「発達検査の事前準備シリーズ」その3。受ける前に担当の医師や心理士に言ってほしいことのご紹介です。発達の検査内容から、具体的な支援策につなげられる情報をゲットするには、検査前の伝え方が大事です。どのように伝えればいいの?が解決しますよ! |
【目次】
1.発達障害の心理検査でわかる「能力のデコボコ」とは?
2.発達の検査や診断を受ける前に言っておくべきことを、的確に伝えるには?
3.医師に困りごとベスト3を伝えて、子どもにぴったりな検査をしてもらおう!
4.まとめ
1.発達障害の心理検査でわかる「能力のデコボコ」とは?
心理検査と言うと、テレビ番組でやっているような「直感で好きな絵を選んでください。あなたの心理状態を当てます!」こういったテストを思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。
もちろん、発達障害を疑って行う心理検査は、こういう類の検査ではありません。
発達状態を知るための検査は、背景理論があり、統計学的な裏付けがあり、世界各国で標準化されている信頼性のあるものです。
「標準化」とは、検査の実施方法が細かく決められていること。どこで受けても信頼性のある結果を得るために、厳密に検査の方法が整えられているんです。
また、各国の文化に合わせて設問が工夫されていたり、各国の各年齢の子どもたちの平均値が事前に調べられていたりするので、結果の数値に意味があります。
普通級に在籍している軽度発達障害やグレーゾーンの子どもは、「能力のアンバランスさ」が特徴です。
IQの値が1個だけポン!と出て終わりの検査ではなく、IQも出るけど能力別にも数値が出てくる検査が適しています。
それが、「ウェクスラー式検査(WISC)」や「K-ABC」などの検査です。
軽度発達障害やグレーゾーンの子どもは知能は平均的ですから、IQを知っただけでは支援の情報が十分には得られません。
むしろ、
・勉強はよくできるのに、友達との関係を築くことができない
・算数はよくできるのに、漢字が全然覚えられない
・人との関係づくりは大好きなのに、授業中じっと座っていられない
このような「能力のアンバランスさ」によって、不適応を起こしている状態を把握する。 そして、発達支援の方向性を考えていく資料にするために心理検査を行います。
ですから、検査結果のデコボコを知ることは、発達支援のヒントになることが多いのです。
支援の基本は、「○○が弱い(ボコ)から、強い□□の力(デコ)を使って指導する」という方法。
検査を受ける前は、正常域の数値が出てくるかどうか、心配になるかもしれません。実際、数値をみてホッとする、ということも現実にはあるでしょう。
でも、そのあとは「デコボコ」が大事です。もしも、検査結果の数値しか教えてくれない先生がいたとしたら、「あ〜、検査を生かしきれてないな」と思ってください。
心理検査は、困りごとの迷路から脱出するための有効なツールです。迷路を上から見れば、脱出の方法がわかりますよね?それと同じです。
能力の全体像を客観的に見ることで、出口に繋がるヒントに出会えるのです。IQの値だけでは、能力の全体像は見えません。
デコボコを見せてもらうことがポイントなのです。 発達検査を受けて終わり!ではなく、その後の支援に生かすための方法についてお伝えしていきます。
2.発達の検査や診断を受ける前に言っておくべきことを、的確に伝えるには?
せっかく検査を受けるのであれば、困っていることの解決法を知りたいですよね。繰り返しますが、そのためには、能力のデコボコを知ることが大事です。
ですから、「検査を受けて、この子の能力のデコボコが知りたいです。」と言っておくことは有効です。
でもですね、これで十分通じる先生だけではないかもしれません。
言葉が遅いから検査を受けているのに、「言葉が遅いですね」なんて言われて終わり…
はぁ?
こんなことにならないためにオススメするのは、事前に「困っていることランキング1〜3位」を担当の医師や心理士に伝えておくことです!
そして、
「この3つがどうして苦手なのか、検査結果から分かることがあれば教えてください」
と伝えておきましょう。発達のデコボコを見て分析しよう!と思うはずです。
3.医師に困りごとベスト3を伝えて、子どもにぴったりな検査をしてもらおう!
心理検査の種類はた〜くさんあります。多くの場合、事前にお話をお伺いして、医師や心理士がその方の症状や困りごとに合わせて複数の検査を選びます。
例えば、ウェクスラー式検査やK-ABCは優れた総合的な検査ですが、「書字」の検査項目は含まれません。
ですから、書字障害が疑われるような場合などは、別の検査を組み合わせる必要があります。
検査結果を総合的に分析すると、
① 書字の発達が本当に遅れているのかどうか?
② 遅れているなら、どの程度遅れているのか?
③ 書字が苦手な背景となっている認知能力のアンバランスがあるか?
などを知ることができます。支援のヒントになるのは③ですよね。
例えば、視覚認知(形や位置関係を見る力)が弱いという特徴がわかれば、その情報は即支援に結びつきます。見ても分からないのだから、
・手本やプリントを見やすくしよう
・(聴覚認知がいいなら)聞いて分かるように教えよう
・見ることのトレーニングをしよう
などの対策が次々と浮かんできます。
このように、主に困っていることを3つ伝えてその原因を知りたいと伝えておけば、検査する方としては、
「適切な検査を選んで、能力のデコボコを知り、苦手な認知能力を突き止めよう」というふうに頭が働くはずです。
実はこれ、「3つ」というのがポイントです。
片っ端から苦手なことを伝えたり、山のような困りごとを伝えたりしても、相手も人間です。整理しきれなくなってしまいます。
そうすると結局のところ、「なんか沢山あるみたいだから、とりあえず基本の検査をしておこう」みたいなことになる…かもしれないんです。
1度にできる検査の量は限られています。だから、あなたのお子さんにぴったりな検査の組み合わせを考えてもらう必要があるわけです。
あれもこれも話してもいいのですが、最終的には、解決したい問題をフォーカスしておくことが重要です。
ですから、困っていることのランキングを1〜3位まで決めて行ってください。もちろん、現時点での1〜3位でいいのです。
発達支援がうまく行けば、そのランキングはどんどん変わってきます。そのランキングが変わっていくこと自体が「お子さんの成長」です。
ランキングをご自分で決められなければ、担当の医師や心理士と決めてもいいかもしれません。
「何から手をつけるべきですか?」と相談すれば、取り組むべき優先順位を示してくれると思います。
ちょっとしたことですが、家族と支援者が、優先順位を共有しておくことは、より良い結果を生むことに役立ちますよ!
4.まとめ
いかがでしたか?
お子さんに発達検査を受けさせる場合に、事前に準備しておくべきことを3つの記事に分けて説明しました。
・医師に確認したいポイントは何か?
・病院や教育センターに発達支援のプログラムがありそうな時に伝えるべきことは?
・お子さんの発達レベルに合う支援プログラムがなさそうな時に伝えるべきことは?
・検査の際に、医師や心理士、言語聴覚士の「プロの本気」を引き出す方法
・発達検査の際に見落としがちな視点
について詳しくお伝えました。ぜひ、3つの記事をセットにして読んでいただき、納得のいく発達支援につなげてくださいね。
執筆者:吉野加容子
(発達科学コミュニケーショントレーナー、学術博士、臨床発達心理士)
(発達科学コミュニケーショントレーナー、学術博士、臨床発達心理士)