1.子育てと会社経営のサポートが同時進行中
「なぜ子どもは働けないの?」と義務教育中のお子さんに言われたらみなさんは、なんと応えますか?
「今は、社会人に必要なことを学校で学んでいるのよ」など、まず今は勉強する時期ということを伝えようとするのではないかと思います。
実は、子どもが働けないということはありません。会社を作ることも、親子起業というスタイルを取れば可能なのです。
子どもが働ける会社がないなら“自分で作る!”と、12歳で親子起業をして㈱クリスタルロードを設立した加藤路瑛さんは、人より先に社会人に必要なことを社長になって学んでいます。
前回の記事では、社長になったお子さんのお母さんはどんな人なのか、叶えたい未来を創造するお子さんのチャレンジを止めない親の視点と会話について、お母さんの咲都美さんにお話を伺いました。
12歳で起業した親子の会話はここが違う!叶えたい未来を創造する子どものチャレンジを止めない親の視点~12歳の加藤路瑛さんと親子起業したお母さんの咲都美さんインタビュー前編~
お子さんが一般的にはまだ学校で学んでいる年齢で、親子起業をして、子育てと会社経営のサポートが同時進行の咲都美さん。
後編では、どのように咲都美さんが、お子さんと会社を成長させていらっしゃるのか、お子さんのやりたい気持ちを伸ばす大人の関り方について伺っていきます。
2.私よりも「色々できるじゃない!」
ーーお仕事の内容についてお聞きします。咲都美さんの会社での業務はどのようなことをされているのでしょうか?
「私は彼の雑務的なマネージャーや秘書みたいな業務です。彼は『記憶をキープできない』と言っていて、人の顔と名前が覚えられないですし、約束したことも忘れがちです。
スケジュール管理をして『これやってないのではないですか?』『これをそろそろ決めないと』などのリマインダー機能です(笑)
勉強に関してもそうです。彼は、通信制高校のN高に在籍していて、たくさんの課題には期限があります。
毎日やらないといけない状態なので『やりなさい』ではなく『そろそろやったほうがいいのではないですか?』『何日が締め切りだけど大丈夫?』と伝えます。公私ともに秘書ですね。」
ーー会社での役割は、自然と決まっていった感じですか?
「会社の方針や、アイデアを出すなど、一緒に『あーでもない、こうでもない』と話しながら決めることが多いです。
起業当初は12歳、会計、振込などお金周りのことは、私の中の勝手な思い込みでわからないだろうと『会計はお母さんがやるね』とやってしまったのです。
しかし彼のほうが数字は強くて、会社の仕入れに関する話だと、私は何でも多目に買ってしまおうとするタイプですが、彼の場合、そこはシビアに必要な分だけこれだけを買っておくというタイプで、しっかりしています。」
ーーお互いにフォローし合いながら進めていらっしゃるのですね。一般的には12歳ですとまだまだできないことが多いというイメージですが、起業されてみて大人にしかできない業務はあったのでしょうか?
「未成年だとできないお金周りの部分は、私の名前を使わざるを得ないこともありましたが、それ以外は基本的には“無い”ですね。
一緒に起業してから自分にできないことを息子ができるということを、たくさん目の当たりにして、本当に“親と子どもの関係じゃないな”ということは思いました。
親子関係だと、部屋が汚かったら『片付けなさい』『食べたものを片付けてよ』とか、親だからこそのしつけ的な上下関係ができてしまいますよね。
やはり社会に出た時と言うのは、“親子関係”ではうまくいかないことが多くて、むしろ私よりも『色々できるじゃない!』とそれぞれのできる能力をリスペクトする気持ちがあってこそだと思います。」
ーーお子さんのことをそういう風に言えることが、素敵です。咲都美さんから見て、どんなところが路瑛さんは自分よりもできるなと思うところですか?
「社長業をしているので外向けに自分の目指す世界とか、会社のビジョンを語るためにメディアに出たり、講演会で人の前で話したりする姿を見ると“すごい能力だな”と思います。
緊張しているという割には、そういう場では堂々とやるのですよ。私はマイクを持つ手が震えてしまって…(笑)」
ーー自分でちゃんとスイッチを入れることができる。そういうところがすごい能力ですよね。
咲都美さんは、何事もやらせよう、頑張らせようとやっきになるのではなく、会社経営・社会人に必要なことのスケジュール・お金の管理は、お互いに苦手だからフォローしあって進めていかれています。
この姿勢が、子育てにも起業にも大切なのかもしれません。
3.子育てと親子起業がうまくいく秘訣
さらに子育てのヒントにもなる、親子起業がうまくいく秘訣を伺っていきます。
ーープレゼンの内容や会社経営に関しても路瑛さんが考えるのですか?
「全てが彼と言うわけではなく、一緒に考えることが多いですね。
起業当初からプレゼンは、親子でブラッシュアップをずっとやってきています。3年経ちましたけど、様々な経験を蓄積してそれを元に作っているという感じです。
彼は慎重派で、誰にも聞かずにやるということはなく、きちんと確認するというステップを踏んで、物事の結論を出すタイプです。
会社を立ち上げる時に、どういう世界を目指しているのか、ビジョンをしっかり固めてやったほうがいいというアドバイスをいただいているので、2人共通の目指す世界観を落としどころとして持っています。
時々、お互いの意見がかみ合わないということはありますが…。
しかし、そこは彼の会社なので最終的には彼に『決めて』と言い、彼が決めたことを実行するというスタンスにしています。」
ーーここが子育てと経営がうまくいくポイントですね。親の意見を押し付けてしまっても違うと思いますし。
「これがまた私や主人が経営のプロだったら違うと思うのです。経営の経験もない、たかだか彼よりも30年くらい多く生きているだけの中で、出せる知識や知恵は大したことはなくて…。
やはりそこは彼のやりたいと言ったことや、決断のほうがたぶん正しいと思っています。
親子ではなく社長が決めたことに従います、ついて行きますという感じですね。
とはいえ、決まったあとに、プライベートでは『チクチク』言ったり、私は『こうしたほうがいいと思うな―』とかちょっと意地悪なことを言ったりもしますよ(笑)
ただ、たった2人で始めた当初とは違い今では、色々なスタッフさんや、株主さんも増えて、彼がリードして決断はしていくしかないだろうなという思いがあります。」
ーー社会では、決断は社長の業務ですものね。プライベートになるとお母さんっぽくなってしまう咲都美さんに、親近感が湧きました。
ーー
ここまでお話を伺って、子育ては会社を経営していくことと似ているかもしれません。お互いにワンマンにならないのがポイント!
路瑛さんのやりたいことを実現するために、一緒に相談しながら最終的には彼に決めてもらうというスタンスが、いい家族関係、いい会社を作り上げていくことができるのではないかと思いました。
特に、思春期のお子さんの場合は、親の意見を押し付けるのではなく、責任を取れるか取れないかは別として、お子さんの意思をいったんは受け止めて、自分自身で決めることが重要になってくる時期ですね。
4.始めの一歩を踏み出すには目標とお金、そしてこれが必要
ーー私やこの記事を読まれている経営のことを知らない方が、もし親子起業してみようと思ったときに、どう始めの一歩を踏み出したらいいのでしょうか?
「まずは、何をしたいかと資本金などのお金のことですね。しばらく売り上げは立たないと思うので、当面のお金の部分を考えるのが一番いいのかなと思います。
そして、子どものほうが優れているという尊敬的なものが必要で、親というものが出てしまうと親子起業は難しいかもしれないです。」
ーー起業をするときに、事業計画書を路瑛さんが書いて中学校でプレゼンしたと思うのですが、書くにあたって咲都美さんがアドバイスしたということはあるのでしょうか?
「私も事業計画書は書いたことが無かったので、2人でネットの事業計画書を調べて雛形を見ながら作成しました。
そして、反対する人の意見はいったいどんなものがあるだろう?と、話をこちらからふって課題に対しての“想定問答”をしましたね。
事業計画書の時は、学校向けなので『先生だったらこう言うかな?』『学校に来なくなったら』『赤点取ってしまうのではないか』などの心配を上げてくると思う、そういう心配を全て潰すような内容を盛り込みましょうというような話はしました。」
ーー親子起業するためには、目指すものとお金、そして反対する人の意見を潰していくための想定問答ですね。勉強になります!あとは、熱い想いとかでしょうか?
「熱い想いですか…彼の中にはあるかもしれませんが、けっこう淡々としているタイプで、それが見えないからと責める大人の方々も起業当初はいらっしゃいました。
やはり大人社会は「子どもたるもの」とか「経営者たるものはこうあるべき」みたいな理想像をそれぞれの方が持っていて、それを挑戦する子どもたちに押しつける感じが横にいてわかります。
私もそういうことを言ってしまうこともありますが、3年やってきてみて本当にそれが必要なことなのかな?と思ったりはしています。
もっと楽しく遊びながら、でも自分の夢が実現できるようなやり方があるかもしれない。
けれど、“経営者たるもの”をなくしてよしとしない空気や、大人が挑戦する子どもに、色々なことを言ってしまうことで子どもの行動の範囲を狭めている、雰囲気をすごく感じますね。」
ーーそれに打ち勝つくらいの精神的な強さが路瑛さんにはあるということですよね?
「どちらかというと暖簾に腕押し系なので、ネットで叩かれたりしても『こういう人もいるのね』と真に受けないのです。
つぶれてしまうタイプではないのは間違いない。それが究極の強さなのかもしれません。私のほうが病みそうになる時がありますよ。」
ーーわかります。真に受けない…それが今の社会で生活するのには必要なことかもしれないですね。私もその心ほしいです。また、今学校のことで悩んでいる子どもたちにも、その究極の強さを持たせてあげたいです。
5.「社長!これはどうしましょうか?」がポイント
ーー路瑛さんは何をしても長続きしない子と他のインタビュー記事で読んだのですが、仕事に夢中になっているのはなぜだと思いますか?
「彼が『一番嬉しいことは何か』を聞かれた時に、自分が作ったものや、何かで『ありがとう』『こういう場ができて嬉しい』などの言葉をいただくのが、『嬉しい』と言っていました。
やはり仕事というのは、それを必要としている人がいて、対価をいただいてそれに対して、良かった良くなかったと言ってくださる反応がある。
それがダイレクトに伝わってくる部分が面白いというのかな…。
今までの長続きしなかったのは習い事で、例えば「誰かが息子のピアノを聞いて喜んで涙を流した」という経験をもし彼がしていたら「自分のピアノで誰かを喜ばせたい」と思ったかもしれません。
習い事は上達をする、勉強は100点を取る、合格するという目標はありますけど、経営はもっと長い10年20年を見据えて動いていることもあって、だから続くのかもしれないですね。」
ーー最後に、社長でもあるお子さんを頑張らせる工夫などはあるのでしょうか?
「頼るというのは、ありますね。会社経営に関しては社長がいないとダメですということはもちろんあるので、彼を頼ります。
『どうなっているの?』と上から聞くのではなく『これはどういたしましょうか?』下からお伺いを立てるようにして、こちらが勝手に決めるということはしません。
今ではたくさんの方が応援してくださっています。
この3年間、色々な方が時間やお金、普通だったらいただけないようなものを提供していただき『こんな贅沢な経験はないよ』ということは常々言っています。
その人たちを裏切らないために、経営だけではなく、生き方、言動とかも含めて、“応援してくれている人を失望させないような生き方をしたい”というものが彼の中にあります。
なので、プレッシャーかもしれませんが、頑張らせるポイントとしてはそこをつつくことはありますね。」
ーー背中を押す、頑張らせるポイントを咲都美さんがよく見極めて対応していることがわかりました。
こうして路瑛さんは、一足先に社会に出て、社会人として必要なことを社長業から学び、周りの方々からサポートされ成長しているのですね。本日はどうもありがとうございました。
6.これから社会人となる子どもたちに必要なこととは
インタビューの中で、プライベートなお話になるとお母さんの顔を覗かせる咲都美さん。
そして、私は苦手ですが、彼はできることがあると認めていらっしゃって、親目線ではなく一人の人として見て尊敬しているのだなということがわかりました。
また物事を相談・話し合い、時に想定問答をしながら、最後の決断はお子さんである社長に任せることをしっかりやられていることで、会社と同時に路瑛さんも成長されているのだと思います。
子どもの資質や能力を見極めて対応していくことは、会社で上司が部下を育てることとも似ています。
お話の中に、仕事のことだけでなく、子育てのヒントがたくさん散りばめられていました。
・できていることを褒める、認める
・大人だから子どもだからという考えから視点を変えてみる
・色々言うより子どもの夢の可能性を一緒に考えてみる
こうして子どものやりたい!を社会人として必要なことやチカラに伸ばしていく事ができるのですね。
お話の途中にあったお言葉で印象に残ったものがあります。
“大人が挑戦する子どもに、
色々なことを言ってしまうことで子どもの行動の範囲を狭めている”
私たち親や大人は「親(大人)はこうあるべき」子どもは「こうするべき」という考えで、子どもたちに接してはいないでしょうか。
咲都美さんのように、子どもだから、という目で見るのではなく、ひとりの人として「その人の考えを認め、どのようにしたら道は開けるのか、可能性を実現できるのか」を一緒に考えることができる大人が増えるといいなと思います。
「言うことを聞かなくなった」「部屋にこもりがち」など、自分の意思をしっかり持ち始めた思春期や、学校以外の道を選んだ子どもたちを育てる親御さんや大人のみなさん。
私たちの視点、気持ちの持ち方、子どもへの接し方を変えて、これから社会人となる子どもたちに、社会で必要なことやチカラを育てていきませんか。
㈱クリスタルロード代表取締役 加藤咲都美さん
富山県出身。千葉大学卒業。労働組合事務所に勤務のかたわらで、妊娠中に赤ちゃんを亡くした家族の支援団体を立ち上げ、代表として15年以上グリーフケアに携わっている。息子、加藤路瑛の起業に巻き込まれ、親子起業スタイルで起業し、代表取締役となる。起業直前までウェブ制作会社に勤め、ウェブマーケティング、ウェブライティング、広告運用を担当。代表ではあるが、社長である加藤路瑛の後方支援を役目とし、「社長のカバン持ち」を自負する。
社長である路瑛さんは、感覚過敏の当事者とそのご家族が参加できるコミュニティーを運営しています。参加費は無料です。コミュニティーで相談しあったり、対策グッズの情報交換などをしていますので、ご興味のある方は、登録をしてみてください。
感覚過敏研究所 感覚過敏コミュニティ「かびんの森」
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執筆者:渡辺くるり
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
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