1.教室に足がすくむ繊細な娘と不登校の始まり
我が家の一人娘つぼみ(当時小学2年生)は、こだわりが強く真面目で、そしてとても繊細な子です。
2年生の7月。
学校に行くと、突然腹痛を訴えるようになりました。
最初は様子を見ていた私も、家に帰ると元気になる姿を見て、ストレスによるものだと気付きました。
真面目で家族に心配をかけたくないつぼみは、自分を奮い立たせて学校に行っていたのです。
次第に、教室の前に立つと足が止まり、体が拒絶するかのように動けなくなりました。
教室のざわめき、友達の声、先生の指示。
些細なことでも、つぼみには大きなストレスとなっていたのです。
「今は無理に行かせる時じゃない。つぼみの心を守ろう。」
そう決意した私は、学校へ行かせようとすることをやめました。
ここから娘の不登校生活が始まりました。
2.不登校の日々と、運動会を前に揺れる心
不登校になり家での娘との生活が始まりました。
学校に行きたいのに行けないストレスから、人が変わったように些細なことでも感情的になることが増え、泣いて暴れて手がつけられなくなりました。
病院に行っても、学校に相談しても、はっきりとした答えや具体的な対策は得られません。
「繊細なんでしょうね」「様子を見ましょう」と言われるばかりで、状況は何も変わらなかったのです。
様子を見ていてもダメだ。
何か私にできることはないか。
8月、眠れぬ夜が続く中、どうにかしたい一心で情報を探しているうちに、おうちで脳を育てる「発達科学コミュニケーション」(以下発コミュ)に出会いました。
脳科学に基づいたコミュニケーションで、脳は育てられる。
私の関わり方でつぼみの笑顔がまた見れるかもしれない!!
私は迷わず受講を決意しました。
親子のコミュニケーションを変えることで、家の中では笑顔が溢れ、どんどん元気になっていった娘。
ですが、外の世界はまだ娘にとって大きな不安の塊でした。
特に学校は、教室のざわめきやお腹が痛くなることを思い出して、「嫌な場所」というイメージが強く残っています。
それでも、運動会という大きな行事には少し興味がある様子。
「運動会行きたいな。でもな…」
と、不安がありながらも参加したい気持ちも見え隠れしていました。
しかし、練習にはまだ参加できません。
みんなは練習しているのに、自分は全く参加できていない。
何をするのかも、どう動けばいいのかも分からない。
そんな状況が、不安で胸をいっぱいにしていたのです。
気になっている運動会。
できれば参加させてあげたい。
その思いが、私の中で強く膨らんでいきました。
3.安心できる存在と見通しが、不安を安心に変える
運動会には参加したい。
けれど、不安でいっぱいになって動けなくなっているつぼみ。
発コミュで学んだのは、その不安を安心に変えるためには、少しづつ「安心できる材料」を増やしていくことが大切だということです。
学校は家庭とは違い、予測できない出来事や刺激が多い場所です。
不登校になっている繊細な子にとっては、そのひとつひとつが大きな不安となります。
学校が不安だらけの繊細な子にとって、もし「安心できる存在」がたったひとりでもいたなら、その不安は大きく和らぎ、「何かあっても大丈夫」と思える安全基地となるのです。
そして、学校で一番関わりが深いのはやはり担任の先生。
先生が「安心できる存在」になってくださることこそ、娘にとって最大の力になるのだと気づいたのです。
さらに、繊細な子の脳は、初めての事や見通しが立たないことに強く反応して、心にブレーキがかかり行動に移せなくなります。
ですが、見通しを立てるお手伝いをしてあげると、不安は安心に変わり「それならできるかも」と思えるようになるのです。
4.不安を安心に変えて叶えた笑顔のゴール
◆担任の先生を安心できる存在に
9月。先生との信頼関係を築くために、まずは私が毎日先生とコミュニケーションを取ることにしました。
毎日の欠席連絡のメッセージに、娘の家での様子や運動会が気になっていることなどを伝えていきました。
毎日のコミュニケーションの中で、私と先生との信頼関係が作られていくと、つぼみとの会話で、自然に先生の話題が出るようになり、つぼみも「先生に会いたい」と言うようになりました。
まずは生徒が少ない放課後に、先生とお喋りをしたり、工作をしたりと楽しい活動をする中で、先生との信頼関係を作っていきました。
繊細なつぼみは初めのうち、緊張で中々自分からコミュニケーションを取ることができなかったのですが、次第に笑顔が増えて放課後のこの時間を楽しみにするようになりました。
◆見通しを立てる
先生が安心できる存在になった後は、運動会の見通しを立てていくことにしました。
ここでのポイントは、親が思っている10倍詳しく見通しを立ててあげることです。
私はリアルにイメージできるように、運動会の前日に準備をしている先生方に混じって、つぼみと一緒に会場の雰囲気を見に行きました。
実際に座る席の場所は、ここにみんなと座ってもいいし、私と後ろに座ってもいいという説明を先生からしてもらいました。
そして競技に関しては、実際に走らせてもらえることに。
デカパン競争という、大きなパンツに2人で入って走るリレーなのですが、私と一緒に入り校庭を駆け抜けました。
2人で笑顔でゴールし、つぼみは満面の笑みで叫びました。
「楽しい〜!!」
本番は誰と一緒に走るのか、直前に走れなくても代理がいることなど、プレッシャーにならないように、あくまでつぼみ自身が自分の気持ちで踏み出せるように努めました。
不登校で運動場にもしばらく出ておらず、当日に運動会の雰囲気を見ると圧倒されてしまったと思います。
事前に安心できる雰囲気で練習できたことは、つぼみにとって大きな安心と自信に繋がりました。
◆ブレーキを踏んでいるときに、背中を押しても行動できない
そして本番当日。
行くことは決めていたが、競技に参加するかはまだ分からない状態でした。
ですが、それだけでも花マル!
教室に入ることすらできなくなっていた不登校の娘が、一歩踏み出して運動会という大きなイベントに参加しようと思えたのですから。
観覧席では、初めは私と一緒に後ろにいたのですが、途中からみんなの席に混じって座るようになりました。
私のところに来て、安心をチャージしながらつぼみのペースで参加していました。
そしてつぼみの学年の競技が近づいてきました。
みんなが移動する姿を見て、突然不安に襲われたつぼみ。
「行かない…」
昨日の笑顔で走るつぼみを見ていたので、参加させたい気持ちは大きかったのですが、私は無理に行かせようとしませんでした。
なぜなら、心にブレーキがかかっている状態で、無理に背中を押しても逆効果になり行動できなくなるからです。
ここまで勇気を出して参加できたことをしっかり肯定し、思いっきり応援しようと娘と最前列に。
みんなが入場するかしないか、その時です!!!
「やっぱり出る!!」
つぼみの心のブレーキが外れた瞬間でした。
2人で全速力で入場門に走り、先生につぼみをお願いして私は観客席へ。
不安そうにこちらを見つめるつぼみに、最大の笑顔とグッジョブサインを送りました。
一生懸命走るつぼみを見て涙が止まらない私。
こんなに感動した運動会は初めてでした。
そしてすべての競技が終わり、先生がみんなにこう問いかけました。
「今日精一杯力を出し切って、楽しかった人!」
そこにはまっすぐに手を挙げるつぼみの姿がありました。
不登校で、教室に入ることさえも怖がっていたつぼみが、自分の気持ちで挑戦し、楽しむことができた瞬間です。
その笑顔と成長の姿は、私にとっても一生忘れられない運動会となりました。
5.挑戦することで自信を育み、未来への道を開く
「楽しかった」という運動会の経験は、不登校で教室に入ることさえ不安だった繊細なつぼみにとって自信となり、学校生活にも少しづつ繋がっていきました。
今年3年生になる娘は、別室に行きながら、毎日元気にクラスで過ごせるようになっています。
そして、運動会の練習にも参加できるまでに成長しました。
「今年は黄組だよ!綱引きするんだよ!」
と、目を輝かせながら運動会を楽しみにしています。
発コミュを学び、親の関わり方を変えるだけで、子どもの不安を安心に変えられることを学びました。
寄り添い、見守るのではなく、「やってみようかな」と一歩踏みだす力を授けるコミュニケーションをこれからも続けていきたいと思います。
執筆者:なかたに のぞみ
発達科学コミュニケーション