私たちの日頃の会話は、物事の共通の考え方をもとに成立する内容にあふれています。多くの子どもは会話を通じて自然に習得し説明もできますが、発達障害の子どもには難しい場合があります。今回は説明力を楽しくトレーニングするオススメ絵本のご紹介です。 |
【目次】
1.発達障害・自閉症スペクトラムの子どもには難しい仲間分け
みなさんは
「ぞう、きりん、ライオンってなんの仲間かな?」
と聞かれたらどう答えますか?
ほとんどの方が「動物」と答えるのではないでしょうか。
では、「ちょうちょ、トンボ、カブトムシ」は?
「昆虫」ですよね。
どんな「もの」や「こと」にも「概念」といって、その「もの」や「こと」に共通の考え方があります。
先ほどの例で言うと、「動物」や「昆虫」が共通の考え方ということになります。
そしてこの共通の考え方は、大きなものから小さなものまで、わたしたちの日常にあふれています。
分類に基づくもの、似た性質に基づくもの、形や動きに基づくものなどなど、
日常的によく出てくる共通の考え方については、小さい頃からのなにげない会話や体験からいつの間にかその関係性を理解して使っていますよね。
例えば、動物園に行くことになったとします。
「動物に会いに動物園に行こう!」
という会話から、動物園には「動物」という生き物がいるんだなと想像します。
そして、実際にゾウやキリンやライオンを見て、
動物園にいるゾウやキリン=動物
という図式が自然と脳に刷り込まれていったのではないでしょうか。
では、発達障害・自閉症スペクトラムの子どもであればどうでしょう?
ことばで説明をするには、ことばの持つ「意味」に気づき、理解する必要があります。
多くの子どもは日常のなにげない会話や体験から想像をふくらませて理解を深めていけるのですが、自閉症スペクトラムの子どもの脳は想像することが苦手です。
自分が体験した範囲内でしか理解することができません。
ですから、「動物に会いに動物園に行こう!」と言われても、そこから「動物園には動物という生き物がいる」というところまで思いが及ばないのです。
2.仲間分けができない!検査で知った発達の遅れ
わが家には小学4年生になる自閉症スペクトラムの息子がいます。
息子が小学校入学前に受けた発達検査で、わたしはとても衝撃を受けました。
「ゾウとキリンってどういうところが同じかな?」 と質問された息子。
うーん…と考え込んでしまいました。
ゾウは足が太い、キリンは首が長い、視覚的に見た情報は答えられるのですが、共通する関係性については答えられなかったのです。
同じく、「ちょうちょとハチの似ているところってなんだろう?」 という質問に対しても、
「ハチはココ(お腹)が黒と黄色で…」
とやはり視覚的に見た情報しか答えません。
当たり前に「動物」「昆虫」「飛ぶ」というキーワードが出てくると思っていたわたしは、この事実を目の当たりにして愕然としました。
他にも同じような質問がいくつかありましたが、息子はやはり共通の関係性を見つけて答えることができなかったのです。
どうしたら理解できるようになるのだろう? 悩んでいたときに手に取った、息子の大好きな絵本。
これは使えるのではないかとピンときました。
3.楽しくトレーニングしよう!仲間分けの考え方を理解し説明力が育つオススメ絵本はコレ!
自閉症スペクトラムの子どもには、重要な言葉や概念の意味、関係性を具体的に伝える対応をするとよいと言われています。
例えば、
「ゾウとキリンは見た目は全然違うけど、同じ動物という生き物なんだよ」
「ちょうちょとハチはどちらも羽がついていて、飛べるところが同じだね」
「ちょうちょとハチはどちらも昆虫の仲間なんだよ」
と、ひとつひとつ言葉にして説明してあげるのです。
また、絵や図など視覚的な情報を言葉と一緒に見せるのも効果的です。
とはいえ、忙しい日常生活の中で、常にこれを意識しながら対応していくのって正直難しいですよね。
そんなときには寝る前の読み聞かせにこんな絵本はいかがでしょうか。
◆「そらまめくんのベッド」
作・絵:なかや みわ
出版社:福音館書店
この本は、そらまめくんお気に入りの大切なベッドが消えてしまったことを通して、自己中心な考えだったそらまめくんに
周りを思いやる気持ちが育っていく様子が描かれています。
そらまめくんの仲間の豆たちも、かわいい絵とともにたくさん登場する、子どもたちに大人気の有名な絵本ですよね。
この本の中にはこんな一節があります。
「えだまめくんのベッドは…ちいさい」「グリーンピースのきょうだいのベッドは…ほそい」「さやえんどうさんのベッドは…うすい」「ピーナッツくんのベッドは…かたい」 出典:なかやみわ(1997)『そらまめくんのベッド』福音館書店.
同じ『豆』でも、種類によって様々な特徴があることが分かりますね。
わたしはその特徴を、毎日のように絵本の読み聞かせをしながら、繰り返し息子に伝えました。
「形やさわった感触はそれぞれ違うけれど、みんな『豆』なんだよ」
「そらまめくんややグリーンピースのきょうだいやさやえんどうさんは緑色でピーナッツくんだけ茶色いけれど同じ『豆』なんだよ」
「実の数は違うけれど、おんなじ『豆』の仲間なんだよ」
そうすると、まずは日常生活で共通の関係性を探すことに興味が出てきました。
気になったものについては、 「なにか同じところがあるかな?」と一緒に考えたり、どうしても出てこないときは具体的に説明をしました。
これを続けることで、想像力が育まれるとともに、共通する関係性に気づくことが増えてきました。
気づくことが増えるとともに、言葉での説明にも正確さが出てきました。
この絵本のよいところは、「むずかしくない」ところです。
小さな子どもでも理解できる言葉で、それぞれの豆の特徴が描かれています。
この絵本を繰り返し読むことで、子どもはいつの間にか違うところや共通する関係性に気づけるようになるのです。
そしてなにより絵がかわいい!子どももわたしも何度読んでもまた読みたくなるくらい大好きな絵本です。
いつの間にか共通する関係性に気づき、説明力が育つ絵本は、みなさんの身近にもあるのではないでしょうか。
ぜひお気に入りの一冊を見つけて、親子で楽しく共通する関係性を探しながら会話をしてみてくださいね。
子どもの成長を効果的にうながす方法がたくさんみつかります。
執筆者:宮千明
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)