1.「担任と合わない」と感じた繊細な不登校の子
新しい学年、新しい担任。
「今年こそは頑張りたいな・・」
そんな気持ちを胸に抱き、希望の火を灯す繊細な不登校のお子さんがいます。
けれど、ほんの少しのすれ違いで、「担任と合わない」と感じてしまうと、その火はすぐに消えそうになります。
わが家のとても頑張り屋で繊細な息子(通称:優士)も、そんな一人でした。
優士は新しい担任と約束をして放課後登校にチャレンジしました。新しい担任は、昨年、別のクラスを担任していたため、顔見知りでしたが、初対面のように自己紹介が始まりました。
担任から、次々質問を受け、お手紙や教科書を受け取り、さらに宿題の指示が出ました。優士は終始笑顔で対応していましたが、帰り道「先生の話し長かったね」とポツリ話しました。帰宅後はぐったり横になり、そのまま眠ってしまいました。
翌朝、優士は、「今日学校いいや」と学校を休み、担任からの電話にも出ようとせず、「あの先生ムリ・・」と話すようになっていました。
2.繊細な不登校の子に逆効果な声掛け
担任は、電話に出られなかった優士に対し、「もう6年生なんだから、電話位は自分で出させてください」と言いました。
実は、優士は前日の放課後登校で担任に会ったときや春休み中に家族や友人から何度も「もう6年生なんだから」と言われていました。
「もう6年生なんだから学校行かないとやばいよ」
「6年生なんだから我慢しなよ」
「6年生って楽しいから学校行きなよ」
相手は、どれも優士を励まそうと伝えていますが、繊細な優士にはプレッシャーになっていました。
繊細なお子さんは、人の感情を受け取り過ぎるため、このような言葉を聞くと、「みんなの期待に応えなくちゃ」と、無意識に自分を追い込んでしまうのです。
3.頑張る繊細な子の行動を止める脳のしくみ
繊細な子の脳は、相手の気持ちを受け取る力が強いため、人の期待に敏感に反応する傾向があります。
そのため、「もう6年生なんだから」と言われると、
「ちゃんとしなくちゃダメなんだ」
「みんなと同じように頑張らなくちゃいけないんだ」
と焦りになり、自分の出来ていない部分ばかり気にしてしまいます。
本来なら「頑張ろう・やってみよう」と思う場面でも、脳の中でストレスを感じてしまい、心にブレーキがかかり行動を止めてしまうのです。
その結果、「担任と合わない」という不安が膨らみ、登校に対する漠然とした不安も膨らませ、登校する気力が減り、動けなくなる悪循環が起きてしまうのです。
4.繊細な子の「担任と合わない」感覚を和らげる担任との関係づくり
優士は、放っておくと心のブレーキをかけ、止まってしまう感じがしました。
そのため、私が、クッション役になって、担任に優士のトリセツを伝えることにしました。
①担任に感謝の気持ちを伝える
まずは担任に感謝の気持ちを伝えました。
電話をかけて気にかけてくださっていたこと
放課後の時間を作ってくださったこと
優士の様子を知ろうとしてくれたこと
担任の心遣いに対して感謝を伝えることで、先生との信頼関係を築く第一歩にしました。
②心と脳の現在地を伝える
次に、優士の心と脳の現在地を伝えました。
6年生というキーワードに敏感になっていること
先生の期待に応えたい気持ちはあるが、今は負担になっていること
放課後登校の後、家でぐったりしていたこと
今は電話に出る余裕がないこと
優士のありのままの姿を伝えると、「そうでしたか」と、少し表情を変えて聞き入れてくれました。
③出来ていることを伝える
優士が前向きに頑張っていることを担任と共有しました。
先生と約束通りに学校へ行ったこと
初めての先生に自分から挨拶できたこと
宿題に向かおうとしていたこと
次の登校のことも気にしていたこと
優士のこうした小さな成功体験を担任に伝えると、「そんなに頑張っていたのですね」と優士の努力を理解し、さらに努力していることを探し、考えてくれる様になりました。
5.担任に安心し、前を向いた繊細な不登校の子
担任に優士のトリセツを渡したことで、担任から息子に理解を示し、掛ける言葉が変わりました。すると優士も、「あの先生ムリ・・」という感覚は薄れ、「今日は行ってみようかな」と登校を前向きに考えるようになりました。
新学期のスタートは、子どもにとっても親にとっても、ちょっとドキドキしますよね。特に、繊細なお子さんが不登校の場合、お母さんは、先の見えない不安をたくさんかかえているのではないでしょうか。
新学期になり、担任が変わると「前の担任の方が良かった」と思ってしまうこともあります。しかし、先生方は毎年、子どもたちの引き継ぎをしながら、関わり方を考えてくれています。だからこそ、担任と連携し、繊細な子の「トリセツ」を手渡すことが大切です。
新学期、繊細な不登校の子ども達は「頑張ろう」としています。担任とチームとなり、子どもが安心できる環境を一緒に作っていきましょう。
執筆者:増山陽香
(発達科学コミュニケーショントレーナー)