発達障害の特性を持つ息子は、難解な熟語を駆使してしゃべります。うちの子天才かと思ったら、文章は書けませんでした。構文する力は語彙量とは比例しません。豊富な語彙を作文に活かせるようになってほしくて、脳内の整理整頓を手伝いました。
【目次】
1.発達障害あるある?嫌いな日記、書く?諦めちゃう?
2.作文に必要なのは天才的な語彙力じゃない
3.感情が腐る前に母が口述筆記
4.根気よく続けることで、作文力を習得
1.発達障害あるある?嫌いな日記、書く?諦めちゃう?
発達障害の特性を持つ小学3年生の息子は、宿題など嫌なことはやりません。
週末に出される日記の課題。放っておいたら手を付けません。
そもそも文字を書くということがとても苦手で、学校でも板書は免除してもらっています。
…というのは表向きで、実は「書きたいことなら書くけど、書かされるのは嫌い」と断言しています。
理解のある特別支援学級の担任の先生は、日記は無理に取り組まなくてもいいですよと言ってくださっているし、私も嫌なら無理に書かなくてもいいかなと思っています。
実際、提出できる週とできない週と半々です。
しかし、「ことば」自体は、発達凸凹を持つ息子の数少ない強みでもあり、ここを避けてしまうのは、惜しいと思うのです。
2. 作文に必要なのは天才的な語彙力じゃない
息子は幼稚園の頃から、脱衣所に自分の本棚を作り、家じゅうの家電の取扱説明書を集めています。
お風呂に入る前に、脱衣所で30分説明書を読むという、風変わりな習慣があります。
全部読んでしまったので、祖父母の家からももらってきました。
もちろんフリガナは振っていませんが、ある時すらすらと音読しているのを聞いて度肝を抜かれました。
入学前の用品準備で行ったお店では、「二種類のレールを走れるから、こっちのほうが汎用性が高いね」とおもちゃの電車を指して言いました。
発達障害の存在を知らなかった当時の私は、「うちの子天才?」って思いました。
そして、こんな難しい言葉を読めて使えるのだから、当然作文も得意だと信じて疑いませんでした。
しかし就学後、いざ文章を書く課題が出始めると、 取り組むことすら嫌がります。
おしゃべりしていれば、副詞や形容詞の語彙も豊富で、豊かな表現ができます。
並べればいいだけなのに、どうしてできないの?
息子の話し方をよくよく観察してみると、その場その場で発したい言葉は上手に発します。
しかし少しさかのぼって、どんなことがあったのか説明してくれる?という尋ね方をすると、時系列はめちゃくちゃで、だれが主語なのかすらよくわかりません。
言語理解と滑らかなアウトプットは、常に一体なわけではないということを知りました。
いま、この瞬間を生きている発達凸凹キッズは、短期記憶のテーブル、いわゆるワーキングメモリが弱い場合が多いです。
いつもテーブルの上がごちゃっと散らかっていて、過去も現在も、友達も先生も、分類できる状態ではありません。
ここの整理整頓が進んで何がどこにあるのかが分かるようになってくると、順番に並べることができるようになります。
3.感情が腐る前に母が口述筆記
豊富な語彙をなんとか活かしてあげたくて、脳内の整理整頓は、私が手伝うことにしました。
いつ、
どこで、
だれと、
なにをしたの?
どう思った?
をインタビューして、回答を私がメモします。
特に「どう思った」は、ふくらまし甲斐があるので、「へえ~そんなふうに感じたんだ!もう少し詳しく教えて」と深堀りして、これもメモします。
褒めながら、驚きながら、笑いながらのおしゃべり形式だと、いろいろな感情を引き出すことができます。
取材メモを、いつどこで…の順番に並べるだけで、日記になりました。
後は並べるだけだからできるでしょ?ではなく、ここも母がもうひと頑張り!一度下書きをしてあげます。
多少不自然な表現があったとしても、息子の言葉ですからそのまま並べます。
これで合ってるかな?と一度息子に読んでもらい、大丈夫そうなら書き写してもらいます。
ここまでできていると、息子は接続詞や副詞、語尾など、自分なりに手を加えながら書き進めることができます。
メモを並べて下書きを代理してあげただけで、紛れもなく息子の言葉で書いた日記の完成です。
必ず最後に音読してもらい、読みやすい、つまり上手に書けている、ということを再認識させて、自信をつけてもらうようにしています。
成功体験として記憶させるのが目的ですから、さも、自分ひとりで書ききったかのように褒めてあげれば良いのです。
ここで、もうひとつ重要なポイントがあります。
体験をしてから72時間以内に書くこと。3日以内です。
なぜなら、感動は、時間とともに鮮度が落ちていくから。
ふれあい動物園で触ったヒヨコの感触、家族で観た映画で涙したシーン、海釣りで感じた潮風、魚に引っ張られる竿のしなり具合。
覚えているつもりでも、心が動いたその瞬間の熱量は徐々に失われていきます。
しかし、72時間以内にアウトプットしたことは、長く記憶にとどめることもできます。
息子にこの脳のメカニズムを説明したところ、「早く書かなきゃ感情が腐っちゃう!」と言い、日記に取り掛かるのも早くなるという、思わぬ副産物もありました。
4.根気よく続けることで、作文力を習得
こうして、毎週毎週、パターンで答えやすそうな出来事を選んでインタビューを続けました。
もちろん、途中で嫌になっちゃう時もあるので、そんな週は潔くお休みです。
「書く」にこれ以上苦手意識を持ってしまっては本末転倒ですから。
いつまでも私がつきっきりで手伝うわけにもいかないとは思うものの、伸ばしてほしい力は他にもあるので、作文は、ひとまず現状維持できていればOKという認識でした。
しかし、我が家に待望のペットがやってきた日のことです。
半年以上私のインタビューを受けてきた息子は、机に向かうなり、いつどこで…のパターンを使い、10分足らずで日記を書き上げました。
だれが読んでも充分理解できる書き方になっています。
感動をすぐに文章にできたことは、大きな成功体験となりました。
発達に凸凹のある息子は、ひとが真似できないような奇想天外な着想や、思いもよらぬ創作をすることがあります。
これらを上手に発信するためのツールとして、作文力を身に着けさせてあげたいと考えています。
「鉛筆で書く」につまづいて諦めてしまっては、もったいない!
自ら書きたいと思えるような、心が動く体験をさせてあげることも、息子の好みをよく知っている母親だからできるサポートのひとつです。
いつか、豊富な語彙を活かして表現することの楽しさに気付く日が訪れるといいなと思っています。
作文サポートの方法、まだまだあります。
執筆者:髙田 礼
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)