1.「主語がない」「会話が続かない」…ASDの子どもとの会話、困っていませんか?
「いきなり話が始まる」
「主語がない」
「何の話か分からない」
ASD(自閉スペクトラム症)傾向のある子どもと会話していて、こんな経験はありませんか?
「ゲーム…」
「ご飯…」
どんな意味?と聞き返すと「もういい!」と不機嫌になってしまう。
ママは悪気がなくても、「分かってあげられない自分がつらい」と感じてしまうこともありますよね。
ASDの子どもたちは、言葉で思考を整理する力や、相手の立場を想像する力がまだ発達途中であるため、会話でつまづくことがあります。
でも、「話せない」「伝わらない」背景には、ちゃんと理由があります。

2.なぜASDの子どもは“主語がない”話し方をするのか?
(1)頭の中で完結してしまう
ASDの子どもは、自分の中の世界がとても鮮明です。
そのため、話す時に「相手は知らないかもしれない」という視点を忘れてしまうことがあります。
たとえば「昨日の公園のブランコが…」の主語が抜けて「こわれてた」とだけ言ってしまうのは、本人の中では状況が完全に見えているからです。
(2)会話の「文脈」をつなぐのが苦手
会話を成立させるには、「誰が」「何を」「どうした」という構造を頭の中で整理する必要があります。
しかし、ASDの子どもは、情報処理を一つずつ丁寧に行うため、一度に複数の情報(主語・述語・目的語など)をまとめるのが難しいことがあります。
(3)不安や緊張で言葉が出にくい
不安が強い子どもでは、「話す」こと自体がストレスになることも。
場面緘黙のように、安心できる相手・場所でしか言葉が出てこないケースも少なくありません。

3.筆者の体験:主語がない息子との“すれ違い”
私の息子もASDと場面緘黙の特性を持っています。
家では話せても、学校や初めての場所ではほとんど話せません。
ある日、息子が「ゲーム…」とだけ言いました。
「ゲームがどうしたの?」と聞くと、「ママ、なんで分からないの!もういい!」と怒って部屋にこもってしまいました。
彼の中では「ゲームのデータが消えたから悲しい」が伝わっているつもりだったのです。
でも、主語も状況説明もないので、親には分かりません。
この“ズレ”は、親子の関係をぎくしゃくさせる大きな原因になります。

4.親と周囲の大人ができる実践ステップ|ASDの「主語がない/会話が苦手」への具体対応
◆聞き方の基本:「誰が?」をやさしく確認する
主語が抜けやすい子どもには、「誰が?」を確認する質問を習慣にしましょう。
「誰がやったの?」「何が起きたの?」と、穏やかに聞くことで、子どもの思考を整理しやすくなります。
ポイントは、“責めずに聞く”こと。
「また主語がないよ!」ではなく、「誰のお話かな?」と笑顔で聞き返すのがコツです。
◆チャンキングを使って“会話のかたまり”をほぐす
私が実践して効果を感じたのがチャンキング(chunking)です。
これは、一つの言葉(かたまり)を少しずつ分けて質問し、具体化していく方法。
例えば、息子が「犬がほしい」と言った時は、こう進めます。
・「どんな犬がほしいの?」
→「カワイイ犬」
・「カワイイ犬と何がしたいの?」
→「散歩したい」
・「なんで散歩したいの?」
→「だって学校から帰っても暇なんだもん」
こうして“かたまり”を丁寧にほぐしていくと
「寂しくて、誰かと一緒に過ごしたい」という本音が見えてくるのです。
◆家庭でできる主語トレーニング
1日1分の主語トレーニングをおすすめします。
親子で「誰が」「何を」「どうした」を使った文を作ってみましょう。
例:
・「ぼくが洗濯を手伝った」
・「ママがカレーを作った」
・「パパが公園に行った」
慣れてきたら「どうして?」や「その時どう思った?」も加えて、会話の幅を広げます。
ゲーム感覚でやると、子どもも楽しめます。
◆話しやすい環境を整える
ASDの子どもが会話に集中できるのは、「安心できる環境」があるときです。
・テレビや音の刺激を減らす
・話す前に「今からお話タイムだよ」と予告する
・ジェスチャーやカードを使って伝えてもOKにする
など、子どもが“話す準備”を整えられる環境づくりが大切です。
◆学校・支援者との連携
家庭での状況を学校にも共有しましょう。
「主語が抜けやすい」「緊張すると黙ってしまう」と伝えておくだけで、先生の配慮も変わります。
先生や支援員にお願いしたいポイント:
・「分からなかったら“誰の話かな?”と優しく聞く」
・「子どもが話しやすい表現を探す(図やカードを活用)」
・「失敗しても“伝えようとしてくれてありがとう”と認める」
家庭と学校で言葉の使い方をそろえることで、子どもが安心して会話できるようになります。
◆継続のコツ:焦らず“できた瞬間”を見逃さない
ASDの子どもは「うまく話せた」という経験が少ないため、できた瞬間をしっかり褒めることが、継続のカギになります。
「今の言い方、とっても分かりやすかったね!」
「主語をつけて話せたね!」
この“できた体験”が、次の会話への意欲につながります。
焦らず、少しずつ積み重ねていきましょう。






