!

 

私はそこで見送りを終えました。

 

運動会に出られるかどうかは、まだ分からない。

 

それでも、自分で決めて、ここまで歩き出せた。

 

その姿だけで、もう胸がいっぱいでした。

 

その後、私はPTAの広報委員だったため、校舎の3階にある撮影場所へ向かいました。

 

そこから千帆の姿を探すと……

 

クラスの最後尾にいた千帆が、遠くにいる私に気づいて、こちらに向かってピースサイン!

 

その日、千帆は希望していたすべての競技に参加できました。

 

だけど、たとえ本番に出られなかったとしても、それまでの頑張りがなくなるわけではありません。

 

結果を急がず、それまでの頑張りを認め、子ども自身に決めてもらう。

 

りりかさんから学んだ「褒めない肯定」の関わり方と、どんな決断も認めるという言葉が、私自身の「出てほしい」という気持ちよりも、千帆の選択を大切にする判断を支えてくれたのです。

 

 

6.不登校の繊細な子の運動会参加についてよくある質問

 

Q1. 不登校の子が「運動会に出たい」と言っているのに練習に参加できないとき、親はどう関わればいいですか?

A.できていないことではなく、すでにできたことや、やろうとしたことを言葉にして伝えてみましょう。

「運動会に出たいと思った」「家で練習した」「練習を見学できた」など、子どもの気持ちや行動をそのまま認める「褒めない肯定」です。

参加するかどうかの結論を急がず、子ども自身が考えられるように関わりました。

 

Q2. 「運動会には出たい」のに、学校へ練習に行こうとすると動けなくなるのはなぜですか?

A. 過去の「怖かった」「嫌だった」という記憶から、学校へ行こうとしたときに心のブレーキがかかることがあります。

繊細な子はネガティブな感情や経験を強く記憶しやすく、不登校になるまでに積み重なったストレスや不安から「学校=嫌なところ」という回路ができていることがあります。

そのため、本人に参加したい気持ちがあっても、いざ学校へ行こうとすると「やめた方がいい」とブレーキがかかることがあります。

 

Q3. 運動会当日、準備はできているのに出発できなくなったら、どうすればいいですか?

A.出発できないことだけに目を向けず、そこまでに積み重ねてきたことを認めてみてください。

娘も当日、体操着に着替えて荷物を準備したものの、出発できなくなりました。

私はこれまでの頑張りを伝え、参加するかどうかは本人に決めてもらうことに。

そのうえで、今ならお姉ちゃんたちとの集合場所に間に合うことを知らせると、娘は自分で出発を選んだのです。

 

Q4. 運動会の練習へ行く準備中に子どもの動きが止まったら、急がせた方がいいですか?

A. 急がせず、できるだけフラットに対応します。

娘が着替えの途中で別のことに気を取られたときも、「急いで」「帰ってきてからにして」とは言わず、その話に付き合いました。

そこで感情のスイッチを入れないようにしたことで、その後は自分で服を選び、着替えや歯磨きなどの準備を進めることができました。

 

Q5. クラスの子に会うのが怖くて運動会の練習に行けない場合、先生に相談してもいいですか?

A. 子どもが何を怖がっているのかを具体的に伝え、安心できる環境を相談する方法があります。

娘は「クラスの子に名前を呼ばれるのが嫌」と話したため、自分で学校に電話をして、名前を呼ばないよう先生からクラスのみんなに伝えてもらいました。

学校に着いたあとも、先生から「みんな分かったと言っていたよ」と伝えてもらえたことで安心し、クラスへ合流することができました。

 

Q6. 運動会の練習に行くきっかけとして、ご褒美を使ってもいいですか?

A.この体験では、クレープの提案が、娘が自分の不安を話し始めるきっかけの一つになりました。

その後も、ご褒美だけで練習に参加できたわけではありません。

娘が嫌だと感じていたことを聞き、先生にお願いする方法を一緒に考えたことも、参加までの大切な過程でした。

 

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執筆者:あなんしほ
発達科学コミュニケーション アンバサダー

監修: むらかみりりか
(『HSC繊細な子の育て方がわかる!ペアレントトレーニング』著者)

準拠理論:
本記事は発達科学コミュニケーションに基づき執筆されています


この記事を書いた人
あなんしほ

発達科学コミュニケーションアンバサダー
記事執筆担当

学びはじめた時期
2023年7月

学びはじめた当時の学年
小学3年生の次女、小学5年生の長女

北海道生まれ・神奈川県在住
夫と2学年差の娘2人の4人家族

職業
学校関係

小学3年生から不登校になった次女は家では元気なのに、学校や習い事、お出かけになると「やっぱりやめた」と立ち止まってしまう。

「どうしたら自分から一歩を踏み出せるんだろう」
そんな思いで試行錯誤を重ねる中で、発達科学コミュニケーションと出会い、子どもの行動を「心と脳の現在地」という視点から見られるようになりました。

現在は、不登校の繊細な小学生を育てるママへ向けて、家では元気なのに外への一歩になると立ち止まってしまう子が、「行きたい」を「行けた」につなげていくためのヒントを、夏休み・学校行事・お出かけなどの具体例を交えながら発信しています。

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