1.「給食の時話せない」から始まった登園しぶり
年中の11月頃、繊細な娘、こはるちゃん(仮名)は「シールを勝手に取られて嫌だった」「やめてと言ってもクラスの子に叩かれた」など、幼稚園での嫌だった出来事をよく話すようになりました。
担任の先生に情報を共有しつつ様子を見ていたところ、ある晩「幼稚園に行きたくない!給食が食べられない」と泣き出しました。
話を聞くと、「みんなが楽しそうに話す中、自分だけ話せないことが気になる」とのこと。翌日から登園しぶりが始まりました。
話題を一緒に考えてみたりしましたが、給食だけはどうしても受け入れられません。
年中12月には登園時間を調整するようになり、年長5月には「もう行きたくない」と完全に登園を拒否しました。
2.繊細な娘の感覚の鋭さ
幼稚園を嫌がる様子がどんどん強くなり、誰に相談しても解決できませんでした。そんな中、「おうちで脳を育てる」発達科学コミュニケーション(以下発コミュ)のトレーナーである、むらかみりりかさんに出会いました。
親子のコミュニケーションを変えることで、繊細な子はその繊細さを強みにできると知り、「このままでは娘の笑顔が消えてしまうかもしれない。親子で変わりたい!」という思いから、発コミュを学び始めました。
発コミュで、次のことを学びました。
①繊細な子は、まわりの情報を受け取る力がとても強く、人の表情や教室の雰囲気、音などを敏感に感じ取ってしまう。
②不安や緊張を感じていると、感覚がさらに鋭くなり、些細な刺激にも強く反応してしまう。
「自分だけ話せないことが気になり給食を食べられない」という娘の反応には、この感覚の鋭さが影響していたのです。
娘は、みんなが楽しそうに話す「場の空気」を強く感じ取っていました。ザワザワした音や視線、話しかけられるタイミングなど、たくさんの刺激を一度に処理しようとして、心も脳もいっぱいいっぱいになっていたのです。その結果、「話そうと思えば思うほど話せない」という状況になっていました。
こうした特徴は、「場面緘黙(ばめんかんもく)」と呼ばれる状態にも当てはまります。
場面緘黙とは、家などの安心できる場所では普通に話せるのに、学校や幼稚園など緊張する場面では話せなくなってしまう状態です。本人の意志で黙っているのではなく、「話したいのに体が固まってしまって話せない」状態で、強い不安や緊張によって引き起こされます。
さらに、幼稚園でのネガティブな経験が重なり、娘の「安心の範囲」はどんどん狭くなっていきました。だからこそ、「幼稚園給食を食べること」ではなく、「幼稚園での安心の範囲を広げること」を目標に行動しました。
3.繊細な娘の安心の範囲を広げたスモールステップ
①繊細な子の安心と自信はママの言葉で育つ
発コミュを学び始めた年長の4月後半、娘のできていることに注目し行動するたびに言葉にしていきました。
「おはよう、元気に起きてきたね」「今日の洋服かわいいね」「朝ごはんたくさん食べて嬉しいな」「歯を磨いてるんだね」
できている事を伝える事で安心と自信の貯金がたまっていき自主的に行動できるようになっていきます。
②スモールステップで行動できる範囲を増やしていく
不登園になった年長の5月、「できていること」に注目して伝え続けたことで、娘は「本当は新しいお友達がほしいんだけど。はずかしいしどうしたらいいのかな」と、自分の気持ちを話してくれるようになりました。
その時、「新しいお友達がほしいのであればどうしたらいいかなあ?」と聞くと娘は「幼稚園の先生に相談する」と言ったので「いい考えだね!みんなが帰った後、先生にその気持ちを伝えに行こう」と娘を誘いました。
みんなが帰宅した後、担任の先生に会いに行くことから始め、6月に母子登園がスタートしました。初めは好きな活動(七夕飾り制作、流しそうめん練習、園庭で遊ぶなど)から参加し、慣れてくると毎日午前中だけ登園するようになっていきました。
7月に入りお昼になると帰宅準備を始める娘に、友達が「明日は一緒に食べようね」と声をかけてくれる日が続きました。
帰宅して娘に「お友達がいつも声かけてくれるね、一緒に食べてみる?」と聞くと「明日食べてみる」という返事。
翌日久しぶりに、みんなと一緒にお昼ごはんを食べた娘。その日以降、3月の卒園までは「給食の時に話せない」ということを言わなくなりました。
4.安心の範囲が広がると行動できる範囲が広がる
「給食の時話せないから食べれない」と娘が言った時、当時の私は、「家での食事は問題ないのにどうしたんだろう」と娘の気持ちが理解できず戸惑っていました。
今思えば、「給食が食べられない」というのは、単なる偏食や気分ではなく、その場で話すことができないほどの不安や緊張状態だったのだと思います。
発コミュを学んで1年の今では、娘の繊細さやその時の心の状態がよくわかるようになりました。
「みんなと給食を食べられるかどうか」は、娘にとってその場所が安心できているかどうかの目安にもなり、無理に背中を押す時ではないと理解をしています。
安心の範囲が広がると、行動できる範囲が広がる。
これからも娘の話したい気持ちを大切に、安心の範囲を少しずつ広げていきたいです。
執筆者:葉月 まき
発達科学コミュニケーション