1.学校に行くという当たり前が崩れた時、その兄弟姉妹は⁈
我が家には、中2の息子、小4の娘がいます。
娘が不登校になったのは、約2年前の息子が中学1年生になったばかりの4月でした。
私たち親もそうでしたが、学校に行くのは当たり前と思っていた息子にとって、妹の不登校は受け入れがたいものだったようです。
ことあるごとに「学校行けよ」「俺は頑張って行ってるんだ」「自分は学校に行っていないで好きなことばかりやってずるい」などと言って学校に行くよう仕向けたり…
そのころは息子にはゲームや動画に時間制限を設けていたので、妹に動画を見させないようにしたり、ゲーム機を隠すなどの意地悪をすることもありました。
このように兄弟姉妹の不登校は、子どもたちにとって、不登校当人の問題だけではなくなることを実感しました。
子どもたちは、大人になるまで家族という小さい社会の中で育っていきます。
育つ途中で、学校に行くという世の中の当たり前が崩れたら、家族の将来にどのような影響があるのでしょうか?
今回、ご自身のお兄さんが不登校を経験したMさんという女性と知り合いました。
Mさんは、家族そしてご自身もお兄さんの影響を最も受けた人生を歩んでいます。
その時の経験が、今の仕事に活かされているとおっしゃるMさんに、お兄さんが不登校になった時の気持ち・葛藤、その後の人生についてインタビューしました。
2.不登校は「悪」という先生・世の中の考え方との葛藤
Mさんは、我が家の子どもたちと同じ兄と妹という兄妹構成で、お兄さんとの年の差は4歳です。
お兄さんが不登校になってMさんやご家族はどんな想いだったのでしょうか。
この章では、ご家族のその時の状況やMさんの気持ちなどを伺っていきます。
―――お兄さんが不登校になった経緯を教えていただけますか?
「兄は、中1の1学期にいじめなどつらいことがあって、夏休み明けから不登校になりました。私が小3のときです。」
―――Mさんは学校に行かなくなってしまったお兄さんをどう思っていましたか?
「やっぱり『学校は行くものだから』『学校に行かないことはよくないことだから行ってほしい』という気持ちはありました。
それよりも兄は、学校に行けないストレス、将来への不安、いじめられたくやしさ、苦しさを友達にぶつけることができないなどのネガティブな感情を、全部暴力で家族にぶつけるタイプだったんです。
私は、もちろん不登校への葛藤もありましたが、家庭内暴力をする兄は恥ずかしい・困った存在という思いでいました。」
―――不登校から家庭内暴力に⁈大変なご苦労をされたのですね…ご両親は無理やり学校に行かせようとしてお兄さんが荒れてしまったのでしょうか?
「今から20年以上も前のこと、不登校への理解が周りにはまったくなく、さらに不登校は悪いものという意識が両親にはあり『行かせなきゃ』という気持ちがあったようです。
私からすると両親は、兄に対して一生懸命対応していました。
でも、学校や社会から見たら不登校は悪いもので、不登校になるのは親の育て方が悪いといわれていた時代でした。
私は、事情を知らない人から見たら、『親の育て方が悪かった』と言われるんじゃないか、という悔しい思いが小学生ながらにありました。
『両親を悪く思われたくない』『私が兄の分も頑張れば親の育て方が悪いと言われないのではないか』その思いが私を学校に向かわせ、『ほかの子よりも頑張らなければ、学校や周りは認めてくれない』と気持ちを奮い立たせていた感じですね。
そのような状態が10年以上続きました。」
―――家庭内暴力が10年も続いたのですか!!よくMさん頑張って耐えてこられましたね…そうなると不登校だし暴力はあるしお兄さんはもう大嫌い!では言い切れない感情が渦巻いていたのではないですか?
「もう嫌いという次元ではないですよ。嫌いだけど嫌いになりきれない、捨てきれないなんとも言えない感情でしたね。
正直にお話すると、『なんで私にはこんな兄がいるんだ』『いなくなればいいのに』とずっとずっと思っていました。
兄としては大嫌い、でも兄も兄なりの事情があったのは理解できる。
だから人として見たときに嫌いになりきれない。本来は優しい性格なのも知っていましたから…
これが兄妹というものなのでしょうかね…」
―――
嫌いだけど捨てきれないなんとも言えない感情こそが、兄妹愛なのかもしれません。
仲良く遊んでいた思い出もあるので、余計になんとも言い難い感情だったとも話されていました。
自分を理解してくれない学校、社会へのお兄さんのやり場のない怒りが、家族に向いてしまった…そんなお兄さんと同じ環境で過ごしたMさん。
影響を受けないはずがありません。
しかし、そのころはまだ小学生・中学生だったMさんは、お兄さんに対して複雑な気持ちを抱きながら一緒に過ごすしか選択肢はありませんでした。
このような環境で多感な時期を過ごしたMさんは、このころから人の心理や不登校について考えるようになったそうです。
その後、お兄さんとの関係はどうなったのか次の章で伺っていきます。
3.お母さんが動き出すきっかけを与えた
―――お兄さんはその後どうされているのでしょうか?
「兄は、中学はそのまま行かず、両親が高校(定時制)を探して通うようになりました。
しかし、通いながら嫌なことがあると発散の方法が、金銭的なことになり、お金をせびる、家庭内暴力とその時は完全に負のループでした。
でも安心してくださいね。
兄が20歳過ぎて始めたバイトでようやく人間関係にも恵まれ、認められて、今はそこの会社で正社員として働いています。
――今は暴力も落ち着いて働いているのですね。本当に良かった!!お兄さんが今働いている職場はアルバイトから始めたそうですが、「働こう」と思ったきっかけは何かあったのでしょうか?
「母は専業主婦でしたが、兄に刺激を与えることをしてみようと内職を始めたのです。
その内職を兄と私も手伝っていたのですが、結構大変で…3人が1時間働いても100円にもならないくらい。
そんな状況に兄が『ばかばかしい。俺が働くから内職はやめたほうがいい』と言ってバイトを始めたんです。
後々、兄はあの時の内職がきっかけで働くようになったと母に話しています。」
―――10年見守り続け、ようやくお母さんの作戦がお兄さんに立ち直るきっかけを与えたのですね!
「そのころ兄は『「働かないといけない』『でもこんな自分は働くことはできるのか』」という葛藤があったと後に話していました。
暴力がだいぶ落ち着いてきて、母がタイミングを見極めたことが良かったのかもしれません。
暴力がひどい時には無理だったと思いますね。」
―――
内職からお金を稼ぐ大変さと、お母さんや妹に苦労をかけていることに、気が付けたお兄さん。
お兄さんが、今も家庭内暴力があるのではないかと心配しましたが、落ち着いて、働いていると聞いてほっとした読者もいらっしゃるのではないでしょうか。
お兄さんとMさんは現在、別々に暮らしていて、たまに会うと罪滅ぼしの気持ちがあるのか、Mさんの気持ちを第一優先に考えてくれるそうです。
これから、Mさんもお兄さんへのわだかまりがだんだんとほぐれていくことでしょう。
お母さんが、お兄さんのことをあきらめず、観察しタイミングを見極めて刺激を与えたことで、お兄さんは動き出すことができました。
お母さんが長い立ち直り期間に終止符を打ったのです!
家族という小さい社会の中では、子どもと接する時間が多いお母さんが与える影響は大きいことがわかりますね。
4.経験者の話から学んだ子どものこころ
今回、お兄さんが不登校経験者で妹の立場から見た、不登校のとらえ方や兄妹への想いを伺って、不登校が兄弟姉妹の心をとても揺さぶる問題ということがわかりました。
私も娘が不登校になり、兄妹一人一人に向き合って理解することが大事だと気が付き、インタビューで改めて、息子の気持ちを考えるようになりました。
息子は何かを不満に思っているとき「ずるい」と気持ちを表現するタイプで、何かにつけ「妹はずるい」といっていました。
その気持ちは悪くないと受け止めます。
不満に思うことを話してくれた時には「そうなんだね」「そうだったんだね」と否定せず聞き、最後に「気持ちを話してくれてありがとう」と伝えると、お母さんは安心して話せる人と認識され、次もなにかあると話してくれるようになったのです。
このように息子の気持ちを聞きながら妥協できる点などをすり合わせたり、自分で考えて選択した納得した、と思う会話を重ねていきました。
子どもとしてではなく一人の人として、気持ちを受け止め、対話をすることを心がけています。
妹が学校に行っていないことに関しては「妹は学校に行かないことを選んだけれども、お兄ちゃんも学校がつらくなったら話してね」と、伝えていました。
すると私には、気持ちを打ち明けても平気と思ったようで、学校であった嫌なことなども話してくるようになり、息子との関係が良好になりました。
こうして娘だけでなく息子にも対応を変えたことで、不登校によってギスギスしていた兄妹関係がだんだんと丸くなってきたのです。
Mさんのお話が、ちょうど兄妹関係に悩んでいた我が家に、息子のこころの理解とそれまでの子どもとの接し方を改めて考えるきっかけを与えてくれました。
親は不登校という問題に立ち向かうだけでも大変ですが、それと同時に兄弟姉妹に影響が大きいと心にとめ、日々のコミュニケーションを大事にしたいですね。
後編では、Mさんが運命的な仕事と出会い、ご家族の不登校経験をどう活かしているのか、ご家族の関係など、家族の絆について考えるきっかけとなるお話を伺っていきます。
後編はこちら『運命的な仕事との出会い。不登校の子どもたちをサポートする先生のお兄さんは元不登校。~不登校のご家族インタビュー後編~』
執筆者:渡辺くるり
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
子どもたちそれぞれと良好なコミュニケーションを築く方法はこちらにあります!