1.好きなことや得意なことがなかなか見つからないとき…
発達障害・グレーゾーンの子どもを育てていく中で、将来この子らしく仕事ができるように得意を伸ばしてあげよう!と意識していらっしゃるお母さんは多いと思います。
将来に役立ちそうな得意なことが小さな頃から見つかっていれば安心ですが、
「得意なことや好きなことはあるけど人と比べるとそうでもないし…」
「社会で活躍できるほどの得意ってどう探せばいいの?」
と理想と現実のギャップを感じることはありませんか?
アスペルガータイプの子どもはこだわりが強かったり、かしこすぎるために他者とのコミュニケーションで失敗が多かったりするため、「この子は社会に出ることができるのかな?」という心配もあるかもしれません。
今回は、大人の積極奇異型でアスペルガー特性のある女性に「失敗体験から自分に向いてる仕事を見つけるコツ」を聞いてきました。
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2.大人の積極奇異型アスペルガーさんに聞く、辛かった仕事の失敗談
お話を聞かせて頂いたのは、Koutonさん。大人になってからASD(自閉症スペクトラム)、ADHD(注意欠陥多動性障害)の診断を受けました。アスペルガータイプで、勉強には困らなかったものの、ご両親や友人との関係で悩んでいたそうです。高校卒業後、大学進学、就職、語学留学を経て、学習支援事業を営んでおられます。
ーーkoutonさんは、現在は塾経営や家庭教師として学習支援のお仕事を運営されているのですよね。社会に出てからずっと同じお仕事をしているのですか?
「現在の仕事を一人でやり始めたのは10年程前からです。もともとは公務員で、専門技術職員として病院で働いていました。ただし、病院で働くのが夢だったあまり、力が入りすぎてうまくいきませんでした。
私だけが大卒で高学歴だったこともあり、自信過剰なふるまいがあったのだと思います。仕事のトラブルはないけど、同僚とうまくやっていくのがストレスでした。公務員が合わないと思って、辞めて、同じ職種で民間の病院に務めたのですがやはりトラブルになることが多かったです。」
ーー職場の人間関係ではどのようなことが辛かったのでしょうか?
「私はルールに厳格で正義感が強いので、こっそりルールを破ってもいいという暗黙のルールが職場にあったり、上司がしっかりしていなかったりしてとてもつらく感じたんです。周りに合わせて妥協しなければいけないと感じるのは組織の中だと苦しかったですね。
病院勤務だったので、患者さんをだましてしまっているんじゃないかと苦しくなっていきました。こだわりですよね。患者さんには好かれていたけど、上司には面と向かって意見したりするので嫌がられていました。
また、病院は女性が多いので女同士のコミュニティの中で生意気と言われたり、女性の暗黙の了解があったり、そういうところもきつかったです。田舎だったので、自分は大学を出たんだと天狗になっていたこともあるんですけどね。」
ーー本当に正しいことを選んで進みたかっただけなのだと思いますが、それを否定的にとらえられてしまうと悲しいですよね。正しいだけでは社会の中では苦しくなってしまうのですね。
3.好きなことより得意を活かすとうまくできた!
大学卒業後、自分に合わない職場で苦しい思いをしたKoutonさんですが、現在のお仕事はどのように決めたのか聞いていきたいと思います。
ーー転職する際、学習支援の道に入ったきっかけを教えて下さい。
「大学生時代、バイトをかけもちでしていました。その中の一つが大手塾の講師でした。他のアルバイトにくらべ、うまくいっていたんです。一番向かなかったのは、ファーストフード店のバイトでした。
病院の仕事を辞めて新しい仕事を探していた時、好きなことじゃなくて、得意なこと・できることを探そうと思いました。私は、勉強だと余裕をもってできたんです。病院だと自分の持っている力を振り絞って全力でやっていたのだけど、勉強を教えるのは8割位の力でできると気づきました。それがきっかけで、最初は、非常勤講師として講師をするようになったんです。」
ーー今の家庭教師や塾の講師の仕事はご自分に合っていると思いますか?
「そうですね!合っていると思います。私は積極奇異型のASDで、相手にぐいぐいいくところがあります。
※積極奇異型:イギリスの自閉症スペクトラム研究者ローナ・ウィングがASDの特性を3つの型に分類。そのうちの1つが積極奇異型で、積極的に人と関わろうとするタイプを指します。
医療現場では病気で痛みがある、命がかかっているという人達が相手なので真剣に向き合いすぎて疲弊してしまうこともありました。
今の仕事の場合、家庭教師や塾の経営をしているのですが、勉強を教えるという隔たりが一枚あるので楽になったんです。勉強を教えるという作業は、命のようにそこまで切迫されていないので仕事についてよく考える余裕もありますね。小さな頃から色んな事を調べて学ぶ力がついていたので、子ども達に考える楽しさを教えることができる。そんな力も役立っています。」
ーーわからないときに自分で調べて学ぶ力はどこからきていると思いますか?
「私は、両親に愛情を持って育てられてこなかったので、認められる経験が少なかったんです。だから、親に授けられたというわけではないのですが…
幼い頃は、みんなが集まって遊具で遊んでいるときに、葉っぱを見て、図鑑を持ってきて調べたり、スケッチしたり、潰して色々作ったりしていました。それが楽しくてやっていたのですが、そんな風に試行錯誤する経験を積み重ねてきたことがよかったのかなと思います。」
ーー人とのコミュニケーションが苦手な子は、みんなと遊ばずに自分の世界に入って一人で遊ぶ場面はよくあると思いますが、その中で色々と考えて学び、自分の力にしているということがよくわかります。夢中になれるものがあるというのは、将来にとって大きな財産となるのですね。
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4.自分に向いてる仕事を探すコツは苦手と決めつけないこと
一度失敗してから適職を見つけることができたKoutonさんですが、学生時代のバイトでもたくさんの失敗体験があったそうです。
ーー学生時代のバイトでも色々と失敗体験が多かったそうですね。失敗体験がその後の仕事選びにも生かされたと思いますか?
「そうですね。制服に憧れて始めたファーストフードの仕事は、マルチタスクが多くて駄目だったのですが、クレープ屋さんはできたんです!一見すると食品関係で似ています。
何が違うのかな?と考えたました。すると、クレープ屋さんはファーストフードよりもやることが少ないし移動も少ないですよね。細かく作業を分解して考えることで自分に何が合うんだろうと考えるきっかけになりました。」
ーー好きなことと、得意なこと・できることをの違いにご自分できづいたことが素晴らしいですね!子どもが自分で気付けるように、親として関われることはあると思いますか?
「親は子どもにラベリング(レッテルを貼ること)をしがちです。例えば、ピアノが弾けない場合、ピアノが苦手なだけで音楽全部駄目なわけじゃない。でも、この子は音楽が苦手と思っちゃうことありますよね。
難しい問題ができるのに簡単な問題ができない子がいるとして、間違いばかりを指摘されたら『自分は勉強ができない』と本人も思っちゃう。
私も自分が不器用だと思っていてすごく嫌でした。憧れて入ったバイトでも失敗ばかりでしたし。でもネイルアートは得意だし、大学は工学部だったのですが電気工作も得意でした!大人になったら筋力もついてきて大丈夫になったんですね。だから、レッテルを貼らないことが大事。色々と提案してあげるといいと思います。」
ーーKoutonさんありがとうございました!たくさんの経験談を聞けて子ども達の未来への不安が少なくなりました!見えていなかった力があるんじゃないかとワクワクしてきました。
5.子どもが自分で決める時期まで選択肢を増やそう!
皆さんは、子どもの好きなもの・得意なもの探しをするときに、失敗させないように先回りしてしまうことはありませんか?
我が家でも、中学2年の息子は小さな頃から不器用なところがあります。一時期、ミニ四駆が大好きではまっていたことがあったのですが、自分のイメージと完成した作品の違いに悩みやらなくなってしまいました。
「工作系は不器用だから仕方ない、他に得意なことやればいい」と思っていたものの、そういえば爪切りは上手だったり、細かいところの掃除がとても丁寧だったりすることに気づきました。
もしかしたら、ミニ四駆はものすごくかっこいい作品イメージを頭の中で作っていたから、うまくいかなくて落ち込んだけれども、自由に創造するものでなければけっこう向いているのかも⁉
と、新たに息子の可能性に気づくことができました。
「これは苦手だろう」と思ってあらかじめ避けてあげたり、
「これはこの子には向いていないから」と最初からやらせてあげることが頭になかったり。
早く子どもの得意を見つけてあげたいと思うあまりに、子どもの選択肢を狭めてしまっていたのだなと、Koutonさんのお話を聞いて反省点がいくつも思い浮かびました。
苦手なことがあっても少し目線を変えたり、方法を変えればできることがある。
失敗から本当に自分にあっている道がわかることがある。
今回学んだことを皆さんも一緒に子育てに活かしていきませんか?
子どもの頃はまだ、好きなものと得意なものとの違いがわからないことも多いと思います。それでも大丈夫。
まずは大人がやってみて、楽しんでいる様子を見せてあげる
子どもからやりたいと言ったことは先入観をなくして応援する
失敗したときは「これは難しかったけどこれはできそうだよ」と提案してみる
大人になるまでに、色んなことを経験させてあげたいですね。失敗もあるかもしれないけど、何を自分の得意として身につけていきたいかを考えて決めるのは子ども自身です。
親は、得意なことは何かな?好きなことは何かな?と観察する目を養って、子どもが自分のことを知れるチャンスをたくさん増やしていきたいですね!
執筆者:すずき真菜
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
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