「助けて」が言えない子は、困っていないのではなく、不安で言葉が出せなくなっていることがあります。特におとなしい子ほどSOSのサインが見えにくいことも。この記事では、子どもの脳で起きていることと、安心を育てる関わり方を発達支援の視点からお伝えします。
【目次】
監修者:吉野加容子
発達科学コミュニケーション創始者/パステル総研主宰/発達科学ラボ代表
脳科学をベースに、発達障害・発達グレーゾーンの子どもの発達支援を専門とする。広島大学教育学部卒業後、東京学芸大学大学院修士課程、慶應義塾大学大学院博士課程で学び、民間企業での脳科学研究、医療機関での発達支援、大学での教育に従事。
15年以上にわたり発達に悩む親子と向き合う中で、「子どもの発達を本当に伸ばすのは、家庭での365日の関わりである」という結論にたどり着く。
病院や学校だけでは支援が届きにくい発達グレーゾーンの子どもたちに対して、家庭で再現できる支援を確立するため、脳科学・教育学・心理学を融合した独自メソッド「発達科学コミュニケーション」を開発。
これまでに数多くの親子の変化を生み出し、“ママが変われば子どもが変わる”という発達支援の新しい当たり前を広げている。
著書に『発達障害とグレーゾーン 子どもの未来を変えるお母さんの教室』『脳を育てる親の話し方』『脳が喜ぶ子育て』など。
1.「困った」が言えないまま頑張ってしまう子どもたち
週末や連休中、子ども連れでにぎわう場所へ行くと、迷子の子を見かけることがあります。 大声で泣きながら「ママー!」と探している子の場合は、少し離れた場所に保護者がいることも多く、様子を見ているうちに再会できることもあります。
ですが以前、少し気になる迷子の子に出会いました。 その子は、大きな声で泣くわけではありませんでした。
「ママいない…」
小さな声でそう繰り返しながら、同じ場所をぐるぐる回っていたのです。周りを見ても保護者らしい人は見当たりません。声をかけても、返ってくる言葉は
「ママいない…」
だけでした。 表情は硬く、こちらの質問にもすぐには答えられません。私はなるべくゆっくりした声で、
「大丈夫だよ」
「見つかるまで一緒にいるよ」
と伝えながら、そばにいました。 そのとき私は、「助けて」が言えない子どもは、泣いたり騒いだりするとは限らないのだと感じました。
実は、このような困り方は迷子の場面だけではありません。 幼稚園や学校でも、
・わからなくても質問できない
・嫌なことがあっても我慢する
・困っていても「大丈夫」という
・周りに合わせて無理をする
という形で、静かに頑張り続けてしまう子がいます。 そして、おとなしい子ほど「問題がない子」に見えやすいため、大人も気づきにくいのです。
2.「助けて」が言えないとき脳で起きていること
「どうして言わないの?」 そう思ってしまうこともあるかもしれません。ですが、「助けて」が言えない背景には、その子なりの理由があります。例えば、
・迷惑をかけたくない
・怒られたくない
・間違えたくない
・我慢した方がいいと思っている
そんな気持ちを強く抱えている子もいます。
また、不安が強くなると、脳が“フリーズ”したような状態になることがあります。頭の中では困っていても、
・言葉が出ない
・何を話せばいいかわからない
・質問が頭に入ってこない
・体が動かない
という状態になってしまうのです。
私も最初、
「お名前は?」
「何歳かな?」
「ママ、トイレ行くとか言ってなかった?」
と立て続けに質問してしまいました。少しでも情報が分かれば、早くお母さんを探せると思ったからです。ですが、その子はすぐには答えられませんでした。
そして、しばらく時間がたってから、前に聞いた質問の答えがぽつりと返ってきたのです。その様子を見て私は、「困っているときは、質問に答えるだけでも脳に大きな負荷がかかることがあるんだな」と感じました。
特に、不安が強いときは、言いたくても言葉にできない状態になることがあります。だからこそ、「言わない=困っていない」ではないのです。
そして、この「困っても言えない」が続くと、一人で抱え込みやすくなったり、無理をして頑張り続けてしまったりすることがあります。だからこそ、小さい頃から「困ったときに安心できる経験」を積み重ねていくことが大切なのです。
※迷子の子を見つけた「ソレイユの丘」は東京ドーム6個分の広さ!子どもの空間把握能力をはるかに超える広さです 。地図が苦手な私も目的地に到着するのに苦労します。
3.実は出ている「助けて」のサイン
「助けて」が言えない子は、まったくサインを出していないわけではありません。ただ、そのサインがとても小さいため、周囲が気づきにくいのです。 例えば、
・急に黙り込む
・表情が固くなる
・動きが止まる
・同じ言葉を繰り返す
・返事に時間がかかる
・「大丈夫という」
・視線を合わせなくなる
・家に帰ると急に荒れる
こうした変化は、「助けて」のサインかもしれません。
特に学校では頑張っている子ほど、家で安心した瞬間に感情があふれることがあります。すると大人は、「家ではわがまま」「外ではちゃんとしてるのに」と思ってしまうことがあります。
実際は、“外で頑張りすぎていた反動”という場合も少なくありません。大きく泣いたり怒ったりする困りごとは気づきやすい一方で、静かなSOSは「大丈夫そう」に見えてしまうことがあります。ですが本当は、“頑張りすぎているサイン”かもしれないのです。
だからこそ、言葉だけではなく、「いつもと違う様子はないかな?」 という視点で見ていくことが大切です。
4.「助けて」が言える心を育てる関わり方
では、どんな関わりが安心につながるのでしょうか。
まず大切なのは、 「困ったら言ってね」 だけで終わらせないことです。助けを求めるには、「言っても大丈夫」という安心感が必要だからです。例えば、
「言えなかったね」
「びっくりしたね」
「困ってたんだね」
と、まず気持ちを受け止める関わりは、安心につながります。このとき、
「なんで言わなかったの?」
「ちゃんといわなきゃダメでしょ」
と先に伝えてしまうと、さらに言いにくくなってしまうことがあります。
また、困っているときは、一度にたくさん質問されるだけでも負担になることがあります。そんなときは、
「嫌だった?」
「びっくりした?」
「困った?」
と、短く選択肢を作って聞いてあげると、気持ちを出しやすくなることがあります。
そして、返事を急がず、“待つ時間”を作ることも大切です。すぐに答えられなくても、安心すると少しずつ言葉が出てくる子もいます。まずは、
・返事を急がない
・一度にたくさん質問しない
・「言えなかったね」と受け止める
そんな小さな関わりからでも大丈夫です。家庭の中で、
・失敗しても大丈夫
・困っても大丈夫
・うまく言葉にできなくても大丈夫
という経験を積み重ねることは、子どもの安心の土台になります。
小さい頃に、「困ったときも受け止めてもらえた」「うまく言えなくても分かろうとしてもらえた」という経験を積み重ねることは、大人になってからも、一人で抱え込みすぎず、人とつながる力につながっていきます。
静かなSOSは、気づきにくいものです。だからこそ、「ちゃんとしているから大丈夫」ではなく、小さなサインに目を向けながら、安心できる関わりを積み重ねていきたいですね。
※ 子どものタイミングを「待つ」ことは思っているより難しいことでした。私が思う3倍くらい「待つ」つもりがちょうどよいのかもしれないと記録をとりながら気づくこともありました。
よくある質問
Q1.「困ったら言ってね」と伝えているのに言えません
A1.言葉で伝えるだけでは難しいことがあります。 「言っても大丈夫だった」「受け止めてもらえた」という安心の経験を積み重ねることで、少しずつ助けを求めやすくなります。
Q2.学校ではいい子なのに、家で荒れるのはなぜですか?
A2.外で頑張りすぎて、家で安心した瞬間に気持ちがあふれていることがあります。 「家だけ荒れる」のではなく、「家だから安心して出せている」場合もあります。
Q3.困っているとき、子どもにどう声をかければいいですか?
A3.一度にたくさん質問するよりも、 「びっくりした?」 「困った?」 など、短く分かりやすい言葉で聞く方が安心しやすい子もいます。返事を急がず待つことも大切です。
Q4.おとなしい子は問題がないのでしょうか?
A4.おとなしい子ほど、我慢していることに周囲が気づきにくい場合があります。言葉だけではなく、表情や動き、家での様子など小さな変化にも目を向けることが大切です。
執筆者:松沢多花子
発達科学コミュニケーションアンバサダー
家庭の空気を整えたいと願い関わり方を工夫しても、なぜか意図がうまく伝わらない。
そんな経験をかさねる中で、子どもの不安や反応に向き合いながら、子育ての正解ではなく、「脳の発達に沿った関わり方」という軸を学びました。
相手を変えるのではなく関係のあり方整えることで、親子が安心して力を取り戻していく家庭づくりのヒントをお伝えしています。
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