「漢字をなかなか書かない」と悩んでいませんか? 実は、字を書くことには見る・覚える・手を動かすなど、色々な脳の働きが関係しています。 「書きなさい」と促すのではなく、子どもの「好き」を入り口に、「書きたい!」を引き出す関わり方をお伝えします。
【目次】
監修者:吉野加容子
発達科学コミュニケーション創始者/パステル総研主宰/発達科学ラボ代表
脳科学をベースに、発達障害・発達グレーゾーンの子どもの発達支援を専門とする。広島大学教育学部卒業後、東京学芸大学大学院修士課程、慶應義塾大学大学院博士課程で学び、民間企業での脳科学研究、医療機関での発達支援、大学での教育に従事。
15年以上にわたり発達に悩む親子と向き合う中で、「子どもの発達を本当に伸ばすのは、家庭での365日の関わりである」という結論にたどり着く。
病院や学校だけでは支援が届きにくい発達グレーゾーンの子どもたちに対して、家庭で再現できる支援を確立するため、脳科学・教育学・心理学を融合した独自メソッド「発達科学コミュニケーション」を開発。
これまでに数多くの親子の変化を生み出し、“ママが変われば子どもが変わる”という発達支援の新しい当たり前を広げている。
著書に『発達障害とグレーゾーン 子どもの未来を変えるお母さんの教室』『脳を育てる親の話し方』『脳が喜ぶ子育て』など。
1.「書くのが好き」だった息子が、鉛筆を持たなくなった
幼稚園で「ひらがな」の宿題が始まった頃は、文字を書くことを楽しんでいました。
ところが、「お手本通りに書く」ことや「間違えたら書き直す」という経験が増えるにつれて、少しずつ鉛筆を持つ時間が減っていきました。
小学校へ入学すると、連絡帳は真っ白。ノートもほとんど書いてこない日が続きました。
以前は書くことを楽しんでいた息子がいつの間にか鉛筆そのものを避けるよういなっていました。「どうして書けないんだろう」そんな思いで見守る毎日が始まりました。
2.字を書かない発達障害への親のNG対応
◆「書きなさい」と書かせようとしていた
私は、なんとか鉛筆を持ってほしくて、好きな人物の名前なら書けるかも入れない、漢字パズルなら楽しめるかもしれない。そう思っていろいろな方法を試しました。
それでも、漢字の再テスト前になると、できるようになるまで書かせようとしていました。 すると息子はますます鉛筆を持ちたがらなくなり、鉛筆を投げたり、芯を折ったり 逆効果になってしまいました。
◆「書かない子」ではなく書ける条件があった
私はずっと「書かないこと」にばかり目を向けていました。 でもよく見ると、息子はまったく書けないわけではありませんでした。
実際には、「筆ペンなら書く」「好きな色のペンなら書く」「クリスマスにはサンタさんへ手紙を書く」「お手伝いのご褒美なら金額を書く」
つまり息子は「書けない子」ではなかったのです。 書きたくなる条件がそろえば、自分から書く子だったのです。 私はそのサインを見逃していました。
3.漢字を「書きなさい」では書けるようにならないワケ
字を書くときこんな力を使っています。
見る力→文字の形を正確にとらえる、「へん・つくり」の位置関係をみる
覚えておく力(ワーキングメモリ)→お手本を見る、覚える、手元に戻して書く、次の字を思い出す。この繰り返しでワーキングメモリに負担がかかる
手を動かす力→鉛筆を持つ、力加減を調整する、線を止める・曲げる・払う 目と脳と手の協調が必要
注意・集中→書く場所を間違えない、書き順や形を意識する、途中で気がそれても戻る
言語・文字の処理→音と文字を結びつける、漢字の意味や構成を理解する
だから「漢字は読めるのに書けない」ということが起こります。
「読む」と「書く」は、同じ文字を扱っていても必要な処理が違うので 読むときは、目から入った情報を認識して意味につなげます。
一方、書くときは文字を思い出し、形をイメージして手を動かし、位置を調整するなど、複数の処理が必要になります。
そのため、書くことに苦手さがある子にとっては、何度も書く練習をすること自体が大きな負担になることがあります。
なので、鉛筆を見るだけで「また失敗するかもしれない」「書き直しになるかもしれない」と感じる経験が続くと、不安になることもあります。
必要なのは、書く練習を増やすことではなく、「書いてみようかな」 と思える体験を増やすことが大切です。
4.「書きたい!」が生まれた関わり方
◆書けない理由を知り、できていることを見る
私は、「鉛筆を持たない」ではなく、「質感の違う物」なら書いている。ということに注目しました。
「筆ペンなら書く」「好きな色のペンなら書く」 というできている姿を見るようになりました。
すると、息子は「書けない子」ではなく、「条件が合えば書ける子」だと気づきました。
◆好きなことを入り口にする
私は「書かせよう」とは考えず、まず息子の好きな刀や刃物を使った作品作りを始めました。
私が楽しそうに彫刻刀で彫っていると、「やってみたい!」と興味を持ちました。 そして完成した作品を裏返し、突然「名前を書く」と言い出しました。
「この字どう書くの?」「お手本書いて」と文字を書くよう促したわけではないのに、 自分から書き始めたのです。
◆「書かせる」ではなく「書きたくなる環境」をつくる
文字だけを練習するのではなく、工作を楽しむ。作品を完成させる。
そして最後に「名前を書きたい」そんな流れをつくることで、書くことが目的ではなく、 「伝えたいから書く」へ変わっていきました。
おわりに
以前は、「どうしたら書くようになるのだろう」と考え「書きなさい」と言っていた私でしたが、書けないことばかりを見るのをやめ、「どんな時なら自分から書くのか」を観察するようになりました。
大切なのは無理に書かせることではなく、「書きたい」と思える環境を育てることだと思っています。
子どもは、安心できて、好きなことに夢中になれる環境の中で、少しずつ自分から挑戦し始めます。
お子さんは「どんな時なら書きたくなるんだろう?」と探してみませんか?
子どもの対応に悩んだらこちら!
執筆者:桜井 ゆう
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)