年長になってもペンを持ちたがらなかったわが子。「練習させないと」と焦っていた私が注目したのは、書く力ではなく『書こうとできる状態』でした。関わり方を変えたことで起きた変化を、実体験をもとに綴ります。
1.ペンを持ちたがらない6歳児で、こんなことに困っていませんか?
- 6歳になっても、ペンを持ちたがらない
- お絵描きや文字を書く時間になると、急に黙ってしまう
- 「書いてみようか」と言うと、手が止まる
- いざペンを持っても、少し線を引いてすぐやめる
- 幼稚園でもひとりではやりたがらないと言われた
周りの子は、ひらがなを書いたり絵を描いたりしているのに、うちの子だけ、なかなか進まない。
「まだ早いだけ?」「このままで大丈夫?」そんなふうに思いながら、声をかけて、待って、見守って。
それでも変わらない様子に、心のどこかで小さな不安が積もっていませんか?

2.「練習すれば書ける」は本当だと思って、焦っていたあの頃
うちの子は、年長の6歳になってもペンをほとんど持とうとしませんでした。
小さい頃からじっと座ってのお絵描きは苦手で、外遊びが大好きなタイプ。
幼稚園でも、
「お制作やひらがなの時間は、手伝ってあげないと自分ではなかなかやろうとしません」
「おうちでも、ペンを持つ練習をしてみてください」
そう言われるたびに、少しずつ不安が大きくなっていきました。
当時の私は、「書けないのは、練習が足りないだけ」そう思っていました。
書くことは、慣れればできるようになるもの。
今は嫌がっていても、続ければそのうち大丈夫。
そう信じていたからこそ、
- いつでも手に取れるように道具を用意する
- 書きやすそうなペンを選ぶ
- 少しでも描けたら褒める
- 好きなキャラクターのノートを用意する
できることは、ちゃんとやっていたつもりでした。
でも実際には、ペンを出した瞬間に手が止まり、視線が泳ぎ、何も言わずに固まってしまう。
「どうして書こうとしないんだろう」
「やる気がないのかな」
そう思いながらも、心の奥ではこんな不安が離れませんでした。
このまま、小学校に上がって大丈夫なのかな。
だから私は、「今のうちに」「少しでも慣れさせないと」と焦りを抱えたまま、「正しいと思っている関わり」を続けていたのです。
でも今なら、はっきりわかります。
あのとき私が見ていたのは、「できるか・できないか」だけ。
その前にある書こうとする以前の状態には、ほとんど目が向いていませんでした。

3.書けなかった理由は、書く力の問題ではなかった
今なら、はっきりわかります。
ペンを持ちたがらない理由は、子どもによってさまざまです。
手先の操作が難しかったり、姿勢を保つことが苦手だったり、感覚の違和感が影響していたりすることもあります。
我が家の場合は文字の形を知らなかったからでも、手先が不器用だったからでもありませんでした。
その前に、安心して「やってみようかな」と思える状態に入りにくかったのだと思います。
ペンを出した瞬間、子どもの中ではもう「書く」以前のことが起きていました。
- 間違えたらどうしよう
- 変だと思われたらどうしよう
- 上手にできなかったらどうしよう
頭で考えているというより、体が先に固まってしまうような感じです。
この状態では「やってみよう」という気持ちが出てきません。
私が見ていたのは、ペンを持たない姿、止まってしまう行動。
しかし、本当に見なければいけなかったのは、その行動の手前にある状態でした。
評価される不安。
失敗を避けようとする緊張。
見られているというプレッシャー。
これらが重なった状態でペンを持つことは、子どもにとって「挑戦」ではなく「負担」になっていたのだと思います。
だから、どれだけ優しく誘っても、どれだけ励ましても、行動は増えなかった。
足りなかったのは、声かけでも練習でもなく、安心して始められる状態でした。

4.私が変えたのは、書かせ方ではなく「見るタイミング」
私が最初にやめたのは、「書かせよう」とすることでした。
ペンを持たせる。
文字を書かせる。
最後までやらせる。
そういう目標をいったん全部、脇に置きました。
代わりに意識したのは、ペンを持った「その瞬間」を見ること。
描き終わったあとではなく、上手に描けたかどうかでもなく、ペンに触れたとき、線を引き始めたとき、そのタイミングで声をかけるようにしました。
「なに描いてるの?」
「それ、〇〇みたいだね」
上手・下手の評価ではなく、ただ興味を向ける。
すると、途中でやめても、線が曲がっても、止める必要がなくなりました。
描いたものは、選ばず、比べず、すべて壁に貼りました。
「うまく描けたから貼る」のではなく、描いたという事実をそのまま残す。
気づけば、壁は息子の作品だらけ。
それは、絵が上手になった証拠ではなく、「表現しても大丈夫な場所が家の中にできた」ということでした。
そして「始められたこと」に注目するようになると、不思議なくらい少しずつペンを持つ時間が増えていきました。

5.ペンを持ち始めた理由は、安心が先にあったから
ペンを持ち始めたのは、練習を重ねたからではありません。
「書くことが得意になった」からでも「やる気が出た」からでもありません。
その前に、安心して始められる状態が先に整った。
評価されない。
比べられない。
失敗しても止められない。
そうした状態の中で、子どもは初めて「やってみよう」と動けます。
私がやっていたのは、行動を増やすことではなく、行動が出てくる「入口」をつくることでした。
そして、この入口は特別なテクニックがなくても、大人の見方ひとつで変えられます。
- 「できたか」ではなく「始められたか」
- 「上手だったか」ではなく「安心して取り組めていたか」
この見方の違いが、子どもの行動を長い目で見て大きく分けていきます。
ペンを持たなかった6歳児は、「できない子」ではありませんでした。
安心して取り組める状態に入りにくかっただけなのかもしれません。
行動は整った状態の“あと”に必ずついてきます。
今日子どもが「ちょっと安心していたな」と感じたときはどんなときでしたか?

執筆者:栗原あかり
発達科学コミュニケーション トレーナー





