歯医者さんでの虫歯治療。多くの人は苦手だけど我慢できますよね。しかし発達障害の子どもはその特性のためにトラウマになるほど治療が困難となる場合があります。どんな歯医者さんなら安心できるの?わが家の経験をお伝えします! |
【目次】
1.誤った対応でパニック!歯医者がトラウマになってしまった息子
2.発達障害の子どもの虫歯治療が困難な理由
3.こわい気持ちを受け止め、がんばったことをほめてくれた先生
4.長い虫歯治療を克服したことで生まれた変化
1.誤った対応でパニック!歯医者がトラウマになってしまった息子
1学期は全国の多くの保育園や小学校では様々な健診が行われました。
そして子どもを通じて、治療のために病院へ行くよう、案内のお手紙が届いたご家庭もあったのではないでしょうか。
その中でも歯の治療の案内は、お母さんが憂鬱な気持ちになるナンバーワンかもしれませんね。
歯医者が苦手なお子さんはとても多いのではないでしょうか。
特に発達障害の子どもは、その特性から歯医者に対する苦手意識が普通よりも大きく、対応に苦労しているお母さんも多いことでしょう。
わたしには自閉症スペクトラムの小学4年生になる息子がいます。 息子は3歳になったときに歯医者デビューをしました。
わが家では定期的に歯のメンテナンスを行っており、3か月に1回、歯石除去などクリーニングをし、虫歯予防のフッ素を塗ってもらっています。
息子は家での歯磨きはとても嫌がったのですが、なぜか歯医者でのメンテナンスは喜んでやってくれていたので、最初は歯医者へ連れていくことに苦労はありませんでした。
ところが、保育所年長でまさかの虫歯になってしまったことからすべてが変わりました!
ある日メンテナンスに行くと、虫歯ができていることが分かりました。
緊急性はなかったので、2週間後に予約をし、その日は応急処置だけで帰りました。
わたしは平日はフルタイム勤務で、普段はおじいちゃんに息子の保育所の送迎をお願いし、夕方はおじいちゃんの家でわたしの迎えを待つ生活でした。
歯医者に行った次の週、おじいちゃんの家で過ごしていた息子が突然「歯が痛い」と訴えました。
あまりに訴え続けるので、おじいちゃんは良かれと思って息子を歯医者へ連れて行きました。そして歯医者で虫歯の歯を削られた息子。
初めて削られたことでパニックを起こし、大暴れしたそうです。
でも、そんな息子になんとか治療を受けさせようと、おじいちゃんは無理やり押さえつけてしまったようです。
結局治療はできずじまいで、息子には歯医者に対するトラウマだけが残りました。
そして予約の日、息子は恐怖におびえて全く口を開けることができなかったのです。
2.発達障害の子どもの虫歯治療が困難な理由
発達障害の子どもには、負の感情が残りやすいという脳の特性があります。
息子のように押さえつけられたり、突如として削られた感覚は恐怖として強く記憶に残り、その後の治療を困難にします。
先の見通しが立たないことに対してとても強い不安を感じやすいのも特徴です。
これからなにをされるのか、いつ終わるのかの見通しがたたないことから不安を感じたり、恐怖心が強くなったりします。
さらに、感覚過敏がある子どもであれば、歯医者の器具の音や振動、歯を照らすライトから不安を感じることもあります。
歯医者には、このように発達障害の子どもが苦手とする要素がたくさんあるのです。
しかし、「お口の病気は万病のもと」といいます。 嫌だからといって避けていると、将来の健康寿命を縮めることになりかねません。
だから、一生モノの歯を守るには、子どもが信頼できる先生と出会えることがとても大切です。
歯の治療に対して強いトラウマを抱えてしまった息子。ここから歯医者さんと息子の長い長い闘いが始まったのです。
3.こわい気持ちを受け止め、がんばったことをほめてくれた先生
予約の日には全く何もできなかった息子。
今まで歯医者で嫌がることがなかったので、先生には息子が自閉症であることを伝えていませんでした。
でも、これから治療を進めるにあたり先生には知っておいてほしいと思い、初めて伝えました。そして1週間後に改めて治療を試みようとしましたが、やはり息子はこわがって口を開きません。
その様子に先生はこんな提案をしてくれました。
「このまま無理やり口を開いて治療をすることはできるけど、そうするとますますトラウマがひどくなって、子どもがつらいだけだから、無理にはしないほうがいいと思う。」
「一度に終わらせるのではなく、子どものペースでしていきましょう。」
「毎週来てもらって、口を開けられない日もあるかもしれないけど、とにかくできるようになるまで気長にやっていきましょう。」
「なにもしなくても毎回500円かかっちゃってお母さん大変だけど、それでいいですか?」
と。
それから毎週1回息子と歯医者に通いました。
治療を始める前には、今日はどんな治療をするのか説明を受け、納得した上で進めていきました。
「今日はこの器具を使ってこういうことするよ。少し痛くなるけど大丈夫?」
ポイントは、その日にできるところまでしか進まないこと。
説明を受けた時には「大丈夫!」と元気な息子ですが、実際に治療をしようとするとやはり怖くなって進まないことがほとんどでした。
治療台に寝転んだだけで終わった日、口を開けただけで終わる日もありましたが、
「がんばって病院に来てくれたね!」
「大きな口を開けることができたね!」
「台に寝転ぶことができたね」
「チョン」でも、歯に器具を当てることができた日は、
「歯に器具を入れることができたね!」
先生は行くたびに息子の頑張りをほめてくれました。
そして、何もできなかった日でも、 最後には必ずご褒美のガチャポンをして終了していました。
4.長い虫歯治療を克服したことで生まれた変化
本人にとっては歯医者へ行くことだけでもすごくがんばっていたのです。
先生が行くたびにその日のがんばりを認める声かけを続けてくれた結果、息子には自信が生まれてきました。
いつも歯医者から帰るときには、
「僕、今日も頑張ったね!」
とやりきった満足感でいっぱいの様子でした。
最初は口も開くことができなかった息子ですが、やがて口を開くようになり、器具を歯に当てられるようになり、歯を削られても少し我慢ができるようになり…と長い時間をかけて少しずつできることが増えてきました。
結果的に1年もの長い期間をかけて毎週歯医者へ通い、やっと治療が完了しました。
その間、虫歯が悪化しないようにしっかりと処置をしながら進めてくださった先生には感謝しかありません。
甘いものが好きなのに、歯磨きをあまりしたがらない息子は、その後も小さな虫歯ができてしまいましたが、歯を削らないといけない治療のときも、泣き叫んだり暴れたりすることなく、落ち着いて寝転んで先生の指示に従えるようになりました。
また、痛い場面でもある程度がまんでき、がまんできないときでも落ち着いて先生と今日はどこまでするか相談できるようになりました。
がんばって治療をしたのだから、これ以上虫歯になりたくないという気持ちから、家での歯磨きも少しずつ定着してきています。
子どもの気持ちを第一に考えた治療が、結果的に自分の歯を大切にする姿勢を育むことになりました。
虫歯にならないことが一番ですが、もし思いがけず虫歯になってしまった時には、子どもの気持ちを第一に考えてくれる、そんな歯医者さんを見つけてください。
きっとつらい治療も乗り越えられるはずですよ!
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執筆者:宮千明
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)