「楽しんでね」「写真見せてね」など善意の声かけが、繊細な子にはプレッシャーになることがあります。期待に応えようとして疲れる理由と、自分の気持ちを確かめ、自分で選ぶ力につながる3つの声かけを紹介します。
1.「楽しんできてね」のあと、娘の表情がくもった
2.なぜ善意の期待が「応えなくちゃ」というプレッシャーになるの?
3.繊細な子に期待を背負わせない3つの声かけ
監修者:吉野加容子
発達科学コミュニケーション創始者/パステル総研主宰/発達科学ラボ代表
脳科学をベースに、発達障害・発達グレーゾーンの子どもの発達支援を専門とする。広島大学教育学部卒業後、東京学芸大学大学院修士課程、慶應義塾大学大学院博士課程で学び、民間企業での脳科学研究、医療機関での発達支援、大学での教育に従事。
15年以上にわたり発達に悩む親子と向き合う中で、「子どもの発達を本当に伸ばすのは、家庭での365日の関わりである」という結論にたどり着く。
病院や学校だけでは支援が届きにくい発達グレーゾーンの子どもたちに対して、家庭で再現できる支援を確立するため、脳科学・教育学・心理学を融合した独自メソッド「発達科学コミュニケーション」を開発。
これまでに数多くの親子の変化を生み出し、“ママが変われば子どもが変わる”という発達支援の新しい当たり前を広げている。
著書に『発達障害とグレーゾーン 子どもの未来を変えるお母さんの教室』『脳を育てる親の話し方』『脳が喜ぶ子育て』など。
1.「楽しんできてね」のあと、娘の表情がくもった
娘と二人で旅行に出かける前のことです。
祖母が娘にお小遣いを渡しながら、「楽しんできてね」 と声をかけてくれました。 私には、孫の旅行を応援してくれている温かいやり取りに見えました。
ところが、そのあと娘の表情がどこか浮かないことに気がつきました。
家に戻ってから気持ちを聞いてみると、娘は今回の旅行を「お母さんと二人で楽しみにしていた時間」として、とても大切にしていたことが分かりました。
そして、お小遣いをもらったり「楽しんできてね」と声をかけてもらったりしたことで、
「ちゃんと楽しめるかな」
「何かしなくちゃいけないのかな」
と、旅行に新しい“やること”が増えたように感じ、私にとっては「応援」だったものが、娘には「宿題」のように届いていたのです。
私はそこで初めて、大人が善意で渡した期待でも、子どもによっては「応えなくちゃいけないもの」として受け取ることがあるのだと気づきました。
これは旅行だけの話ではありません。
・発表会の前に、「楽しんできてね」「頑張ってね」 と言われる。
・プレゼントをもらって、「喜ばなくちゃ」と思う。
・祖父母から、「あとで写真を見せてね」「お話を聞かせてね」と言われて、覚えておかなければと感じる。
相手の気持ちや期待を敏感に受け取る子ほど、大人にとっては何気ない言葉まで「自分がやること」として抱え込んでしまうことがあります。
では、なぜ善意の言葉がプレッシャーに変わってしまうのでしょうか?
2.なぜ善意の期待が「応えなくちゃ」というプレッシャーになるの?
「楽しんでね」という言葉そのものが悪いわけではありません。
同じ言葉を聞いて、
「応援してくれているんだな」とそのまま受け取れる子もいれば、
「ちゃんと楽しまなくちゃ」「期待に応えなくちゃ」と感じる子もいます。
この違いを考えるヒントになる研究があります。
心理学には、子どもが親の期待に応えたときに、より強くほめたり認めたりする「条件付きの承認」という考え方があります。
31の研究サンプルをまとめて分析した研究では、このような条件付きの承認と、「自分がやりたいから」ではなく「そうしなくちゃ」という気持ちで自分を動かす傾向との間に関連があることが報告されています。
【出典】Haines, J. E. & Schutte, N. S.(2023)“Parental conditional regard: A meta-analysis.” Journal of Adolescence, 95(2), 195–223. doi:10.1002/jad.12111
もちろん、この研究は「楽しんでね」という言葉そのものを調べたものではありません。また、「楽しんでね」と声をかけることが、そのまま「条件付きの承認」になるわけでもありません。
けれど、大人の期待を強く受け取る子が、「できたらいいな」を、「やらなくちゃ」に変えてしまうことがあると考えるヒントになります。
本来、旅行で何を楽しいと感じるかは子どもの自由です。
写真を撮ってもいい。
撮らなくてもいい。
たくさん感動してもいい。
思ったより疲れたと感じてもいい。
ところが、
「楽しんでね」
「写真を見せてね」
「お話を聞かせてね」
という言葉を「期待」として受け取ると、本来自由だったはずのことまで「ちゃんとやらなければいけないこと」に変わってしまうことがあります。
だからこそ、期待を敏感に受け取りやすい子には、何を感じてもいい、やってもやらなくてもいいという“余白”を残す声かけが大切です。
3.繊細な子に期待を背負わせない3つの声かけ
子どもを応援したい、楽しい時間を過ごしてほしいと願うことは、とても自然なことです。 大切なのは、その気持ちをなくすことではありません。子どもが「期待に応えなくても大丈夫」と感じられる余白を残すことです。
①「楽しんでね」より、感じ方を決めない
旅行や発表会など、楽しみにしている予定があると、 「楽しんできてね!」 と言いたくなりますよね。 そんなときは、
「行ってらっしゃい」
「どんな一日になるかな」
くらいの言葉で送り出してみます。
楽しくてもいい。
疲れてもいい。
つまらなかったと感じてもいい。
大人が先に「楽しい」というゴールを決めないことで、子どもは自分が感じたことをそのまま受け止めやすくなります。「楽しまなくちゃ」ではなく、「私はどう感じるかな」と、自分の気持ちでその時間を過ごせるようになります。
②「見せてね」より、本人に選択肢を残す
「写真撮ってきてね」
「帰ってきたら見せてね」
という言葉も、大人にとっては楽しみにしている気持ちを伝えているだけかもしれません。 けれど、期待に応えようとする子には、
「写真を撮らなくちゃ」
「見せるものを準備しなくちゃ」
という宿題になることがあります。 そんなときは、
「撮りたいものがあったら撮ってもいいね」
と、本人が選べる言葉に変えてみます。 写真を撮るかどうかも、あとで見せるかどうかも子どもが決めていい。 「やってもいいし、やらなくてもいい」と分かることで、子どもは目の前の体験そのものに集中しやすくなります。
③応援やプレゼントに「お返し」をくっつけない
「お小遣いあげるから楽しんできてね」
「帰ってきたらお話聞かせてね」
そんな言葉も、子どもを喜ばせたい気持ちから出てくるものです。 けれど、何かをもらったことと、その後に期待されることがセットになると、 「もらったから何か返さなくちゃ」 と感じる子もいます。 そんなときは、
「旅行で使ってね」
「行ってらっしゃい」
で終えてみます。
プレゼントはプレゼント。 応援は応援。 そのあとに「楽しむこと」「報告すること」「喜ばせること」まで求められていないと分かると、子どもは好意をそのまま受け取りやすくなります。
※日常の何気ない一言がどんなふうに子どもに届いているのだろうか?記録をとりながら自分を振り返る時間になりました。
自分の気持ちを知り、自分で選ぶ経験を重ねることは、わがままになることとは違います。
まず「私はどう感じた?」「私はどうしたい?」を確かめられるからこそ、やがて「期待されたから」ではなく、「私はこれを大切にしたい」「誰かのためにやりたい」と、自分で引き受けて行動することにもつながっていきます。
「期待に応えなくても大丈夫」という余白は、期待から逃げるためではなく、いつか子ども自身が大切なものを選び取るための土台になるのです。
▼0歳~20歳まで行動力をあげる「子どもの時にやるべきこと」をショート動画でご紹介します。
よくある質問(FAQ)
Q1.「楽しんでね」は言わない方がいいのでしょうか?
いいえ。負担になるかどうかは子どもによって違います。表情が曇ったり「ちゃんと楽しまなくちゃ」と気にする様子があるなら、「いってらっしゃい」など感じ方を決めない言葉に変えてみましょう。
Q2.子どもが期待をプレッシャーに感じているサインはありますか?
何度も確認する、頼まれていないことまでやろうとする、予定の前に不安定になるなどの様子があります。ただし決めつけず、「何か気になる?」と気持ちを聞いてみることが大切です。
Q3.期待に応える力や責任感もではありませんか必要ではないでしょうか?
必要です。ただ、「期待されたからやる」だけでなく、「私はこれを大切にしたいからやる」と自分で選べることも大切です。自分の気持ちを確かめる経験が、その土台になります。
執筆者:松沢多花子
発達科学コミュニケーションアンバサダー
家庭の空気を整えたいと願い関わり方を工夫しても、なぜか意図がうまく伝わらない。
そんな経験をかさねる中で、子どもの不安や反応に向き合いながら、子育ての正解ではなく、「脳の発達に沿った関わり方」という軸を学びました。
相手を変えるのではなく関係のあり方を整えることで、親子が安心して力を取り戻していく家庭づくりのヒントをお伝えしています。