ここ15〜20年ほど「発達障害の理解を深めて対応しよう!」という流れがあった一方で発達障害の人への対応に疲れて限界な人たちもいます。既に「発達障害だから」と言い訳できない時が来ています。将来に希望を持つために、今できることはなんでしょうか。 |
【目次】
1.軽度の発達障害・グレーゾーンの人に対する周囲の変化が意味することとは?
2.発達障害の対応に疲れ果てた人たち「カサンドラ症候群」の声
3.だからこそ、発達障害・グレーゾーンの対応は、幼少期からが大切なのです
1.軽度の発達障害・グレーゾーンの人に対する周囲の変化が意味することとは?
私が発達障害の対応についてつづるのは、発達障害を治せる薬がないこの時代にできることを、みなさんに知って欲しいからです。
発達障害は、とにかく「行動」で語られがちです。
だから私はずっと脳の研究をして来ました。行動の奥にある「発達障害の実態」を知って、診断法や治療法や対応法を進化させたかったからです。
脳を知っている私だからこそ言えることがあると信じていますし、周囲の対応次第で、発達障害の脳も良い方向へ成長していく事実を知っています。
が、私は最近、ちょっと嫌な予感がしています。
「陰(いん)極まって陽(よう)に転ず」
こんな言葉があるのをご存知ですか?
陰陽とは、ものごとの対極と言い換えてもいいかもしれないですね。
白黒
裏表
プラスとマイナスなど。
この言葉は、「物事がある一方に究極に傾けば、必ずもう一方へと傾き始める。何ごとも振り子の原理で進む」と、私は理解しています。
悪いことが続かないように、良いことも続かない。
季節がめぐるのを止められないように、モノゴトが反対側へ動き出すときが必ず来る。私は、発達業界がこの状態に近づいていると感じています。
ここ15〜20年くらい、「発達障害の理解を深めて、対応しよう!」という大きな流れがありました。だから、医療も教育も福祉も、そしてビジネス界までも、発達障害に対する受容的な流れができつつありました。
もちろん、当事者やご家族にとっては、まだまだ支援が足りない状態だと思います。
この間お会いしたお母さんは、「学校の先生たちは、本当に理解して対応してくれる人と、心の中でバカにしている人と、結局半々でしたね。」とおっしゃっていました。
実際のところ、そんな確率かもしれません。リアルな感想だと思います。
だからこそ、「発達障害の対応をもっと進めよう」という流れはこれからも進むと思いますし、進むべきだと思います。
ですが、その一方で発達障害への対応に限界を感じている人がいることをご存知ですか?
2.発達障害の対応に疲れ果てた人たち「カサンドラ症候群」の声
それは、発達障害の対応に疲れ果てた人たち、つまり「カサンドラ症候群」と呼ばれるような人たちの声です。
発達障害をもつ子どものお母さんだったり、
発達障害の夫をもつ妻であったり、
発達障害をもつ人の上司や部下であったり。
最初から、発達障害を突っぱねている人たちではありません。突っぱねる人たちは、そもそもこの業界との接点を持とうとしません。
疲れ果てている人たちは、最初は懸命に、時代の流れに乗って、理解しようとしたり対応しようとしたりした人。もしくは、発達障害とは知らずに必死で家族や近くにいる人を何とかしなくちゃと思っていた人たちです。
実は今、この方たちが病んでいます。もう限界な人たちが溢れ始めています。
なぜなら今、ビジネス界では、
発達障害の人がこなせない仕事を代わりに背負い、
発達障害の人が年中起こすミスを処理し、
発達障害の人が守れない締め切りのしわ寄せを食らい、
発達障害の人に言えない文句を代わりに浴び、
それなのに発達障害枠で採用される人より薄給で働き、うつになる…。
こういうことが起こっているからです。実際に私たち専門家の研修などでも、支援者への支援が、ひと昔前よりも注目されています。
近い将来に、必ず「発達障害に優しすぎるのは考えものだ」という声があがります。「発達障害だから」と言い訳できない、キツイ日がすぐそこに来ています。
こういう声を浴びるのは、おそらく軽度の発達障害の方々です。皮肉なものですが、中等度以上の方には起こりにくい声です。
一見して発達障害だとは分からない難しさを持っているからこそ、「好きなことだけ、楽なことだけ、できることだけやってる!」と、言われかねません。
もちろん、事実は違います。
当事者には、当事者にしか分からない苦労があります。
でも、社会保障費が枯渇している上に、少子化によって働く世代が減少しているこの国では、国や医療や公立学校の支援も必ず頭打ちになります。これは絶対です。
「陰極まって陽に転じる」
発達障害への優しさも極まると、「優しすぎるのも考えものだ」という声が上がると予感しています。
この波がすぐそばまで来ていると感じます。少なくても東京は。地方だと数年ズレるかもしれませんが。
だからこそ母親の力が試されます。
発達障害への支援がゼロになることは、もうないと思います。子ども時代の支援も、ある程度保証されていると思います。
心配なのは、大人です。ビジネス界です。
就労支援や、就労以降の支援は一度、手薄になることはあるかもしれません。お母さんにしてみれば、まだ十分な支援ではないのに、さらに手薄になるのか?とお感じになるかもしれません。
でもリアルな社会情勢としては、軽度発達障害の場合、大人になってからの支援は期待できない(かも)ということです。
ビジネス界の発達障害の対応が、今よりも手厚くなることは…少ないかもしれません。
おそらく発達障害の対応が今より進むコミュニティと、「そんなの関係ねー」と突っぱねるコミュニティに二極化するかもしれませんね。
3.だからこそ、発達障害・グレーゾーンの対応は、幼少期からが大切なのです。
支援を受けられる間に、できだけ症状が目立たないような行動習慣を身につける。
あるいは自分自身をマネジメントする能力を身につけておかないと、大人になってからとんでもなく苦労することが目に見えています。
「鉄は熱いうちに打て」ということわざは、発達障害のためにあるんじゃないか?と思うほど、治療効果を言い当てています。
特にグレーゾーン(パステル)の子どもたちは、幼少期に対応しておけばほとんどの特性は目立たなくなります。
発達障害の薬は、今は教育のみです。支援を先送りしている猶予はありません。
だからこそ、これからの時代、お母さんたちの力が試されます。どんなに苦労しても、子どもの成長を最後まで諦めない人は、母親に違いないからです。
支援が薄い社会の中でも、家庭の中に支援があれば、子どもは救われます。
一番苦労しているお母さんに、さらに頑張れというのは、私も正直かなり気が引けます。私がお会いするのは、もう既に頑張っている人たちばかりだからです。
でも、現実に目を背けていられません。
学校に期待するには限界があります。その代わり、頑張り方が大事だ、ということを分かってください。
コツがあるんです。
むやみに頑張っては、あなたのメンタルが崩れてしまいます。発達障害の対応は、我流では限界があります。科学的な視点が欠かせません。適切な頑張り方をすれば、疲れないで支援を継続することができます。
笑いながら、支援をし続けることができます。
私が尊敬するお母さんたちは、それはもう、医療機関いらず、学校いらず。家が、学校であり、医療機関のようになっています。
「そのお母さんが特別なんでしょ!?」と思われるかもしれませんが、そのお母さんたちだって、最初はボロボロで疲れ果てていたのです。
そんなお母さんたちを変えたノウハウを、ずっと発信し続けていきたいと思っています。
執筆者:吉野加容子
(発達科学コミュニケーショントレーナー、学術博士、臨床発達心理士)
(発達科学コミュニケーショントレーナー、学術博士、臨床発達心理士)