IQが平均以内にある発達障害・グレーゾーンの人たち。彼らの言語発達は独特なので、指示を出すときには、言葉のチョイスを工夫しなければなりません。シリーズでお送りしている言葉のトラブル解決の巻。今日は中級編です。 |
【目次】
1.発達障害あるある!?意味不明の行動をとる子ども
2.言葉の「字面」と「意味」を分けて考えてみる
3.中級編:発達障害・グレーゾーンの子どもに伝わる指示の出し方
1.発達障害あるある!?意味不明の行動をとる子ども
シリーズでお送りしている言葉のトラブル解決の巻。今日は中級編です。
復習したい方(初級編)はこちらの記事をご覧ください。
発達障害・グレーゾーンの子どもと接している方は、多かれ少なかれ「わざと怒らせるようなことをしてる?」と思うような場面に出くわすはずです。
例えば、こんな場面。
放課後、学校の先生が発達障害・グレーゾーンで算数が苦手なK君のために、特別にマンツーマン算数を教えようとしています。
教室で待っていたK君のもとへ、担任の先生がやってきました。
もともと整理整頓が苦手なK君。今も机の上には、開いたままの筆箱、ノート、本、理科の教材、得体の知れないメモなどが散らばっています。
先生は優しく言いました。「算数はじめるよ!机の上をキレイにしてごらん」
するとK君は、机の上で両腕を伸ばして、車のワイパーのように動かしました!当然、机の上にあったものは全て床に落ち、今度は机の周りが散らかってしまいます。
これ、発達障害あるあるです!
この場面、もしあなただったら、どうしますか?なぜ、K君はこんな行動をとったのでしょうか?
2.言葉の「字面」と「意味」を分けて考えてみる
初級編でもお話しした通り、発達障害の子どもは(大人も)、言葉の字面をそのまま理解し、言葉で直接表現されていない意味には気づきません。
このことを知らない先生だったら、
「K君は算数が嫌いだから、机の上のものを全部落として妨害しようとしているんだ!」
と思ってしまうかもしれません。ありがちなのは、
「優しく言ったって、言うことを聞かないじゃないか!やっぱり強く言わないと、この子は分からないんだ!」
いつも整理整頓ができていない姿を見ていますから、たまりかねて責めてしまうかもしれませんね。
でも、責められた子どもはびっくりです。だって先生は、「机の上をキレイにしよう」と言ったんですから。
「そんなの屁理屈だ!」と思われるでしょうね。確かに、ほぼ屁理屈です。
発達障害の子どもや大人は、年中「屁理屈」「理屈っぽい」と言われています。でも、悪気はありません。
先生はきっと、
「机の上の物を、きちんと片付けよう」
「机の上も、床の上も、とにかく自分の周りをキレイにしよう」
ということを意図していたはずです。でも、残念ながら言葉では言ってないんです。
決してK君は、算数が嫌いで妨害したいから、机の上の物を乱暴に床の上に落としたのではありません。
その行動が、指示を聞いていることだと思っています。むしろ「さぁ、先生キレイになったよ!」くらいの気分です。
それなのに、「算数が嫌いだからって、どうしてそんなことするの!?」って怒っても何も現実は変わりません。
K君は、自分の言語理解のミスに気づきませんから、次回もまた同じ失敗をするでしょう。
発達障害の人たちは、言葉の裏にある他者の意図を汲み取るのが苦手です。ですから、やって欲しいことは、ストレートに言葉に出すことが肝心です。
3.中級編:発達障害・グレーゾーンの子どもに伝わる指示の出し方
では、この場合の正しい指示の出し方はどうだったでしょうか?
初級では、単語のチョイスさえ気をつければ、1ステップで指示がうまくいく方法をお伝えしました。
でも中級は、1ステップではなく、複数のステップを踏みます。
まず最初に言うのは、目的と一番目の行動です。
「机の上をキレイにするから、筆箱のフタを閉めよう!」
子どもが行動するのを待って、「次は、ノートを閉じて机の中にしまって」
子どもが行動を終えるのを待って、「本を、本棚に入れて」
というように、1つ1つ行動を言語化して指示を出します。
なぜなら、K君は普段から整理整頓が苦手で、「片付けて」と言ったところで、自分一人ではまだ片付けられないからです。
え〜、じゃあこんな手のかかる指示を一生出し続けるワケ!?と思われるかもしれませんが、もちろん、そんなことはありません。
机の上がキレイに片付いて、目的を達成したときにして欲しいことがあります。
その1 ゴールの状況をよく見せる
机の上が片付いて、床の上も散らかってない。「これが正解だよ」という状況をよく見せて、理解させます。
その2 ゴールに至った行動を言語化させる
「すごく上手く片付いたね!どうやって片付けたか、思い出して言ってごらん!」と促します。このステップが重要!子ども自身が行動を整理できます。
その3 次から使う言葉を示す
仕上げとして、「次から、“キレイにして”と言ったら、今自分で言ったことをするんだよ」と言葉と行動の対応をインプットさせます。
行動をさせた後、その行動を言葉でネーミングする感じ、と言えば分かりやすいでしょうか?
そして、記憶が薄れないうちに、ごく簡単な状況で、ネーミングした言葉「キレイにして」などと指示を出して、再び行動できるかを実験しましょう!
例えば、K君の状況なら、算数を教え終わったときに確かめるといいですね。
このようにして、
・最初は手のかかる指示のステップを踏み、
・行動をさせ、
・その一連の行動を表す言葉をインプットする。
これが中級です。
最初だけ少し手間がかかりますが、言葉の意味を正しく捉える練習になります。ぜひやってみてくださいね!
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執筆者:吉野加容子
(発達科学コミュニケーショントレーナー、学術博士、臨床発達心理士)
(発達科学コミュニケーショントレーナー、学術博士、臨床発達心理士)