子どもが、進路を考える上で大事なことは「楽しそう!おもしろそう!」と思えるか、そしてそれを実現させるために私たち親が自己効力感を子どもに授けることです。元不登校生徒で3人のお子さんのママでもある児童福祉施設職員さんからお話を伺いました。 |
【目次】
1.不登校で勉強が遅れている場合、どうやって進路を決める?
前編では、不登校イベントに参加して筆者が出会った、元不登校生徒で3人のお子さんのママでもある児童福祉施設職員Sさんから、お話を伺って勉強よりも大事な親子のコミュニケーションについて気づいたことを書きました。
Sさんへのインタビュー、前編はこちらです!
今回は、Sさんが不登校経験を通して『勉強はやりたいと思ったときがはじめどき。学校に行けなくても未来はある!学校に行くかどうかを決めるのは子どもだ!』と思うに至るまでの経緯を探るべく、Sさんが不登校になってから現在の職につくまでのお話をインタビューしました。
――不登校時代のSさん自身の気持ちはどうでしたか?
「家では、『将来どうやって食べていくか、好きなことをするにはどうしたらいいか』『好きなことでお金を稼ぐにはどうしたらいいか』をよく考えていました。」
――中学のときから、将来について考えていたのですね!すごいですね。
「家が商売をしていたのでお金が身近にありました。なのでそう考えていたのだと思います。」
◆ポイント解説
私たちは、好きなことをするときは、楽しいしやる気もでてきます。嫌いなことは、できればやりたくないですよね。
こう考えると、Sさんのように自分の好きなこと、楽しいことを何かしようと思うときの基準にしていくことは、理にかなっていると思います。
特に発達障害・グレーゾーンの子どもさんは、得意・不得意、好き・嫌いがはっきりしている場合が多いですよね。
漠然とみんなと同じという道をいくよりも、小さいころからキラリと光る何かを私たち親が日頃の生活を通して見つけ、それを伸ばしていくような親子の関わりをしていくとよいでしょう。
好きなこと、得意を伸ばすということは、発達障害・グレーゾーンの子どもにとって、視野を広げる助けにもなりますし、自信にもつながります。
それでは、Sさんが不登校期間中に考えていた将来像をどのように実現していったかを聞いていきます!
――不登校から抜け出したきっかけ、理由はありますか?
「進路を考えたことです。小さい頃から保育園の先生や小学校の先生になりたいと思っていました。
高校くらいはでていないとその後、教員や保育士、そのほかの職業になりたくなったときに選択肢が少なくなるなと自分で考えていました。」
――高校はどうされましたか?
「普通科や商業科よりも楽しそうだと思い、高卒資格もとれる工業高校の建築科を選び、卒業しました。
普通科に魅力を感じませんでした。夜間だったのですが、いろいろな年代の人と知り合えるかな?とも考えていました。
教員になるにしても何にしても、専門の勉強をすることも 楽しそうだなぁと思ったり、一番仲良しの友人の自宅と高校が近かったのも理由の一つです。
高校はとても素敵な人たちに巡り合い、映画製作のクラブで部長をしたり、生徒会では会長もさせていただきました。
また、家庭の事情もあり、15歳で一人暮らしを経験しました。720円の時給で月に14万円ほど稼ぎ、働きながら夜間の高校で勉強したり、友人と遊んでいました。
生活費を稼ぎながら勉強したことは、今の自分の自信につながっています。」
――高校卒業後はどのように過ごしていましたか?
「高校卒業後は、短大に進学しましたが、在学中に結婚して子育てに入りました。短大は中退しました。これは、自分の意志です。
結婚子育ては、不登校時代から早いほうがいいなと思っていました。その後、専業主婦8年の中で3人の子どもに恵まれました。
26歳の頃に働きにでる決意をしてパートを始め、その後フルタイムで勤務することになりました。
子どもが小学生になり、小学校の役員をするため働き方を変えてまた、パートとして5年ほど外で働きました。
27歳になったときに「もうすぐ30だ!」と年齢的な焦りがでて、末っ子の幼稚園入園とともに教員免許を取得するための勉強ができる大学へ入学しました。パートしながら大学の学費を稼いで暮らしていました。」
――なぜ、教員免許を取ろうと思ったのですか?
「小さい頃から保育園の先生や小学校の先生になりたいと思っていました。先生はなんでもできる人だと憧れていたのだと思います。素敵な先生との出会いも沢山ありました。
高校の先生方や家族など短大進学を応援してくれたのに中退してしまい、申し訳ない気持ちと勉強を継続できなかった自分を嫌だと思っていました。
なぜかよくわかりませんが、小さい頃から、『私はやればできるような気がする…』と思ってたんですよね…。
中学では不登校のときもありましたが、人が好き、いろんなことに興味のある私はいろんな子どもと出会い、一緒に成長していきたいと考えました。
子育てを経験し、図太くなったことも影響していると思います。夫もいつも優しく私の自由を後押ししてくれます。」
◆ポイント解説
Sさんは「私はやればできるような気がする…」と小さい頃から思っていたと語っています。
これは、「きっとうまくいくだろうな…、たぶんできる…」というような自分の行動には効果があるという自信や期待感(自己効力感)があったということです。
壁にぶち当たったときに自分で何とかする力、自分で自分を高める力(自己学習力)もありました。
自己肯定感を子どもに授けようとはよくいいますが、発達科学コミュニケーションでは、自己肯定感に加え、この自己効力感、自己学習力を高めるかかわりを親子のコミュニケーションを通して行っていきます。
簡単に言えば、子どもにやる気や行動する力をもってもらうために、日常生活で子どもの行動を肯定していくのです。
親に認められると、嬉しくなって、子どもはもっと自分を高めたくなりますよね。そしてまた、行動していく…こんなメカニズムです。
これを続けていくことで、自己効力感、自己学習力が身についていくんです。
また、高校時代一人暮らしを経験し、生活費を稼ぎながら勉強をしたことも大きいと思います。このように、ご両親より信頼されながらも、一人暮らしをしたことや、働きながら学生生活をおくるという経験がSさんの自信につながっているのだと感じます。
大学卒業後、Sさんは、教員免許取得され、児童福祉施設職員になりました。どんな経緯で就職されたのでしょうか?
2.勉強は大人になっても続けられる?!
――教員免許取得後、「児童福祉施設」に就職していますが、どのような経緯で決めたのでしょうか?
「教員になりたかったのですが、残念ながら学力が高くないので教員採用試験には合格できませんでした。基礎学力は自分のために上げたいので息子たちと一緒に中学校の勉強をやり直したりしています。
卒業後、講師のお話もなくはなかったのですが、息子たちを育てることなど教員としてスタートをきるのに躊躇していたところ、現在の会社の求人をみつけおもしろそうだなとおもい面接を受けました。
――なぜ、自助グループをを立ち上げたのですか?
「専業主婦時代にとても子育てがしんどく、子育てのコミュニティを作ることには結婚当初から興味がありました。
勤務先の会社の社長や上司もこのような活動をしたいと思っていることを相談すると応援してくれました。
偶然同じ職場で、障害を持つお子さんを育てながら精力的に多方面で活躍していて、自助グループについて一緒に考えてくれる友人にも出会えたので、彼女と一緒に立ち上げることにしました。」
◆ポイント解説
Sさんは、自分の気持ちを大切にし、自分がやりたいことに向かって進んでらっしゃいます。
惜しくも教員採用試験には合格できなかったとのことですが、息子さんと一緒に中学校の勉強をやり直したり、何に対しても前向きです。
就職をするまでにたくさん勉強をして立派な職につかないと!という固定概念があるかもしれませんが、そうではないんですね。大人になってからでも勉強はできるんです!
「失敗してもやり直せる」「失敗したって大丈夫なんだ」ということは、息子さんたちにしっかり、伝わっているだろうと思います。
Sさんは家族を大切にしておられます。子どもたちを育てるにあたって、自分の働きやすい環境で、「おもしろそうだな」というところが現在の職場だったようです。
子育てをしながらの仕事は、いろいろと大変です。現在のSさんの職場・自助グループについて私が感じたことは、Sさんにとって「自分にも役立つ」「我が子にも役立つ」「人にも役立つ」「おもしろいと思える」「やりがいがある」ということでした。
これは、発達科学コミュニケーションと共通しています。お母さんが生き生き働いているところや学んでいる姿を子どもたちに見せることができるのはいいですよね!
――今後の展望・野望・夢など教えてください。
「全ての人がニコニコ笑顔で過ごせるために私にできることをこつこつやっていきたいです。制度の勉強であったり、子どもが楽しく生きるために必要な勉強を教える方法や手法についての自身のスキルアップをしていきたいです。
仕事面では、上司が素敵な人なので、あとについていけるよう素直な気持ちで取り組んでいきたいと考えています。」
◆ポイント解説
Sさんは、全ての人がニコニコ笑顔で過ごせるために、ご自身のスキルアップをしていきたいとのこと。前向きで一生懸命で素敵だと思いました。
3.元不登校ママから不登校で悩んでいるお母さんへのメッセージ
最後に、不登校や行きしぶりの子を持つお母さん方に伝えたいことをお聞きしました!
――不登校や行きしぶりの子を持つお母さんに伝えたいことはありますか?
「今、子どもたちが何に困っていて、親にできることはなんだろう、と考えることをやめないでいただきたい。
自分のお子さんを信じて差し上げてください。親がニコニコしているだけでも子どもは嬉しいものです。学校だけがすべてではないです。子どもを追いつめないで欲しいです。
でも、親も人間なのでそんなことばかりできないときもあります。そんな場合は、お近くにある自助グループや行政の教育相談などにSOSをだしたり、好きな習い事をしたりなど気分転換もしてください。
自分を大切にできない人は、子どもはおろか誰も大切にできないです。親としての責任はとても大きいですがそれは全てを一人で抱えなければいけないものではありません。
不登校でもなんでも私たちは社会の一員です。「人に迷惑をかけない人に育てよう」と思わず「人や社会の役に立てる人に育てよう」という気持ちで子育てされるといいと思います。
子どもたちは本当に素敵な宝物です。子どもも自分も信じて子どもと一緒に育っていきたいと、日々、自分にも言い聞かせています。」
いかがでしたか?不登校、短大中退、結婚、子育て、大学進学…色々なことがあったけれど、それを前向きにとらえ、笑って話せる成長ストーリーにかえたSさん。
Sさんのインタビューを通して、例え不登校で勉強が遅れていても、勉強ができなくても、今、やる気がなかったとしても…私たち親は、自己肯定感を高めるかかわりをしながら子どもを信じて待つことが大切だと思いました。
Sさんの言葉が一人でも多くの方に届くことを祈っています。
執筆者:愛川まいこ
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)