1. 発達障害グレーゾーンの若者が離職してしまう理由
発達障害や不登校の子どもがいるお母さんは、どうしても子どもの将来が不安になってしまいますよね。
「前編」では、ニートや引きこもりの若者の自立支援をされているNPO法人リネーブル・若者セーフティネット(以下「リネーブル」)代表の荒川さんに、大学のサークルのような活動をする「居場所」のお話を伺いました。
ニートや引きこもりの若者の自立支援者に学ぶ!発達障害や不登校の子が一歩を踏み出すためのヒント「前編」
「居場所」での若者の話から、発達障害や不登校の子のお母さんが、今できることが見えてきました。
「後編」では、荒川さんに、「居場所」から就労に繋がっていく若者の話を伺い、今後、発達障害や不登校の子どもが働くために、今どんな準備ができるのかを探っていきたいと思います。
―――ニートや引きこもりになる若者の離職は、発達障害の特性が関係しているのでしょうか?
「とても難しい質問ですね。では、とある産業廃棄物の会社でキャリア面談を実施した24、5歳の男性の話を例に挙げさせていただきますね。
ADHDの傾向が強い、それもグレーというよりもわぁ大変そうだなぁと感じた方がいましたが、会社に入ってもう2年ぐらい、ちゃんと続いているんですね。
その方の先輩はおっしゃっていました。
『自分たちの会社は、ほんとに人手不足で困っている。だから来てくれる社員はどんな人でもありがたい。あいつを1人前にするのが俺たちリーダーの仕事だ。』と。
その話を聞いたときに、これだなと思ったんです。
同じことを何回も言わないといけないから、実際に教えるのは大変。でも、やる気を持ってきてくれる若者は宝だと。だから、彼がどうやったら出来るんだろうということを一生懸命考えて育成されている。
これがきっと働くための環境なんですよね。こういう風に、会社側がしっかり考えを持っていて、うまく会社がマッチすれば、発達障害があるような子も働き続けることができるという風に思います。」
―――リネーブルに来る若者は、なぜ、早期離職を繰り返してきたのでしょうか?
「リネーブルに繋がっている若者は、すごくいい子を演じていて、すごく頑張る子たちです。そのため、仕事中でも「大丈夫です」と答えてしまう。
そして、何が分からないのかも分からない。何を叱られているか分からない。でも、分かりました、すみませんと言って、一生懸命、謝って、頑張る。
そして、もう悩みに悩んで、会社を逃げ出すかのように退職していくという方が多くいらっしゃいます。
彼らの特徴として見られるのは、圧倒的な経験不足だと思っています。どちらかというと、人とつながるということが不足している。
特定の友達としか遊ばないとか、そういう狭い世界で生きてきた子たちは、会社で困っていることを上司に言えず、孤立した気持ちになるんです。
実際には会社の仲間は言葉がけをしていて孤立していないと思うんですが、困りごとを言語化できないんですね。
そして、最終的に、自分は会社に迷惑をかけていて申し訳ないという気持ちから退職を選ぶという方が多いように思います。」
―――経験が積み重なっていくことで、そのつまづきはクリアできる可能性が高いのでしょうか?
「いわゆる、人との信頼関係を築ける環境があるかどうかですね。人とつながっていく中で、自分を信じる力(自己肯定感)が高まり、『言っていいんだ、相談していいんだ』と経験できる環境があればクリアできると、私は思ってます。」
◆思いを伝えられる環境
リネーブルに繋がった若者のように、真面目な子や繊細で自分を出せない子は、できない自分を許せなかったり、言ったら嫌われるのではないか、相手ががっかりするのではないかと思ってしまいます。
そして、自分の意見を言えなくなって、自分を追い詰め、孤独感を感じ、最悪の場合、メンタルの調子を崩してしまう。
まずは、自分の思いを伝えていいんだという体験を、親子のコミュニケーションで積んでいくことで、少しずつ家族以外の人と繋がる勇気や意欲が湧いてくるのだと思います。
それから、会社と自分が上手くマッチングすれば、働きやすい環境で仕事を続けていけることを知っておくことも大事ですね!
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2. 「好き」を見つける場所
―――居場所で自信がついた若者は次にどのような活動ができますか?
「お仕事体験の前に実施をしているのが、「若者Lab」というところです。LabはLaboratory 、実験室という意味です。
とくにリネーブルでは、ITリテラシーを身につけるための、基本的なタッチタイピングやWindows OfficeなどPC関係の勉強に加え、Adobe Illustrator(アドビイラストレーター、以下「アドビ」)にも力を入れています。
今の若者たちは絵を書くことが好きなので、チラシを書いたり、デザインを作ったりできるアドビが使えるとなると企業に重宝されます。
その後、動画編集、HP(ホームページ)プログラミング、3D-CADの3種類に分かれて、勉強会を開催しています。
例えば、リネーブルがある愛知県西三河はトヨタグループがあり、3D-CADを必要とする中小企業が多いんです。でも、零細企業では3D-CADができる人がいない。
そのため、リネーブルの3D-CAD勉強会は、現場で実際に作っている部品を3D-CADで製作する予定をしています。」
―――実際に製品として出来上がってくると、達成感を感じられますね。
「そうですね。勉強会に携わって下さっている方は、彼らを本当に社会につなげたいと考え、実際に現場で使えるようにならないと意味がないと理解して下さっています。
3D-CADでは、『ここまで出来るんだったら、例えば職歴にブランクがあったとしても採用してくれるよ。』と言ってくれています。
ここで勉強して、『あ、これ自分に向いてるな』とか『もっとやりたい』と思った子たちが、次に、リネーブルキャリアの『若者事業部』へ移っていき、実際にお金を稼ぐということにつながっていくんです。
でも、彼らにも課題があって、週5日働くのが難しい子もいるんです。でも、私はそれでもいいと思っています。
今、業者さんたちと一緒に考えているのは、リネーブルキャリアでサポートしながら、何とか若者事業部で、3D-CADの仕事を請け負うことはできないかと考えているところです。」
―――何か「居場所」ならではの、やる気スイッチが入る方法があるのでしょうか?
「方法かは分からないですが、とにかく1人1人のやりたいことを見つけるということじゃないでしょうか。
今自分がやりたいということがあれば、じゃあそれを現実に形にするにはどうしたらいいかを一緒に考えて、そして作っていく。
それも一人でやるのではなく、仲間と一緒にやる、なんとなく、それが彼らの動き始める動機付けかなぁと思います。」
―――「若者Lab」で経験したことが仕事に繋がっていって、「若者事業部」に移行していき、自ら仕事を創る活動をされているという流れでしょうか?
「これも運が良くて…例えば、HPを例に挙げると、HP関係の仕事をしている知り合いに、WordPressのセミナーを開いて貰ったんです。
そのセミナーを受けて、面白いと思った子は、ちゃんと自分で勉強していく。今インターネットには本当に安く、HPプログラミングを学べるサイトがあるので。
そうするうちに、リネーブルのHPの全体を見てくれる人のもとで作業をして、一生懸命勉強していくうちに、『若者事業部』のほうに移っていく。
そこで、実際に仕事が入ってくるという形で、真面目にやっていると、じゃあこの仕事もできるんじゃない?じゃあこれもやってみたらどう?
どいう風に話がどんどん入ってきて、わらしべ長者ですね(笑)」
◆モチベーションアップの秘策
「面白い」「もっと知りたい」と思えるものに出会ったとき、人はモチベーションが上がり、学び続けることができる。
生きづらさを抱える若者は、過去の体験から、「自分なんかにできるわけがない」と物事を諦めてしまっているのかもしれません。
そんなときに、自分を本気で成長させたいと支援してくれる人や同じ目標を持った仲間の存在は、自分の居場所や貢献を感じられ、意欲が湧いてきますよね!
3. ニートや引きこもりの若者に必要なきっかけ
―――若者事業部に参加している若者が、「居場所」から社会に一歩近づけた要因は何だと思われますか?
「私の中でもまだ仮設ですが、何かしら自分の目標を見つけて頑張ることは、ちょっと社会から孤立した状態の若者たちに、すごく必要なことだと思っています。」
―――社会に出るために「これが身についていれば大丈夫!」というスキルは何だと思われますか?
「私も知りたいですけど…でも、うちに来る子たちは、比較的自己肯定感が低いですね。
子どものころから、『やったら自分はできるんだ』っていう成功体験の積み重ねというのは、誰にでもですが、必要なのかなと思います。」
―――親や周りの人は、どのように理解し、サポートしていくと良いと思いますか?
「私は、ニートや引きこもりの支援者ではなく、キャリアコンサルタントとして、この仕事をしているので、福祉端の人間ではないんです。
でも、たくさんの不登校、引きこもり経験者の若者と出会ってきた中で、『引きこもっていて、すごく楽しかった』っていう子はいないんです。みんな、時間の感覚を無くしているだとか、あんまり記憶がないんですよね。
こういう子たちって、私は、『あぁ冬眠してたんだろうなぁ、そのくらい孤立してたし、すごくしんどかったんだろうな』って想定しているんです。
じゃあ、どうやってまた動き出せるのかと言ったら、やっぱり人と再びつながること。人とつながると、社会とつながっていきます。
子どもがうまくいかなかった原因とか経験から親の言葉を信じてくれないとき、ちょっと離れた他人から、子どもにすごくプラスな言葉を貰えたとすると、子どもの生きる力につながると思うんです。
だから、不登校とか行き渋りになったときには、親子で孤立するのではなく、信頼できる誰かとどこかで、つながっていてほしいなと思います。
上手に冬眠すると、絶対またエネルギーが湧いてきて、『あ、今かなぁ』って思った時に、何げなく情報を伝えていく。
すぐには動かなくても、何か月後とかに、そういえばあのときのあの話…という風になってくるので。みんなそれぞれ、動き出すきっかけがあるんですって。
そのために、お母さん方は、どこかとつながって、チャンスを待つというのが、リネーブルに来ている子たちの話を聞いて感じています。
それから、リネーブルには、「親の会」があり、リネーブルに来ている若者たちのお母さんが、リネーブルの活動にしっかりと携わっています。
自分の子は今、これを目標に頑張っているんだとお互いに情報共有しあい、外ではなかなか話せない、自分の子どもの大変さとか苦しみっていうのを語れる場になります。
はじめは、私が主催していたんですが、最近は親御さんたちがしっかりと動かしてくれていて、これが、一番リネーブルが上手くいっている理由ではないかと思っています。」
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4. お母さんが誰かとつながることで不登校中の子どもの未来が変わる!
リネーブルの参加者は、自分がいる環境に受け入れられたいと必死に努力する中で、失敗し傷つき自信をなくし、孤独や不安を抱えてきた若者たちでした。
子どもは、やがて、自我が芽生え、親とは違う価値観を持ち、自立していきます。
そして、発達障害の有無にかかわらず、ときに傷つき、自分を責め、立ち止まってしまうこともあると思います。
そんなとき、荒川さんがおっしゃった「上手な冬眠」をさせてあげるためにはどうすればよいのでしょうか。
まずは、一番近しいお母さんが、子どもの気持ちを理解しようと努力することではないでしょうか。
この子は、今
・自分が失敗したと傷ついているのかな
・自分の気持ちを話すのが怖いのかな
・不安だらけで、行動することに抵抗があるのかな
・周りと違うことに劣等感を抱いているのかな
・今はじっとしていたいのかな
お母さんに理解をして貰え、変わらず「おはよう」「ありがとう」と接して貰えたら、自分は認められていると安心でき、自分を責めなくなります。
そして、信頼しているお母さんから励まされ、ポンっと背中を押されたら、まず一歩、小さなハードルから越えてみようと思えるのではないでしょうか。
その後、自分の目標を持つことができたら、それを原動力に、自分にちょうどいいペースで進み続けていくのだと思います。
そのためには、お母さん自身がお子さんの現状を受け入れ、一人で抱え込まずに、相談できる誰かとつながっていくことが必要です。
お母さんが毎日をイキイキと楽しそうに過ごしていれば、子どもも自分を受け入れ、もう一度、人とつながる勇気を持つことができるのだと思います!
私自身、息子が発達障害と診断を受けたショックで周りとつながることを避けた過去がありますが、私自身が息子を受け入れられたことで、こうしてリネーブルの荒川さんともつながる勇気を持つことができました。
子ども達がお母さんの姿を見て勇気を持てるように、私たちお母さんが人とのつながりを楽しんでいきましょう!
【NPO法人リネーブル・若者セーフティネット】
〒446-0071 愛知県安城市住吉町荒曽根1-245 アワーズビル2F
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執筆者:福井 縁
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)