1.「不登校ずるい!」荒れる長男
わが家には、ガラスのハートを持つ繊細な子(通称:優士)と、4歳年上のしっかりものの長男がいます。
小さいころから、周りがうらやむほど仲の良い兄弟だったのですが、優士が不登校になったとたん、関係が悪化しました。
「学校行っていないのに、なんでゲームしてるの?ずるいよ!」
「YouTubeなんて禁止にするべき!」
「嫌な友達なんか無視すればいいのに!」
長男は優士に不満をぶつけるようになりました。優士は言い返すことができず、物を投げたり、暴言を吐くようになっていきました。それまで穏やかだった兄弟関係は、日に日に張りつめ、ちょっとしたことでお互いに爆発するようになっていったのです。
2.長男の「不登校ずるい!」を悪化させた親の関わり方
そんな中、長男が突然
「オレも学校行きたくない!学校に行く意味が分からない」
と言ったのです。
長男は中学3年の受験生。夏頃からずっと勉強に向き合い続け、塾に通い、模擬試験を受け、日々頑張っていました。私は、そんな長男に返す言葉に詰まり
「優士には休んでいいって許しているのに、長男には「頑張って」と伝えて良いのか・・」
そう、悩んでいる中、夫が先に言葉を掛けたのです。
「受験生なんだから今が一番大事!学校へ行ってみんなと一緒に頑張れ!」
その瞬間、長男は怒りを爆発させ、
「なんでだよ!オレだけに頑張れって言うんだよ!優士は好きなだけ休んでるのに!義務教育を受けさせていない無責任な親になんて言われたくない!もう家にいたくない!」
怒りをぶつけ、長男は家を飛び出し登校していきました。
私は「このままでは家族が崩壊しそう・・兄弟で不登校になるかもしれない」と、そんな危機感が胸を締め付けました。
3.「不登校ずるい!」の裏にあった繊細な弟を思いやる長男の想い
その日の夜、私は長男と2人の時間を作ることにしました。
「今日塾休むから」と言う長男に、「分かった。じゃあ、バッティングセンターにでも行こうか」と誘うと、長男は少し驚き、うなずきました。優士も「一緒に行きたい」と言ってきましたが、「また今度ね」と伝え、長男と2人きりで出かけました。
長男はバッティングセンターで、「あースッキリした!」と笑顔を見せ、帰りの車の中で、ぽつぽつ話し始めたのです。
「オレ、英語全然伸びないんだよなぁ・・」
「志望校に落ちたらどうしようって不安しかないわ」
「推薦で進学が決まってる友達、マジでうらやましい」
長男の本音がこぼれ、胸の奥にある不安と焦りを感じとりました。長男の言葉の中に、ずっと気付けなかった、長男の苦しさがにじんでいました。やがて、話題は優士に向かい、
「優士って、友達多いのにさ、苦手なヤツくらいスルーできるしょ」
「学校って、めんどうだけど楽しいこともあるから気持ち切り替えればいいのに」
「オレは志望校変えたけど、優士は頭いいし、同じ思いしてほしくないんだよね」
そんな長男の言葉を聞いてハッとしました。「不登校ずるい!」と、怒っていた長男の言葉の奥に、優士への期待と心配が隠れていたのです。それをうまく伝えられず、怒りという形でしか出せなかったのです。
「優士に言ってあげたら?」と促すと、長男は首を振り
「あいつ元気ないし、オレが言ったらまたケンカになるだけだから」
長男は、優士の繊細さを気遣い、自分の感情を押し殺してまで、弟を思いやっていたのです。
この頃の優士は不登校になり、自信をなくしていました。
「学校に行かないといけないのに行けない・・」
「学校に行けない自分はダメなんだ・・」
繊細であるがゆえに、家族のちょっとした表情や、何気ない言葉にも反応し、どんどん自分を否定するようになっていたのです。
私は、そんな優士の心を支えようと必死でした。けれど、気付けば、私の目は優士にばかり向いていて、長男の気持ちを置き去りにしていました。
長男は、「弟ばかり気にかけ、自分には期待だけ」と感じながらも、「受験生だから頑張らなくちゃ」と、感情に蓋をしていたのです。優士の不登校だけでなく、親の期待も背負いこみ、長男の心は気付かないうちに、限界に近づいていたのかもしれません。
あの夜、本音で話してくれた長男に気付けたことは、私にとって大きな転機となり、「長男とも向き合おう」と決意したのです。
4.「兄弟で不登校を予防できた!」脳の仕組みに合わせた長男の心の整え方
私は長男との関わり方を見直すことにしました。「受験生だから頑張って当然」を手放し、長男の頑張りや存在を肯定する関わりを増やしました。
「遅くまで勉強おつかれさま」
「朝ごはんは大好きな○○だよ」
「学校で○○してるんだね」
「塾の先生が自分のペースを見つけて頑張ってるって言ってたよ」
「優士とゲームしてくれてありがとう」
「考えてること話してくれてありがとう」
また週末、優士がなぜ学校にいけないのか、正直に話しをしました。
✓優士が感覚過敏や癇癪で苦しんでいること
✓今は休むことが、心と脳を回復するために必要な時間にあること
✓長男も疲れた時には休んで良いと思っていること
長男は黙って聞いていました。そして、少しずつ、友人のことや将来のこと、家族への思いなど自分の気持ちを語り始めたのでした。
「不登校ずるい!」という不満や怒りは消えていったのです。
5.「不登校ずるい!」を乗り越え、自分の夢に歩き始めた長男
ある日、長男は、「オレ先生になりたいんだ。だから高校受かって○○大学目指すわ!」
さらに、優士に向かって「お前なら大丈夫だよ」と優しく声を掛けるようになりました。「不登校ずるい!」と怒っていた長男が、今は、弟の未来を信じ背中を押してくれていたのです。
兄弟で不登校を防ぐには、兄弟それぞれの心に合った対応が大切です。今になって、兄弟それぞれの心と脳にあった言葉、タイミング、安心感が必要だったと分かります。
この経験が、お子さんとの関係で悩むあなたのヒントになれたら嬉しいです。
執筆者:増山陽香
(発達科学コミュニケーショントレーナー)