不登校中に外出する機会が減ると、気持ちも内向きになり親子ともに心身のバランスを崩してしまうことも。けれどお母さんが視点を変えることで、その先の未来は大きく変わっていきます!ギフテッドが登校再開を決意するまでの、母と子の道のりをお伝えします。
【目次】
1.長引く不登校…親子で回復の糸口を探った日々
2.悩み続けて体調を崩した母への心理士のひと言
3.「他人軸」からの卒業…もっとわがままになっていい!
4.『すべておまかせプラン』の外出でギフテッドの本領発揮
5.「自己効力感」で登校再開を決意した息子
1.長引く不登校…親子で回復の糸口を探った日々
私の息子は一人っ子で、現在小学6年生です。
ギフテッドで発達凸凹(非同期発達ともいいます)があり、4年生から5年生までの二年間、不登校と五月雨登校をくり返しました。
休み始めた4年生の頃はまだ心身の状態も不安定で、あまり外出をする余裕もありませんでした。
クリニックなどの数少ない外出のチャンスでさえ、不安になってかんしゃくを起こし、直前にキャンセル…というくり返しの日々。
母親の私も、家で荒れている息子の対応だけでヘトヘト。
「外に出ると近所の人や友だちに会うかもしれない」という気持ちから、平日は極力外出を控えていたほうが無難だと思っていたところもありました。

不登校中って、親子ともに本当に消耗します。
先が見えないトンネルの中に迷い込んだような、深い深い閉塞感、焦燥感、そして挫折感。
だから、安心できる家の中でゆっくりと静養することはとても重要です。
けれど、家というかなり閉鎖された空間の中でずっと親子だけで密に過ごしていると、 やはり行き詰まってしまいますよね。
勉強に関しての一切を拒絶していた息子は一日中パソコンに向かい、私は不登校や子育てに関するネットサーフィンに明け暮れる。
やりたいことをやっているとは言えるものの、親子ともにどんどん内にこもっていく感じがしていました。
それでも時には二人で絵を描いてみたり、カード占いをしてみたり。息子が落ち着いていそうなときには、今後のことなどを尋ねてみたりもしました。
家での時間が少しでも充実するように工夫しながら、回復の糸口を探る日々が延々と続いていきました。
2.悩み続けて体調を崩した母への心理士のひと言
しかし、そんな時期が長く続き、ストレスや睡眠不足が蓄積された結果、今度は母親の私が体調を崩してしまったのです。
予約から3ヶ月待ってようやくクリニックを受診すると、すでにうつ病の一歩手前。
不安神経症と併せて、睡眠障害も発症していました。
「こんな状態では、息子のサポートなんてできない。いっそ消えてしまいたい…」
毎日がとても苦しく、そんなふうに思ったことも何度かありました。
けれどある日、クリニックの心理士の先生から、
「お母さんが価値観をひっくり返すしか、回復の道はないです」
と言われ、
「これは、息子の問題ではなく、私自身の問題なんだ。まさに生き方を変えるべき時が来てるんだな」
と気づいたのです。

それまでの私は、息子の不登校を頭では理解しているつもりでも、心のどこかで、
「どうしてうちの子が…? 間違いであってほしい」
「何とか早く学校に戻って、他の子と同じように中学受験の準備を始めてほしい」
といった気持ちをどうしても手放せないところがありました。
自分が思い描いていたルートを外れてしまった息子の現状を、なかなか受け入れられなかったのです。
けれど、心理士の先生とカウンセリングを重ねるうちに、息子の特性や現状にしっかりと向き合う姿勢が整い、
「発達にかなりの凸凹がある息子にとって、今の姿はむしろ自然。つまり、不登校は成長の一過程にすぎないのでは?」
「幸せのかたちって、その子によって違うよね?」
という柔軟な考えに変わっていきました。
そしてさらには、
・私がこのまま「他人軸」で、不登校をネガティブなことだと決めつけ続けたら、 ユニークな個性や才能を持って生まれてきた息子のこれからはどうなるだろうか?
・この先息子にどんな接し方をしたら、お互いに穏やかに笑顔で暮らせるだろうか?
・いつか息子が自立できるようになるには、どんな教育環境の選択肢があるだろうか?
といったように、視点を未来へとフォーカスしていけるようになったのです。
3.「他人軸」からの卒業…もっとわがままになっていい!
親である私の意識が変われば、当然子どもも変わります。
加えて発達科学コミュニケーション(発コミュ)で習った肯定的な接し方を続けた結果、息子のかんしゃくや暴言、暴力は次第に落ち着いていきました。
そして私は、長い間ため込んだ睡眠不足を解消するがごとく、毎日とにかく時間を見つけては眠り続けて…体調も少しずつ回復していきました。
そう、「他人軸」を卒業すると決めたことで、自分たちの回復だけにまっすぐ集中できるようになったのです。

その後、不登校も二年目に突入し、親子ともに落ち着いてきた頃、私は、
「今の息子が心から楽しめて、かつ私も興味が持てるような場所ってどんなところだろう。もしかしたら、そこにお互いのさらなる回復のチャンスがあるかもしれない」
「息子と一緒に平日も堂々と出かけよう。もっとわがままになっていいんだ!」
と考えるようになりました。
息子はHSC気質でもあり、とても慎重なタイプ。大きな変化や冒険は好みません。
安心できる場所で、少しの非日常もプラスできたらいいなぁ…そんな気持ちで息子に相談すると、なんと即答が!
もう機は熟していたのですね。
4.『すべておまかせプラン』の外出でギフテッドの本領発揮
「お母さんと大きなショッピングモールに行って、たくさん歩きたい。まだ行ったことがないところに、時間をかけてバスで行ってみたい!」
それは私にとっても魅力的なプランだったので、もちろんその場で快諾。行き方もランチのお店選びも、すべて息子にまかせることにしました。
連れていかれるのではなく、連れていく感覚のお出かけ。
それは息子にとって小さな冒険でもあり、とても新鮮だったようです。
当日も、いつになく順調に準備を整え、ニコニコ笑顔で家を出ることができました。

郊外にあるそのショッピングモールは、敷地内にビルが5つもあり、実際に行ってみると想像していた以上の広さ。
とても一日ではまわりきれない印象でした。
見たいお店もいくつかのビルに分散しており、方向音痴気味な私は、フロアガイドを片手に右往左往。
「早くこの店にたどり着きたいのに!ビルも階も違うし、わかりにくいなぁ…」
すると、隣にいた息子が、
「まずここをまっすぐ行って、改札の脇のビルに入って、一番奥のエスカレーターで降りたあたりにあるはずだよ。行ってみよう!」
とスラスラ教えてくれたのです。
…そうでした!
息子は『空間認識能力』、つまり「物(立体)がある方向や形状を瞬時に正確に認知する力」が高く、デパートのフロアガイドなどを見るとすぐに、「現在地」と別の階にあるお店との位置関係を理解して説明できるのでした。
「この場所のちょうど上のところには、○○のお店があるんだねぇ!」
大型ショッピングモールのエスカレーター脇にある案内図を指さし、得意そうに説明していた幼稚園の頃の姿が急によみがえってきました。
「そっかぁ、初めから息子くんにきけばよかったね!時間ムダにしちゃったよ!」
「息子くん、頼りになるなぁ…!お母さんほんとに助かった。ありがとう!」
私の心からの感謝の言葉に、息子はうれしそうに目をキラキラ輝かせながら、
「どういたしまして。ぼくってお母さんの役に立てるんだね!」
と満面の笑顔で答えてくれました。
5.「自己効力感」で登校再開を決意した息子
ふつうに聞けば、きっとささいな、取るに足りないやりとりかもしれません。
実はこの出来事が、息子にとっての大きな自信となったのです。
「自分はダメなんかじゃない、人の役に立てるんだ!」
「お母さんの苦手なことを助けてあげられるんだ!」
そう思えたことが本当にうれしくて自信につながった、と息子は今でも時々、当時を振り返ります。
私にとっても、不登校が長引く中、息子のネガティブな発言や行動にばかり気をとられ、得意なことや好きなことに目をむけるのを忘れていたことに気づかされた貴重な出来事でした。
自分は誰かの役に立てる、必要とされる存在であるという信念。
まだできるかわからないけれど、努力すればできるかもしれないという希望。
これが、「自己効力感」です。
それを育てられれば、まだ見えない未来にもスッと明るい光が差し、人は自然に動き出せるのですね。
その証拠に、次の日から息子は、
「ぼく、そろそろまた学校行こうかな!」
と笑顔で口にし始めました。

息子はギフテッドですが発達凸凹があり、みんなと同じことを同じペースでするのが得意ではありません。
息子にとっての居心地の良さや安心感を考えたら、学校に行けるようになればすべてOK、というわけではないのはわかっています。
けれど、「また行ってみよう、自分ならできるかもしれない」と前向きになれる経験ができたのは、その後の私たち親子にとって、とても意味のあることだったと言えるでしょう。
また、ギフテッドの子は、完璧主義で理想が高いところがあり、ふだんはほめても伝わりにくいことが多々あります。
もし何かができてほめられたとしても、
「いや、これくらい誰だってできるし」
と、そっけない反応だったりします。
しかし今回ばかりは、息子くんにとってもひしひしと実感がともなう、新鮮で特別な経験だったのだと思います。
今、不登校のお子さんと外出することに消極的になっているお母さんたちに、ぜひ伝えたいです。
人目を気にして「他人軸」で生きている限り、不登校はネガティブなまま続いていくでしょう。
不登校中だって、いや、だからこそ、平日に好きなところに出かけていいんです!
その際にはぜひ、お子さん自身が考えたプランで、親子でお出かけすること(親も楽しめる内容で)をおすすめします。
そして、お子さんの得意なこと・大好きなことに、改めてしっかりと目を向けてみてください。
その優れた能力が生かされる体験をし、お母さんと喜びを分かち合うことで、お子さんの自己効力感はどんどん磨かれていくはずです!
さて、ショッピングモールへの外出を境に劇的変化を遂げ、少しずつ学校にも慣れて、今では毎日元気に登校している息子。
時折、自分自身の気持ちを確かめるように、
「学校、いいよ。 楽しいよ!」
と言ったりしています。
今振り返ってみると、壮絶でありながらも私たち親子に大きな成長を促してくれた「不登校」。
確かにつらいこともたくさんありましたが、その経験を通して、息子の特性をよりおおらかにとらえる視点が身につき、私たち親子なりの「軸」を持てるようになった気がします。
不登校を貴重な成長のチャンスに変えるヒントがたくさんあります!
執筆者:片山 さち
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)