体育の授業を頑張る意味ってあるの?運動が苦手な不器用発達障害の子は体育が嫌になりがちです。親が運動に対するゴールの捉え方を変え、できた!に気付かせることで、自信を損なわず練習を続けられた対応をお伝えします。
【目次】
1.運動苦手な発達障害の子に立ちはだかる大縄跳びの壁
2.運動・体育の授業への意欲の低下がもたらす悪循環
3.その運動の目的は何か、親子のゴール認識を合わせよう
4.不器用っ子は気付けない!できているところを教えてあげる
1.運動苦手な発達障害の子に立ちはだかる大縄跳びの壁
できれば体育の授業はやりたくないな、そんな風に思っている運動が苦手なお子さんは発達特性のあるなしに関わらずクラスに何人かはいますよね。
運動会、持久走、縄跳び週間など、運動が苦手な子どもたちにとっては迷惑とも言える定期的にやってくる小学校の運動系のイベント。
そんなイベントの前には学校に行きたくなくなる気持ちもわかります。
特に発達障害の特性がある子は、頑張りすぎて疲労感が溜まったり、できないことでイライラが募るなどのマイナスな反応が出ることも仕方ないことと思えますよね。
我が家にはもうすぐ小学3年生になる自閉症スペクトラム(ASD)傾向の男の子がいます。
体全体を使う運動も苦手で、手先の不器用さも見られます。
だいぶ前の話題になりますが、2012年から中学校保健体育の一環として男女ともにダンスが必修化されていると聞いたときには「うそでしょ!?やめてあげて~」と、思わず声に出てしまったほど模倣動作、ダンスは苦手です。
そんな息子は、幼稚園時代から運動への抵抗感が見られ、小学1年生の1学期は体育の授業には一度も参加せず。
そのうちに、発達科学コミュニケーション(発コミュ)を学んでいた私が息子とのコミュニケーションを肯定的に変えていったことで、体育の授業にも参加できるようになりました。
しかし、新たな壁が立ちはだかりました。 2年生3学期の大縄跳びです。
1年生の時は1人で跳ぶので、できないながらも何となく縄跳び週間が終わりました。
ところが2年生になると、学年終わりのレクリエーションとしてクラス対抗の大縄跳び大会があるのです。
つまり、誰かが縄に引っ掛かるとその分点数が下がるという、できない子からするとプレッシャーに感じてしまうもの。
みんなクラスで優勝しようと練習に熱が入っているようでしたが、なかなか跳べない息子からは不安な様子が見て取れました。
1人縄跳びでも苦労している息子が大縄跳びを跳べるようになるには、かなり時間がかかるだろうと予想できました。
大縄跳びをやることをもっと早く知っていたら余裕を持って練習ができていたかもしれませんが、正直私は本当に無理ならば大会は見学をすることにしてもヨシ!と心の中で思っていました。
しかし、学校で練習を頑張っているクラスメイトの姿を見ていた息子の気持ちとしては「なんとか跳べるようになりたい」「好きなお友だちと一緒にやりたい」。
どうしたものかと悩んでいました。
2.運動・体育の授業への意欲の低下がもたらす悪循環
発達障害の特性の一つとして、「不器用さ」が挙げられます。
ここで、発達障害の一つである発達性協調運動障害(DCD)に少し触れておきます。
簡単に言いますと、目と手、足と手、手と手など、複数の体のパーツを連動させて動かすことが著しく難しいため生活に困難さが生じる障害のことです。
また、DCDは注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)などと高い確立で併発すると言われています。
DCDの診断はついてはいなくとも、不器用さが顕著に見られるお子さんは一定数いるということです。
脳の特性からくるものですので、繰り返し練習する、気合いで頑張るなどの根性論で改善するものではありません。
動きを分解する、分かりやすい説明をする、などの配慮が必要ですが、なかなか体育の授業で1人1人に丁寧に教えるのは難しい現状があると思われます。
日本の学校の体育の授業スタイルはずっと変わらず、皆の前で1人1人やらされたり、チーム対抗スポーツがあったりします。
体育が苦手な子からすると、自分のできないことが目に見えて分かるので「自分はできないんだ」と自己否定するきっかけにもなりかねません。
年齢が上がるにつれて、体育ができないことでからかいやいじめの対象になるということも聞きますので、親御さんからすると気になってしまいますよね。
また、友だちと一緒にスポーツの遊びをしたがらない、思春期になりできない自分をごまかしたりおどけてみせたりするも本当は傷ついているなど、友だちとの関わりの中で自己肯定感が低くなってしまうことも言われています。
体の不器用さがあること自体が問題と捉えるよりも、この「自分はできないんだ」と思うことの方が後々の子どもの可能性を狭める原因になってしまいます。
なぜなら、挑戦する力が育たなくなってしまうからです。
どうせ自分はできないからやらない
↓
運動をしなくなる
↓
運動する機会を逃し続けさらに運動ができなくなる
↓
挑戦すること自体を諦めるようになる
といった負の連鎖に陥ることは何とか避けたいですよね。
3.その運動の目的は何か、親子のゴール認識を合わせよう
体育の授業の種目のゴールとは何でしょうか?
息子の大縄跳び大会に話しを戻すと、恐らく「跳べるようになること」と思いますよね。
大縄跳びが跳べるようとにかく練習を!と思ってしまいます。
けれど、待ってください。
ご飯が食べられるようになる、字が読めるようになる、などは生きていく上で必要なことです。
しかし、大縄跳びが跳べる跳べないはこれから先、必要な力でしょうか。
体育の授業の目的は、文部科学省が次のように示しています。
心と体を一体としてとらえ,適切な運動の経験と健康・安全についての理解を通して,生涯にわたって運動に親しむ資質や能力の基礎を育てるとともに健康の保持増進と体力の向上を図り,楽しく明るい生活を営む態度を育てる。文部科学省 小学校指導要領解説体育編より
このように健康維持のために運動に親しむこと、クラスメイト達と関わりながら体を動かす楽しさを体育の授業から得てほしいと解釈できます。
「跳べること」をゴールに設定していた場合、もしも大会当日に跳べなかったとしたらどれだけ練習を頑張ってきたとしても「できなかった自分」と認定してしまうのではないでしょうか。
不器用さを持つ子どもがこの「大縄跳びが跳べた」というゴールを達成するためにかかる時間も労力もなかなか図れないものです。
また、完璧主義的な感覚を持つ子だと、努力したことは置いておいて跳べたか跳べなかったかの結果のみを見てしまうこともあるでしょう。
これでは先に述べたように、運動が苦手でできないから負の連鎖が起きて挑戦する力が育たなくなる恐れがあります。
練習の延長線上に「跳べた」という結果がついてくるのであって、注目したいのは練習に取り組んだこと、頑張ろうとした気持ちですよね。
跳ぶ練習を頑張ったこと、練習を継続したことの方が後々の子どもの頑張る力、継続する力となり、結果子どもの自信に繋がると考えられます。
例えば、大縄大会ついて我が家では息子と話した結果、ゴールは次のようにしました。
・大会までの間、雨の日や用事がない日以外は家で練習をすること
・クラスメイトと一緒に大会に参加すること
このゴールを達成することで、継続する力、友だちと関わる力が育まれることを期待しました。
4.不器用っ子は気付けない!できているところを教えてあげる
では、親と子どものゴール認識を合わせた上で、実際にどのような対応で練習を継続したのかをお伝えします。
不器用っ子の特徴に、自分で自分の体がどのように動いているかが分かりにくいというところがあります。
縄跳びで言うと縄に引っ掛からずに跳べたのか跳べなかったのかで、できたできないを判断してしまいます。
何度やっても「やっぱりダメだ~、跳べない~」と跳ぶことを目指してやみくもにやりがちです。
しかし、よく見ていると練習のたびに少しずつできるようになっているところがあるはずなのです!
例えば、縄の近くまで近づいていた、入るタイミングは合っていた、足があと数センチ上がっていたら跳べていたなど、どんな小さなことでも前よりもできるようになったことをよく観察して伝えます。
子どもは自分では気付かなかったけれど、少しずつでも成長していると分かり練習へのモチベーションが下がらずに継続することができました。
こうして限られた日数ではありましたが、ゴールに入るべく大縄の練習を継続し、体調管理も万全に大会当日を迎えました。
結果は…息子のクラスが優勝! しかし、息子は大縄は跳べなかったそうです。
けれど、なんと優勝トロフィーを受け取るという役を仰せつかったそうです。
後日先生から聞いた話ですが、学校の休み時間にはずっと大縄の練習をしていて、自らクラスメイトに練習しよう!と誘うこともあったそうです。
学校側の配慮として、「跳べなくてもなわに引っ掛からずにくぐり抜けられたらOK」というルールになっていたことで、×がつかなかったことも「できた!」に繋がりました。
ずっと諦めずに練習してきた姿をクラスメイトも見ていて、息子の頑張りが伝わったのだと思います。
今年の大縄大会は、間違いなく息子の中でクラスメイトと一緒に練習を頑張った成功体験として記憶されたに違いありません。
その証拠に、大縄大会は終わりましたが家での大縄の練習はまだ続いています!
成功体験を積むことで、自信がつき、行動力が上がる、それを身をもって証明してくれています!
発達凸凹キッズとお母さんの「できた!」が叶う、新しい子育ての常識と出会えます
執筆者:菅美結
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)