「発達障害・グレーゾーン」とは、生まれつき脳機能に偏りがあり、発達凸凹があるという状態。大切なのは、苦手や困りごとの程度と頻度を減らすことです。お母さんがお子さんのよき理解者となり、支援してあげることで、完治せずとも、改善・克服は可能です。 |
【目次】
1.「発達障害」との診断に、ショックを受けてはいませんか?
2.「障害」の2つの意味
3.「発達障害」診断の現場
4.だから、心配ご無用。発達凸凹の子どもの苦手と困りごとは「改善・克服」できるのです
1.「発達障害」との診断に、ショックを受けてはいませんか?
「お子さんは発達障害です。」
なんとなく育てにくいと思っていたり、ひょっとして「発達障害かも?」と疑ったりはしたけれど、実際にこう診断されると、思考はストップ、頭は真っ白。
「この子は普通ではないの? 見た目は普通なのにどうして?」
「この子は一生『障害』を抱えて生きていくの?」
極め付けはドクターの「生まれつきの障害なので治りません!」
家に帰っても、頭の中は大混乱。心のざわつきはおさまりません。様々な想いが心をかけめぐり、一人になると、涙が頬を伝います。
ここ数年、「発達障害」が各種メディアで扱われる機会が増えてきました。しかし、まだまだ理解は進んでいないのが現状です。
文部科学省の発達障支援法の定義は以下の通りです。
「(発達障害とは)自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」
自分の中の「障害」という言葉に対する偏見にも自らが傷つきながら、この言葉の重さに慄(おのの)いている自分がいる・・・というお母さんにぜひ知っていただきたいことがあります。
2.「障害」ということばの2つの意味
気持ちの整理をするために、「障害」の意味についてちょっと考えてみましょう。
少し難しくなりますが、日本語に訳したときに一概に「障害」といっても、色々な意味があります。
「障害」と表現される英語を考えると分かりやすくなりますので、いましばらくお付き合いください。
「障害」と日本語に訳される英語で、発達関連でよく使われるのはdisability(ディスアビリティー)とdisorder(ディスオーダー)です。
一般的には「障害」という言葉は、身体的欠損や症状が固定化し、機能回復不可能な場合に使われます。この意味で使われる英語は、disability です。
一方、disorder は「障害」でも、「遺伝子の因子や疾患、外傷などが原因となって生じる心身の混乱・撹乱された状態」のこと。
そのため、disability への必要な支援は、失われた機能を補う形でのサポートですが、disorder への必要な支援は、その人に合うように環境を整える・工夫することになります。
つまり、「発達障害」の「障害」は、「できない」の意味ではありません。「サポートが必要」との意味なのです。
ちなみに、米国の場合、障害者もdisabled people (ディスエイブルド ピープル)とは言わず、people with disabilities (ピープル ウィズ ディスアビリティーズ) (障害と共に生きる人) という言い方をします。
また、発達障害の子どもに対しても、disabled children(ディスエイブルド チルドレン) ではなく children with special needs(チルドレン ウィズ スペシャルニーズ)(特別のニーズが必要な子ども)と表現します。
お子さんの「発達障害」の診断は、「お子さんに合うように環境を整えるというサポート(ニーズ)が必要ですよ。」との意味なのです。
ところで、日本において、「障害者」は弱者とされ、「継続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受ける人」と定義されており、日本社会においてかつてはかなりの差別・偏見がありました。
現在、その差別は少しずつ改善されてはいるとはいえ、諸外国と比較しても、いわゆる普通だと思っている人たちとの関係性は平等とは言えません。
さらに、発達特性のある子どもは「親の育て方が悪い」「母原病(母親が原因で増える子どもの異常)」などという間違った認識が信じられていた悲しい歴史もありました。
整理すると、「発達障害」と指摘・診断を受けてお母さんが混乱してしまう原因は、「障害」というネガティブな言葉の響きが、お子さんの将来を悲観させてしまうからだったのです。
その一方で、「発達障害」の診断を受けて、「ほっとした」というお母さんもいらっしゃるのも事実です。
診断されたことで、
①相談・支援を受けられる場所
②子どもの発達の状態
③どのような対応が必要なのが明らかになる
からです。
①相談・支援を受けられる場所
②子どもの発達の状態
③どのような対応が必要なのが明らかになる
からです。
3.「発達障害」診断の現場
近年、「発達障害」の診断基準が変わってきていることをご存知ですか?
「『発達障害』は、生まれつきの脳の機能がうまく働かないことによる発達や認知の偏りがある状態」という説が有力です。
以前は、発達障害の診断は発達特性にもとづいてなされていました。発達凸凹があっても、発達の遅れが診断基準を満たしていなければ「グレーゾーン」です。
しかし、今ではその人(子ども)の発達特性だけではなく、本人の生きづらさや生活の困りごとも考慮して診断される傾向にあります。
知り合いの子どもの発達障害を専門とするドクターによれば、
「発達特性があっても、日常生活に困りごとを抱えていなければ、『発達障害』とは診断しません。」
とのこと。
つまり、脳機能に凸凹があり、精神面・運動面の発達に特性があったとしても、日常生活に支障がなければ、本人が困りごとを抱えていなければ、「発達障害・グレーゾーン」ではないということです。
そもそも、「普通(正常)」と「障害」の明確な線引きはなくあいまいなもの。同じように、「個性」と「困りごと」の境界もあいまいなものなのです。
例えば、こだわりが強くても、何に対してのこだわりなのか、そのこだわりを家庭や学校がどれだけ許容しているのかによって、困りごとの程度は変わってきます。
つまり、困りごとは個人の主観によるところが大きいのです。お父さんとお母さんの間でも、お子さんの「困った」の程度が違うことがありませんか?
4.だから、心配ご無用。発達凸凹の子どもの苦手と困りごとは「改善・克服」できるのです。
繰り返します。
脳機能に偏りがあり、発達凸凹があるからといって、必ずしも「発達障害」というわけではありません。では、なぜ、発達凸凹子どもをお持ちのお母さんが、子どもの将来に不安を感じてしまうのでしょうか?
それは、日本社会において、集団教育の場では同調性が重視され、高度なコミュニケーション能力を要求される場面が多いからです。
だからこそ、お母さんは、お子さんの将来のトラブルを予想し、現在のお子さんの苦手や困りごとに目を奪われ、不安や心配が強くなるのです。しかし、そんなに心配しなくても大丈夫!
お母さんの考え方や接し方、お子さんの周囲の環境の整え方次第で、お子さんの困りごとはずっと減らすことができるのです。
子どもの脳はとても柔軟。いくらでも変わります。周囲から入ってくる刺激・情報・環境によって、その子どもの発達の仕方もそれぞれなのです。
発達のスピードには個人差はありますが、発達しない脳はありません。最初は非常にゆっくりとした発達であっても、あるときから爆発的に加速する、そんなこともあるのです。
そもそも、人はそれぞれ顔が違うように、脳にも個性があるのは当たり前。だからこそ、苦手や困りごとを減らしてあげることができれば、発達障害は改善・克服できるのです。
ここ数年、発達障害だと告白する著名人が増えてきました。告白はしなくとも、周囲から、「発達障害だよね」と言われる人、講演や著作の中で、「自分はおそらく発達障害の傾向があるだろう」と書いていらっしゃる人、「そういえば、あの人も・・・。」ほら何人ものお名前が頭に浮かんできませんか?
エジソン(発明家)やアインシュタイン(科学者)、トルストイ(作家)やヘミングウェイ(作家)、リンカーン(政治家)やチャーチル(政治家)、ベートーベン(音楽家)、ピカソ(画家)など、歴史に名を残した偉人の中にも、脳機能に偏りがあったといわれている人は大勢います。
マイケル・フェルプス(水泳・オリンピックメダル獲得数1位の金メダリスト)は9歳の時にADHDと診断されているそうですし、トム・クルーズ(映画俳優)はLD(識字障害)で台本が読めない困りごとを抱えていると自ら告白しています。
発達凸凹があっても、社会で活躍している人は意外に多いのです。
そもそも、優れた成功を収める人は、それに精進できる才能、つまり脳に特性がある人だということにお気づきになりませんか?お子さんの特性は、才能に直結しています。
脳の特性の凸の部分を伸ばしてあげながら、凹の部分の苦手や困りごとを減らしてあげればよいのです。
「発達障害」であろうがなかろうが、お子さんはお子さんです。目の前の現実は何も変わりません。お子さんには、お子さんにあった育て方と育ち方があります。診断は、お母さんがこれからお子さんをどのように育てていくかを考えるきっかけに過ぎないのです。
今のお母さんにとって一番大切なことは、
「発達障害」と指摘・診断されたショックから一刻も早く気持ちを切り替え、お子さんの特性を理解し、支援してあげること。落ち込んでいる時間がもったいない!
お子さんの最も身近にいるお母さんが一番の先生です。がんばりすぎず毎日のお子さんの成長を楽しみませんか?
お子さんは満面の笑顔でお母さんに応えてくれますよ。
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執筆者:青山 明生(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
(文学・学術修士、メンタルトレーナー)
(文学・学術修士、メンタルトレーナー)