運動会や音楽会など、学校行事で不安を感じる子どもへの対応に悩んでいませんか?この記事では、子どもの気持ちに寄り添い、一歩を踏み出す勇気を引き出す声かけのヒントをご紹介します。子どもだけでなく、親の気持ちもラクになるポイントが詰まった内容です。
1.「運動会こわい…」学校行事が苦手なわが子の様子
自閉スペクトラム症(ASD)のうちの子は、発達の特性から「いつもと違う環境」や「大人数の集まり」がとても苦手です。
そんな息子にとって、小さな頃から運動会は一大イベントでした。
当日までの練習は一生懸命取り組み、みんなと同じように上手にできるのに、いざ本番になると「こわい…行きたくない」と不安が爆発してしまうのです。
当日の朝、学校までは行くものの、いつもと違う運動会仕様のグラウンドを見ると校門から先に進めなくなってしまう。
なんとか校庭に入っても、みんなの輪に入れない。
クラスの列に並べない。
校庭の隅っこから隠れるようにして、みんなが活躍する姿をじっと見ている
――そんな子でした。
「できるのにどうして行かないの?」
「みんな普通に参加しているのに、どうしてうちの子だけできないの?」
以前の私には、息子のその行動が理解できませんでした。
いつも、そんな息子の姿を見ては、悲しみと怒りの感情でいっぱいになっていました。
運動会だけでなく、音楽会や学習発表会、学校の行事を迎えるたびに、できるのに行けない息子とそれをどうしてあげたらいいのか分からない私。
だから私は学校の行事が嫌いでした。
「息子にはきっとできないから…」そんなふうに思っていました。
だけど私が発達について学ぶことで、息子のとっていた行動の理由や気持ちが、だんだんと分かるようになってきたのです。

2.ASDの特性から学校行事が苦手になる理由
息子の困りごとを、私の手で何とかしてあげたい!私が息子の発達の専門家になりたい!
そんな想いから、発達科学コミュニケーション(発コミュ)を学び始めました。
そして、息子の様々な行動の理由がよく分かるようになってきました。
息子が大人数のイベント事を嫌がるのには、ちゃんと理由があったのです。
それは、ASDの発達特性によるものでした。
発達の特性を持つ子の中には、
✔ いつもと違う環境が苦手
✔ 急な予定変更に対応するのが難しい
✔ 見通しが立たないと強い不安を感じる
✔ 大人数や人混みがしんどい
✔ 過去の嫌な記憶を引きずりやすい
✔ 感覚が敏感で、大きな音やざわざわ感がつらい
✔ 人の目を気にして緊張しやすい
といった傾向をもつ子がいます。
こうした特性があると、運動会や音楽会といった学校行事は「普段とは違う要素」がたくさん重なるため、不安や緊張が一気に高まってしまうのです。
「できない」のではなく「できるけど、不安が強くて体が動かなくなってしまう」というのが、息子の本当の姿でした。
さらに詳しく、なぜ子どもが学校行事を嫌がるのかについて知りたい方は、こちらの記事もどうぞ。

3.環境調整と勇気づけの言葉で少しずつ参加を後押し
不安が強い息子が、行事当日を少しでも安心して参加できるように、私が心がけたのは大きく分けて2つです。
1つは 環境をととのえること、もう1つはママだからできる勇気づけの言葉です。
それについて順番に説明していきますね。
◆①不安を和らげるための環境調整
いつもと違うことが苦手な息子が、少しでも当日安心して参加できるように、見通しを立てられる準備をしました。
✔ 事前に一緒に会場を下見して座席の位置を確認する
✔ 当日のプログラムと出番を確認する
✔ 天気などの関係で延期になった場合の流れを確認する
✔ 感覚過敏があるため、大きな音や人の多さの目安を事前に伝える
これらの情報を息子と共有することで、「どうなるか分からない不安」を減らしていきました。
当日の流れや変更点をあらかじめ把握できると、息子は以前よりも落ち着いて行事当日を迎えられるようになったのです。
◆②共感する
一方で、息子の特性そのもの――大人数の行事や人前でのパフォーマンスが苦手――は、すぐに変わるものではありません。
それはこれからも息子自身が付き合っていかなければならない部分です。
その上で、どうしたら息子の「一歩踏み出す勇気」を引き出せるのか。
そこに必要なのが、ママの言葉の力です。
環境を整えた上で、ポンっと子どもの背中を押してあげられる『勇気づけの言葉』をかけてあげましょう。
「ドキドキするよね。分かるよ。そのドキドキは一生懸命な証拠だよ。」
まずは、子どもの不安な気持ちに共感して寄り添うこと。
「ママが自分の気持ちを分かってくれている」と感じることが、大きな安心につながります。
◆③今までの頑張りを思い出させて肯定する
次に、その日までの頑張りを本人に思い出させてあげます。
「今まで頑張って練習してきた姿、ちゃんと知っているよ。すごくいっぱい練習したよね。とっても上手になったよね。」
行事当日、子どもは「どうしよう」という目の前の不安でいっぱいになりがちです。
そんな時に「これまでの努力」をママが言葉にして伝えると、冷静に自分の頑張りを振り返ることができます。
「そうだ、ぼくはできるんだ」と、自信が湧いてきます。
そして大切なのは、「がんばりを出し切れればそれで十分」というメッセージを伝えること。
以前、息子の運動会で保護者代表の方が子どもたちに向けて、こんな言葉をかけてくれたことがありました。
「毎日いっぱい練習してきただろうけど、上手にやろうとしなくていい。私たち保護者は、あなたたち(子ども)が思いっきり楽しむ姿を見たいんです。だから今日という特別な1日を思う存分楽しんでおいで。」
その言葉を聞いて、私自身もハッとしました。
不安な子どもにとって必要なのは「完璧にできた」という評価ではなく、「楽しんでいいんだ」と安心できる気持ちなのだと気づかされたのです。
◆④背中を押す一言で勇気を引き出す
これまでの努力を振り返り、「楽しんでいいんだ」と気持ちを楽にした後は、最後に勇気を引き出す一言を添えましょう。
「大丈夫、ママはここで見ているよ。思いっきり楽しんでおいで。」
「最初の一歩の勇気を出してみよう。大丈夫、楽しもう!」
そんなシンプルな言葉が、子どもにとって大きな力になります。
ママ・パパの安心した表情や声かけは、「自分は大丈夫なんだ」と迷っている子どもの背中をそっと押してくれます。
ドキドキしても、その一歩を踏み出す勇気につながります。
もちろん、そのときの状況や子どもの調子によって、どうしても難しい日もあるでしょう。
たとえ行けなかったとしても、それまでの努力がなくなるわけではありません。
だけどもし「行きたい気持ちはあるのに一歩が出ない」ようであれば、ママの声かけで子どものスイッチを入れるアシストをしてあげましょう。

4.勇気の一歩が親子にくれたもの
私の息子も、運動会はこの『勇気づけの言葉』で一歩を踏み出すことができました。
朝一番は、運動会特有の雰囲気と人の多さに不安が出て、クラスに合流するまでに時間がかかりました。
でも、背中を押す一言のおかげで、息子は自分で気持ちを整え、心の準備をして、自分の足でみんなの列に走っていきました。
その後ろ姿の頼もしいこと!
そのあとは、笑顔で全行程に参加することができました。
私にとっても、息子の楽しそうに学校行事に参加している様子は、何より嬉しい光景でした。
息子の成長と勇気、そして底力を感じられた一日。
その一歩は、私たち親子にとって大きな大きな一歩になりました。
行事の日に不安が強くなるのは、ASD傾向のある子にとって自然なことです。
いつもと違う環境や人の多さ、大きな音や雰囲気の変化は、大人が思うよりもずっと負担になるからです。
だからこそ、親ができることは「大丈夫!」とただ励ますことではなく、これまでの頑張りを言葉にして認めてあげること。
「完璧にできなくてもいいんだよ」と安心できる一言をかけること。
その積み重ねが、子どもの「自分は大丈夫」という気持ちにつながっていきます。
ママの言葉で、踏み出せることがある。
ママの言葉が、わが子の安心になり、勇気になる。
ママの言葉が、子どもの未来を変える力になる。
そんな声かけのヒントに、少しでもなれば嬉しいです。
