久しぶりの家族旅行でパニックになった子ども。不安を和らげ、挑戦する気持ちを引き出したのは、過去の成功体験を思い出す“ママのひと言”でした。その声かけと変化の記録をお届けします。
1.楽しみにしていた家族旅行で突然のパニック!なぜ?
「家族みんなで旅行に行こう!」
久しぶりの家族旅行に、子どももワクワク。
行き先は、過去に一度行ったことのある遊園地。
だから「大丈夫かな」と思っていたけれど…
当日になると、まさかの展開。
「やっぱりできない!」「やらない!」と、子どもが突然パニックに!
楽しみにしていたはずなのに、その場から動けなくなってしまった…。
どうにか気持ちを切り替えようとするも、 だんだん険しくなる家族の空気。
「なんでこんなことに…?」と、ママの胸の中にもモヤモヤが広がっていく。
そんな経験、ありませんか?
この記事では、私自身の体験をもとに、 どうしてそうなってしまうのか?と、そんな時にどう対応していけばいいのか?をお伝えします。
“家族旅行のヘルプガイド”として、参考にしていただけたら嬉しいです。

2.絶対に楽しい家族旅行にしたかったのに…現地で見えた娘の不安のサイン
私には中学3年生、中学1年生、小学校4年生の子どもがいます。
子どもが大きくなると部活が始まるので、なかなか休日の予定が合いません。
そんな中、家族みんなの予定が合って、やっと実現したおでかけ。
「せっかくだから、今日は思いっきり楽しもう!」と、朝から気合い十分。
1番楽しみにしていたのは末っ子の娘。彼女は自閉スペクトラム症(ASD)グレーゾーンです。
「早く行きたい!」とニコニコしていたし、 行き先は、数年前に「また行きたい!」と言っていた遊園地。
だからこそ、「きっと今回は大丈夫」と信じていました。
ですが… 現地に着いて、少しずつ様子が変わり始めました。
ジェットコースターの前で足がすくみ、 前回「あんなに楽しい!」と笑って乗っていたバイキングも、 「やっぱりやめる」と言い出してしまいました。
さらには「トイレに行きたい」「帰りたい」と、不安げな表情に変わっていく娘 。
「え?乗りたがってたんじゃなかったの?」と、私は一瞬戸惑いました。
そんな娘の姿に、家族の中に流れるイヤな空気。
せっかくの久しぶりの家族旅行。
絶対に楽しい1日にしたい。このまま諦めたくない!
「何がこの子の不安につながっているんだろう?」
「どうすれば前に進めるんだろう?」
私は娘の様子をよく観察しながら、声をかける言葉を探していきました。

3.見通しのなさが不安を呼び起こす
ASDグレーゾーンの子どもたちは、物事の見通しを立てることが苦手な傾向があります。
その原因は、脳の「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という部分が関係しています。
前頭前野は、脳の前の方にあるエリアで、以下のような役割を担っています。
・予定を立てる
・状況に応じて判断する
・「今」と「未来」をつなげて考える
・気持ちをコントロールする
つまり、「考える力」や「がまんする力」、そして「計画する力」を担当する部分です。
ですが、ASDグレーゾーンの子どもたちは、前頭前野の発達がゆっくりだったり、 情報を整理するのが苦手だったりすることが多いため、 未来の出来事を頭の中でイメージし、見通しを立てることがとても難しいのです。
今回行った遊園地は、2年前に一度訪れたことのある場所でした。
大人からすると「経験済みだから大丈夫だろう」と思ってしまいがちですが、 ASDグレーゾーンの子どもにとっては、時間が空くと「初めて行く場所と同じくらい不安」を感じることもあります。
例えば…
・この乗り物、どんな動きだったっけ?
・前と何か変わったかもしれない
・思い出せない部分があって、うまくイメージできない
このように、見通しが立たないと「もし〇〇だったらどうしよう」という心配が頭をよぎりやすくなり、それが行動にブレーキをかけてしまうのです。

4.過去の成功体験を振り返り、不安を乗り越えるママの声かけ
子どもが「やっぱりやめる」と言ったとき、
「せっかく来たんだから乗ってみようよ」
「大丈夫、楽しいよ!」
そんな風に励ましたくなる気持ち、ありますよね。
でも、不安が強くなっているときに「今すぐやってみよう」と促すのは、 子どもにとってはプレッシャーになってしまうこともあるのです。
そんなとき、私がかけた言葉は、「前に来たとき、バイキングに何回乗ったんだっけ?」でした。
娘はしばらく考えて、「10回くらいは乗ったかも!そして最後は1人でも乗れたんだよ!」
「ジェットコースターは?」と聞くと、
「ジェットコースターにも5回くらい乗ったよ!」と、 過去の成功体験を振り返りながら答えてくれました。
そのうちに、娘の表情が少しずつ明るくなっていくのを感じました。
不安の中にいるときは、頭の中が「怖い」「無理かも」でいっぱいですが、『あのときはできた』という記憶を娘自身が思い出し、理解することで、
「またできるかも」という気持ちが少しずつ育っていくんだと感じました。

5.不安を乗り越え、挑戦できたことで自信を育む!
過去の成功体験を思い出しながら、 娘は少しずつ自信を取り戻し、 ついに「じゃあ、バイキングに乗ってみる!」と言ってくれました。
最初はドキドキしていたけれど、 実際に乗ってみたら、「やっぱり楽しい!」という顔に変わり、 「もう一回乗りたい!」と、前回以上の笑顔で楽しんでいました。
その後は、娘の行動がぐんぐん加速していきました。
ジェットコースターにも何度も乗り、さらには逆さまになるアトラクションにも挑戦!
結果的に『すごく楽しかった!』と家族皆が満足できる家族旅行にすることができました。
不安を感じるのは、決して悪いことではありません。
むしろ、「不安を感じながらでも挑戦できた」という経験は、子どもにとってこれからの自信の土台になるものです。
今回のように、過去の成功体験を一緒に思い出しながら、少しずつ不安を乗り越えることができたのは、 まさに娘にとって大きな一歩でした。
そしてその姿を見て、私自身も「子どもが前に進む力を信じて待つこと」「小さな挑戦を見守ること」の大切さをあらためて実感しました。
家族旅行やお出かけは、楽しい思い出になる一方で、思わぬ不安や緊張が顔を出すこともあります。
でもそんなときこそ、「前もできたね」という過去の成功体験を、子どもと一緒に丁寧に思い出してみてください。
「できるかもしれない」と思えたとき、小さな自信が芽を出し、また次の挑戦に繋がっていくはずです。
お子さんが不安で立ち止まりそうになったとき、 この体験談が、そっと背中を押すヒントになればうれしいです。

執筆者: 片庭はな
発達科学コミュニケーション アンバサダー