1.学校からの電話が知らせた繊細な息子の不穏な予兆
我が家には、小学2年生のしょうくんというひとり息子がいます。新しいことや、環境の変化に敏感な、繊細な心をもった男の子です。 実は、しょうくんには心に残る苦い経験があります。
小1の秋、いたずら書きの疑いをかけられたことをきっかけに、「やってないのに…悪者にされた」という思いを抱え、しょうくんは、3か月間ほとんど学校を休むようになってしまいました。
そんな出口の見えない日々の中、私を救ってくれたのが、発達科学コミュニケーション(以下:発コミュ)でした。「脳と心が育てば、繊細な子も挑戦できる」その言葉が、私の希望の光になり、私は学びはじめました。
発コミュで学んだ「安心を届ける関わり方」を少しずつ実践していくと、しょうくんは、登校しぶりが続いていた日々から、 “自分で決めて行動できるしょうくん”へと変わっていきました。
最初は保健室から登校するのも一苦労な状態で、「キャッチボールしてから学校にはいる」と、自分のタイミングで一歩ずつ挑戦。
13日後には、自ら学校へ行くことを選び毎日登校できるようになったのです。
あのときの笑顔と達成感は、今でも忘れられません。

そんな安心が戻ってきた矢先のことでした。
小2の5月の夕方、仕事を終えてスマホをみると、学校からの着信履歴が残っていました。
「下校してすぐの時間に電話…何かあったのかな」と胸がざわつきました。折り返してもつながらず、不安を抱えたまま帰宅。
しょうくんは、いつも通りゲームに夢中でしたが、どこか落ち着かない様子でした。
気分転換になればと「ねぇ、ココアでも飲みに行かない?」と声をかけると「飲みに行く!」と笑顔になりました。
お店でゆっくりおしゃべりしても、学校の話は出てきません。
さりげなく「今日、学校から連絡あってさ~何かあったの?」と聞くと、しょうくんは、沈黙のあと、「言わない…絶対言わないよー」と一言。

家に戻ると、ちょうど学校から再び電話がありました。
「友達を注意していたとき、そばにいたしょうさんが突然泣き出して…」
「落ち着いたあと、怖かったと話してくれました」と先生。
電話を終えて家に入ると、しょうくんの姿が見当たらず、探すと、クローゼットの中に隠れていました。
発コミュで、「無理に聞き出さなくていい」と学んでいた私は、そっとチョコをひとつ置いて「話したくなったら話してね〜」とだけ声をかけました。
しばらくして、しょうくんはチョコをもぐもぐしながら、少し落ち着いた表情で出てきました。
その夜は、しょうくんの好きな香りを選んでもらって、背中をアロマでマッサージ。
少しでも心がほぐれたらいいなと思って。すると、ポツリとひとこと。「先生は…勘違いしてる」それだけ言って、しょうくんはスッと眠りにつきました。

2.「先生怖い!」繊細な子の心に渦巻く感情の嵐
翌朝、しょうくんは、起きてくるなり「学校に行けない!」と言い出しました。
いつもなら「やだな〜、行きたくないな〜」と、朝のルーティーンのようにぼやくのが恒例なのに…この日の「行けない」は、なにかが違うと感じました。
登校時間が近づくにつれて、どんどん表情が曇っていき、ついには「うわーん!」と大きな声で泣き出してしまったのです。
「行けないよ!」「先生怖い!!」
昨日の出来事を思い出したのか、しょうくんの中の不安が一気にあふれ出しました。そんな姿を見て、私の心もザワザワ。
だけれど、「ここで一緒に不安になったらいけない」と自分に言い聞かせて、深呼吸。
よし、このパニックを落ち着かせよう!今こそ発コミュで学んだばかりの「ホームカウンセリング」の出番だ。しょうくんのために、私が学んできたことを試すときがきたと思いました。

3.親子の愛着が、繊細な子の心を育てる土台になる
◆繊細な子の脳
繊細な子の脳は、不安センサーがとても敏感に働くことを発コミュで学びました。
そのため、小さなもの音や人の表情の変化にも反応し不安を感じるのです。
さらに過去のイヤな記憶が残りやすく、ふとしたきっかけでよみがえることもあるそうです。
これは、気持ちが弱いのではなく脳の働きによるもの。
安心できる経験を重ねていけば少しずつ大丈夫と感じられる脳に育っていきます。
◆親子の愛着こそ、繊細な子の安心の土台
発コミュでまず教わったのは、親子の愛着(信頼関係)を整えることの大切さでした。
その親子の土台があることで、子どもは、話を聞ける耳を開きママの声かけやサポートを受け取れるようになります。
そして、学びの中で教わるのが子どもの心の整理を助けるホームカウンセリングです。
◆ホームカウンセリングの4ステップ
①保留:まずは親が感情に飲み込まれず、冷静になる。
子どもの様子やどんな気持ちなのかよく観察をする。
②受容:感情を否定せずに、子どもの感情のありのままを受けとめる。
③理解:何が起きたのかを子どもと一緒に整理しながら理解する
④共感:「そうだったんだね」と気持ちに寄り添う

4.感情の嵐をひとつずつ整理するホームカウンセリング
「先生怖い!」「行けない!!」
しょうくんは、私にしがみついて泣きじゃくり、時にジャンプするほどの混乱状態。
「うん、うん、そっか〜」と声をかけながら、抱きしめて背中をさすりました。
しばらくして、ポツリポツリとしょうくんが語り始めました。
「泣くもんかって思って我慢したけど、頭が真っ白になって、あのときと同じだった…」
私はすぐに思い出しました。”小1の秋、いたずら書きの疑いをかけられたあの日”のことです。
あのときも、しょうくんは“やっていないのに悪者にされた”というショックで、心を閉ざしてしまっていました。
繊細な子の脳には、ネガティブな記憶が強く残りやすい傾向があります。
ふとしたきっかけで、あの日の恐怖や悔しさがよみがえり、今回の出来事を“あのときの延長”として感じてしまったのかもしれません。
その結果、「怖い」という感情が倍増して、しょうくんの中に押し寄せてきたのでしょう。
「そうだったんだね」と受け止めながら、「うん、うん」「そっか、そう思ったんだね」と丁寧に気持ちに受け止め、言葉を返しました。
しょうくんは次第に落ち着き、自分の言葉で気持ちを語り始めました。
「〇〇くんが△△って呼んでってあだ名呼びが始まったのに…」
「みんな自分のあだ名を考えて、楽しく呼び合ってただけなのに…」
「先生はすごく怒ってさ…友だちが泣いてたら“泣いてんじゃねーよ!”って」
「“さん”って呼ばれるの、なんだか仲良くない感じがしてイヤなんだよ」

私はそのひとつ、ひとつの気持ちを受け止めながら、ネガティブな言葉は「びっくりしちゃったね〜」と変換しながら共感を続けました。
特に「怖かったね~」などネガティブな感情に強く共感しすぎると、繊細な子どもは更に「ママもそう思うんだ!やっぱり怖いだ!」とネガティブ感情を膨らませてしまうため、とくに気を付けていました。
心の整理ができてきたタイミングで、こう聞いてみました。
「今日、学校どうする? どうしたい?」
少し考えたしょうくんは答えました。
「…保健室からなら、行ける」
その瞬間が、自分の心と向き合い、自分でできる方法を見つけたしょうくんの成長を感じた瞬間でした。
私はすかさず「自分で考えて、どうしたらできるかみつけられたね」と言ってグッジョブサインをしました。しょうくんは照れながら「ちょっと元気が足りないから、行く前にキャッチボールしたいな」と。
「いいね、久しぶりにキャッチボールしよっか」と私も応え、ボールで気持ちを整えてから、保健室へと登校していきました。

5.「気持ち切り替えよう!」自ら心を整える力へ
繊細な子にとって、学校は刺激が強く、ときに苦い記憶の残る場所でもあります。
しょうくんも、過去の体験と重なり、不安を抱える日もあります。
けれど今では、友だちとの関わりから“学校の楽しさ”を少しずつ感じられるようになってきています。
まだ、気持ちの揺れはあるけれど、今はママと一緒に、発コミュの力を借りて、感情の整理も前向きにできるようになってきたしょうくん。
つい先日も、アイスを自転車で買いに行った帰り、かごに入れたはずのアイスが消えていたハプニングがありました。
しょんぼりしたあと、パチン!っと手を叩いて一言。
「気持ち切り替えよう!」
あの「先生怖い」と泣いていた日から、しょうくんは確かに前に進んでいます。
ゆっくりでいい、自分の心に向かいながら一歩ずつ。これからもその歩みを私はそっと見守っていきたいと思っています。
執筆者:いとうあやこ
発達科学コミュニケーション

