1.せっかくの挑戦に立ちはだかる自己紹介の壁
〈2023年7月〉
私には繊細な気質を持つ小学3年生の娘・千帆がいます。
小学1年生の秋、コロナ禍での分散登校という特殊な環境で人に注目されることへの苦手意識が強まっていきました。
さらに日々のちょっとした失敗体験が積み重なったことで、2年生が終わる頃には不登校になっていました。
家では元気なのに、外に行くことも、何かに挑戦する機会もほとんどないまま、小学3年生の夏を迎えました。
私は、繊細な子の行動は気合いや根性ではなく、脳の仕組みに沿った関わりによって変わることを、娘との日々の関わりの中で実感するようになりました。
家庭の中で、ママが感情に振り回されずに判断できる状態を整える「お家で脳を育てる発達科学コミュニケーション(以下、発コミュ)」を軸に、日々の声かけを重ねていました。
〈2023年10月〉
その声かけを続けるうちに、千帆は、以前習っていたダンスに再び通えるようになったのです。
すると、再開してすぐに、ひと月後に家族向けの小さな発表会があると知り、千帆は「出たい」と挑戦を決意。
家から出ることすら難しかった千帆が、発表会で人前に立つ挑戦をしようとしている。
その姿がうれしい反面、本当に大丈夫かな…という不安も入りまじり、私は複雑な気持ちで見守ることとなりました。
本番までレッスンは3回しかありません。
それなのに千帆はインフルエンザに罹り、2回しかレッスンに参加できない状況に。
本番1週間前、体調が戻り、久々のレッスンに向かいましたが、そこで事件は起こりました。
先生への挨拶を終えた直後、自己紹介が苦手な千帆にとって最もハードルの高い場面、「予告のないままの自己紹介タイム」が始まってしまい、千帆はそのままレッスン会場から姿を消したのです。

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2.ネガティブな記憶に反応する繊細な子の脳の仕組み
①強烈なトラウマ体験
〈2021年6月・小学1年生〉
実は、千帆には自己紹介が苦手になったきっかけがありました。
コロナによる分散登校が始まる前に参加したダンスの発表会のことです。
発表会の中の1コマとして自己紹介が組み込まれていて、当時小学1年生だった千帆は家族以外にもたくさんのお客さんがいる前で・・・
「千帆です。」
「6年生です」
と、学年と年齢を言い間違えてしまったのです。
すると、かわいらしい1年生の言い間違えに、私たち両親も会場のお客さんからも「わっ」と笑いが起きました。
会場のだれもが馬鹿にする意図なんてこれっぽっちも無かったのですが、千帆は、その発表会の話題になるたびに「自己紹介、大失敗した」「みんなに笑われた」「私の黒歴史だ」と、表情が曇るのです。
一生懸命踊ったダンスよりも「大失敗した発表会」としてトラウマになってしまったのです。
②ネガティブな感情を強く記憶する繊細な子の脳
〈2023年10月〉
それから約2年経ったこの日、自己紹介が苦手な千帆は、心の準備をする間もなかったことでネガティブな記憶が一気に湧き上がってきたのです。
繊細な子の脳は、感じ取る力が人一倍敏感で、「イヤだった」「恥ずかしかった」といったネガティブな感情と、その場面が強く結びついて記憶されやすい特徴があります。
子どもの脳は、感情を感じ取るエリアが先に育ち、判断やコントロールを担う理性のエリアはあとから育ちます。
そのため、不安や恥ずかしさといった感情が一気に湧き上がると、理性的にコントロールすることが難しくなるのです。
そして、脳には、危険を回避しようとするブレーキ機能があります。
過去に「つらかった」「恥ずかしかった」と感じた出来事があると、脳は同じ状況を「また危険な目にあうかもしれない」と判断します。
このブレーキが発動すると、
「なんとかなるかも」
「次はうまくできるかもしれない」
といった冷静な考えを働かせる前に、「怖い・イヤだ・逃げたい」というブレーキ反応が先に出てしまいます。
だから、千帆は自己紹介に参加せず逃げ出してしまったのです。

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3.「小さなできた!」から始まる挑戦の心
①逆効果な対応
繊細な子の脳の仕組みを知らなければ、多くのママが焦ってしまう状況でした。
実際、発コミュを学ぶ前の私だったら、安心させるどころか自分の焦りのままに
「練習しないと本番間に合わないよ!」
「練習しないと失敗するよ!」
など、追い詰めるような言葉をかけていたかもしれません。
また、このネガティブな感情は根が深く、「大丈夫だよ、誰だって失敗くらいするものだよ」などと安心させるような声をかけても、逆に
「ママは私の気持ちを分かってくれない!」
と、気持ちを不安定にさせてしまうのです。
繊細な子には、焦らせて何とかしようとする声かけも、一方的に安心させようとする声かけも逆効果なのです。
②すでにたくさんある「小さなできた!」
発コミュでは、行動の結果よりも「取り組もうとしたプロセス」に注目し、脳に安心と自信の記憶を残すことを大切にしています。
では、私がどのような対応をしたのかご紹介します。
こうした場面で、私が必ず意識しているのが、「小さなできた!」を言葉にする関わりです。
レッスンの部屋からいなくなった千帆は、離れた場所で泣いていました。
まずは、背中をさすり、感情が落ち着くのを待ちます。
スキンシップは、感情の脳を落ち着かせる作用があるからです。
次に「どうしたの?」と千帆に聞いてみました。
「自己紹介が急に始まってイヤだった」
「今まで休んでいたからどこに立てば良いか分からない」
「踊りたくない演目もある」
「お客さんの前で失敗したらどうしよう」
自己紹介以外にも、胸に抱えていた不安を話してくれました。
私は「そっか、そっか~」とフラットに受け止めます。
そして、この状況までの千帆の「小さなできた!」伝えたのです。
「発表会の練習に出ようと思って、今日の朝起きてきたんだよね、ハナマル!」
「イヤだったことや困っていることをお母さんに話せたね、ハナマル!」
完璧にやり遂げたことだけがハナマル(小さなできた!)ではありません。
・1パーセントでもやろうとしたこと
・すでにできていること
に、ハナマルを伝えたのです。
それから、本番どうしたいか聞いてみると、千帆の答えは「出たい!」
最後に、「お母さんに手伝えることある?」と聞いてみました。
「自己紹介はしたくない」
「出たくない演目がある」
「そのことをママから先生に言ってきて欲しい」
数ヶ月前まで家から出られなかった娘の挑戦です。
さりげないサポートで自信を付けていくことも大切です。
「小さなできた!」を積み重ねることで自信が生まれ、これからの千帆がものごとに自分で立ち向かっていく力になるのです。
ですから、私と千帆にとって、完璧に踊ったり、全部自分1人で何とかしようとすることは必要ではありません。
むしろこうやって、感情を落ち着かせて理性的に「このあとどうしたいか」を自分の言葉で伝えられることが、重要なのです。
程なくすると、うずくまっていた千帆が立ち上がりました。
感情が落ち着き、脳が思考や判断にエネルギーを使える状態に戻ったことで、千帆は「できないかもしれない」ではなく、「どうしたらできるか」を考えられる状態になったのです。

4.自己紹介が苦手な子が迎えた本番から続く未来
その後、ダンスの先生に以下のことを伝えました。
・自己紹介の嫌だった思い出がぶり返して来て、驚いて逃げ出してしまったこと
・休んでいて振り付けが分からない不安があったこと
・親のスタンスとして、やろうとすること自体がハナマルと思っていること
・上手に踊れることを目指していないこと
千帆にも、私から先生に伝えたことを話すと、安心した表情でレッスンに戻り、練習を再開することができました。
〈2023年11月上旬〉
それから本番までの1週間。
動画を見て自宅で練習する千帆。
私は
「練習しているんだね!」
「いいねいいね!」
と、常に「できていることを肯定」する声かけを徹底しました
右と左が逆だったり、タイミングが合っていないことだったり、見ていて気になることはありましたが、アドバイスは一切封印!
〈2023年11月中旬〉
本番の日を迎えました。
練習で左右逆だった動きも、本番では、向きもタイミングもバッチリ揃うというミラクルが起きました。
ニッコニコで踊り終えた千帆は、お友達と写真をたくさん撮って大満足の表情でした!
本番を終えた直後のこと、次なる発表の場が案内されました。
なんと1000人以上収容できる大ホールでの発表会。
「小さなできた!」の自信を積み重ね、本番をやり切ったことでさらに自信がついた千帆は、すぐさま「次も出る!」と参加を決意!
そして、初回の練習に向けてこんな一言を言ったのです。
「今日のメンバーときっと変わるから、また自己紹介ありそうだよね。私、自己紹介のときだけ隠れるわ~」
なんと、自己紹介が苦手な千帆が自分で対策を考えられるようになっていたのです。
ダンスの発表会=自己紹介の言い間違い=大失敗
という、ネガティブな記憶を、「小さなできた!」の積み重ねで乗り越え、新たな挑戦に繋げることができたのです!
繊細な子が挑戦できるようになるのは、勇気を振り絞ったからではありません。
安心が積み重なり、脳が「またやってみよう」と判断できる状態になったからです。
発コミュは、子どもを無理に動かす方法ではなく、安心を土台に、子ども自身が考え、選び、動ける力を育てていきます。

5.私が発達科学コミュニケーションを学ぶと決めるまで
私が発達科学コミュニケーションを学び始めたのは、千帆が完全不登校になった小学3年生の7月。
けれど、そこに至るまでには、約1年半の登校しぶりがありました。
その間、私がずっと探していたのは、
「なんとか1時間でも長く」
「1日でも多く学校に通える方法はないか」
ということ。
担任の先生、児童指導の先生、スクールカウンセラーさん。
さらに、長女にもストレス症状が現れたことをきっかけに、児童精神科の先生にも相談しました。
それでも、
「じゃあ、私は今日から何をしたらいいの?」
その答えが見つかりません。
そのうち、学校にまったく行かない日が1週間になり、1か月になり。
何かしなきゃ。
気持ちばかりが焦っていました。
不登校について調べ、単発の面談やメールサポートを受けたこともありますが、わが家の日常が変わっていく実感はありません。
中には、数日以内に契約するかどうかで金額が大きく変わるサービスもありました。
娘をなんとかしたくて必死なときに、決断を迫られているようで、悔しさが残りました。
そんな頃、ボディメンテナンスを専門にしている友人から言われたのが、
「人って、専門家に伴走してもらわないと、変わることも続けることも難しいよ」
という言葉。
そのとき初めて、
知識を集めるだけではなく、
私自身が関わり方を学び、
それを続けていくための伴走が必要なのかもしれない。
そう思ったのです。
そんなときに出会ったのが、
発達科学コミュニケーションと、トレーナーのむらかみりりかさん。
もちろん、すぐに「やろう」と決められたわけではありません。
本当にこれで変わるの?
私にもできるの?
迷いもありました。
そんな私に、りりかさんがかけてくれたのが、
「しっかり納得してからスタートしましょう」
という言葉でした。
今すぐ決めることではなく、
私自身が納得して一歩を踏み出すことを大切にしてもらえた。
だから私は、ここなら信じて学んでみたいと思えたのです。
「何もしないまま夏休みに入るのは怖い。
だったら、ここに賭けてみたい」
そう決めて、私は発達科学コミュニケーションを学び始めました。
あの夏、一歩を踏み出したことで、私は娘をなんとか動かそうとするのではなく、娘の中にある「やってみたい」を育てる関わりを知りました。
もし、あのとき迷っていた自分に今、声をかけるなら、
「あのとき、自分で納得して一歩を踏み出してよかったよ」
そう伝えたいです。
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執筆者:あなんしほ
発達科学コミュニケーショントレーナー




