「不注意」の症状は、注意欠陥多動症(ADHD)に強く生じる症状ですが、 自閉症スペクトラムや学習障害(LD)のお子さんにも見られます。今回は「不注意」についてシリーズで紹介、症状を目立たなくする方法をお伝えします。1回目は「注目」です。 |
【目次】
1.注意とは?
2.発達障害・グレーゾーンの「不注意」ってどういう状態?
3.脳の「地と図」の処理がアンバランスでも不注意が起こる
4.不注意の支援は、まずは環境の刺激を減らすことから。ポイントは3つ!
ポイント1 聴覚の環境刺激を取り除く
ポイント2 視覚の環境刺激を取り除く
ポイント3 触覚の環境刺激を取り除く
1.注意とは?
発達障害・グレーゾーンの「不注意」の対応をシリーズでお伝えしています。 今日はその1、キーワードは「注目」です!
発達障害の子どもは、ときに「リス」に例えられます。リスはちょこまか動きますね。落ち着きのない行動に見えます。
それに、自分が抱えていたエサをその場に置き忘れたりもするんです。あるいは、エサがころころ〜っと転がったら「えっ?エサどこに行ったの?」と探し回っている…
発達障害で、不注意症状の強いお子さんもちょこまか動きます。
別のものに気を取られて持っていたものをどこかに置いてしまい、自分のものがどこへ行ったかちょっちゅう探し回っています。
不注意とは何か?を説明する前に、「注意」とは何かを説明しましょう。脳の働きの中でも「注意」は説明が難しい機能です。
が、あえて説明するなら、
「知覚・認知・思考のうちどれか1つの対象に意識を向けて、明確に対象を捉えること」でしょうか。
例えば、私たちの五感には同時にたくさんの刺激が入っています。手では何かを触りながら、目で何かを見て、耳にも音が入っています。
こういった五感情報を受けながら、何かを考えたり、思い出したり、理解したりしていますね。脳は同時にいろいろなことを処理しています。
「注意」とは、そういった同時に行われている処理に対して、どれか1つに意識を強く向けることです。
例えば、見ているものに注意を向ければ、触っているものや聞こえているものへの注意は弱くなります。
私たちが騒がしいところで勉強や仕事ができるのは、本やノートなどの見えるものに注意を集めることができたり、問題を解いている思考に注意を集めることができたりするからです。
こういった情報の濃淡がつけられることが、注意の大事な機能なのです。
言葉を変えると、「注意」とはカメラのファインダーをのぞいて、撮りたいものにフォーカスするような行為によく似ています。
撮りたいものにフォーカスした写真は、きちんとピントが合っていますよね。
では、「不注意」とはどうなるのでしょうか。
2.発達障害・グレーゾーンの「不注意」ってどういう状態?
前項では「注意」について説明しました。では、「不注意」だと、どうなるのか?
たとえば、フォーカスできていない写真はピンボケしていて、あれもこれも全部写り込んでいる割には何が写っているのか、よく分からない写真になってしまいます。
不注意もこれに似ています。
どれか1つにフォーカスできないので、五感や思考の濃淡がなく、すべてが同時に同じ強さで感じられる状態で、結局どの刺激もきちんと受け取れないような状態です。
不注意の例えとはちょっと違うのですが、
お菓子を食べながら(味覚)、
見たいテレビを見ているときに(思考)、
旦那さんが「ねぇねぇ聞いていよ」と話しかけてきて(聴覚)、
同時にスマホにメールが入って(視覚)、
子どもが「ねぇねぇお母さ〜ん」と肩を揺らしてきたら(触覚)、どうですか?
テレビのストーリーは分からなくなるし、メールの内容も入って来ないし、お菓子の味も覚えてないし、旦那さんに「も〜後にしてよ!」と言いたくなると思いませんか?
意識をどれか1つに向けられるということは、それだけ「考える余裕を作る」ことに繋がります。しかし、発達障害の「不注意」というのは、この例のように一度にいろいろな刺激が認識されていて混乱してしまうのです。
例えば、喫茶店で会話しているときに、普通なら会話している相手の声だけが大きなボリュームで聞こえます。
しかし不注意の人には、周りの人たちが会話をしている声と、会話相手の声がまるで同じ音量で聞こえているような状態です。ですから、聞き漏れや聞き間違いが頻繁に起こったり、聞くことにすご〜く労力を使わなければならず疲労しやすくなります。
学校の勉強やテストでも一緒。周りのザワザワが大きな刺激となってなかなか目の前のことに集中できません。
ですから、子どもを集中させたいときには、環境の調整がとても大切になります。
3.脳の「地と図」の処理がアンバランスでも不注意が起こる
不注意の症状は、「地と図」という言葉でも表現されます。
「地」とは、背景のこと。
「図」とは、注目する対象物のこと。
例えば、この記事では、地は「白紙」で、図は「文字」です。この記事を読みながら、白い背景に注目している人は、ほとんどいらっしゃらないですよね
でも、ADHDや自閉症スペクトラムなど、「地と図」がアンバランスな人には、背景の白地がすごく眩しく見えている場合もあります。背景の白が邪魔をして、文字が読みにくくなっているのです。背景の「白」が気になって仕方がない!など。
発達障害・グレーゾーンの一部の人たちにとって、白地に黒い文字で印字されたプリントや教材は、コントラストが強すぎて見にくい場合があります。
もし学校の先生方や、ご自身で教材を作るお母さんがいらしたら、教材のコントラストを抑えるように配慮すると、集中しやすくなる場合もあります。
気をつけなければならないのは、発達障害・グレーゾーンの子どもたちは「生まれてからずっとこの状態」です。そのため、「白と黒のコントラストが眩しい」なんてことは、言葉で教えてくれません。
だって、自分にだけそう見えていることを子ども自身も気づいてないからです。では、どうやって気づけばいいのでしょうか?
実は、子どもの「書く姿勢」にヒントがあります。
やけにプリントに顔を近づけて書く子は、もしかすると自分の頭で手元に「影」を作っているかもしれません。その方が、白の眩しさが半減するからです。
あるいは斜めに見て、見え方を調整している子どももすごく多いです。(頭をサイドに倒して書く姿勢など。一見すごくダラけて見える姿勢ですね)
もちろん、単純に体幹が弱くて姿勢が悪い子も多いのですが、刺激の調整や注意力を上げるために、自然と姿勢を調整しているお子さんがいることを知っておいてください。
一般的に言われている「良い姿勢」が、実は発達障害・グレーゾーンのお子さんにとっては、「不注意を招く姿勢」であることがあります。
「良い姿勢」のときに、かえって不注意になってしまうお子さんがいたら、姿勢は子どもに任せてOKです!
下の写真のように、寝転んた状態(うつ伏せ)で授業を受けると、集中できる子どもも割と多いです。(電気は調整してくださいね)
他にも、日常生活の中には「図」を邪魔する「地」の刺激がたくさんあります。
例えば聴覚なら、エアコンの音が「地」。
一度耳についてしまうと、ブ〜〜〜ンと気になって勉強が手につかなくなる…なんてこともありますよね。でも、目の前のやるべきこと(図)に意識を向ければ、エアコンの音(地)は、普通は意識の外へ出ていきます。
視覚なら、背景に置いてある物も「地」。
リビングや教室に色々な物が置いてあると、目があっちこっち移動して、本当に見るべきもの(図)に視線が定まりません。(しかも、それらが統一感なくカラフルだったり、整然とせずにランダムに置いてあると余計に。)
触覚なら、椅子に座っている時に椅子に触れている感覚が「地」。
座った瞬間や、体の位置をずらしたときには意識にのぼりますが、長時間座っていれば椅子に触れている感覚は、ほとんど意識の外ですよね?ところが、発達障害・グレーゾーンの子どもたちは、こういった「環境にある背景の刺激(地)」を意識の外へ出すことが難しいんです。
だからこそ、なかなか注目すべきこと(図)に注目できずに、不注意状態から抜け出せない状態です。
4.不注意の支援は、まずは環境の刺激を減らすことから。ポイントは3つ!
脳の力では、不要な刺激を意識の外に出せない発達障害・グレーゾーンの子どもたち。
だからこそ、周りの支援者の力で不要な環境の刺激を取り除いてあげることは必須の支援です!
まず、「地と図」のアンバランスを、五感に注目して支援します。ポイントは3つ。
◆ポイント1 聴覚の環境刺激を取り除く
発達障害・グレーゾーンの子どもたちは、一般的には視覚よりも聴覚が苦手です。つまり、聴覚の地と図を区別する力も弱めです。
ですから、騒がしい場所で集中するのは至難の技。
特に赤ちゃんの泣き声などの高い音や、狭い空間の中で音がワォンワォン共鳴するような環境は嫌いな子が多いです。
学校では、先生や黒板に注目しやすいように、前の席にしてもらっているご家庭も多いと思いますが、そのときに「聴覚」の環境がいいかどうかをチェックしてください。
教室の前には金魚の水槽があって、空気を送るポンプがブ〜〜〜〜ンって鳴っている。あるいは、前なんだけど窓側にされちゃって、窓の外の音が気になって意識が前に向かない。
前にした意味ないじゃん!みたいなことがよく起こっています。
園や学校選びで大事なのは、オープンスペースで可動式の仕切り壁になっていないか?です。
こういったオープンスペースは、完全な壁ではないので、音が漏れに漏れて、ずーっとザワザワした聴覚環境になっている場合があるんです。
できればそういった「地の音」が少ない環境がベストです。
◆ポイント2 視覚の環境刺激を取り除く
聴覚とは逆で、視覚が強い発達障害・グレーゾーンのお子さんが多いです。とすると、視覚刺激に過敏になるお子さんも多いです。そこで、視覚的な背景に工夫をすることが大事です。
お部屋の場合。まず、目につくところに余計な物を置かないことは大前提。見えてしまったら触りに行くと思ってください。
物を雑然と置いておくよりも、整然としていた方が、刺激が弱くなりやすいです。できれば色もある程度揃っていれば、背景化しやすいですね。
勉強の時だけ、雑多な物に布をかけて目隠ししてしまうのもアリです。その代わり、最初のうちは物珍しさで布を触りに行きますが・・・。
教材の場合。余計なことはプリント類に書かない。「ここだけ見てよね〜!!」という情熱が伝わるプリントにした方がいいですね。問題と問題の距離を開けて、1問目を解いている最中に、5問目が気になって注意が移ってしまわないような、「多めの余白」がすご〜く大事です!
どうしてもダメなら、厚紙に窓枠のような物を作り、その問題だけが見えるように工夫します。
人の場合。ちなみに、私は不注意が強いお子さんの指導をするときは、地味な服、アクセサリーは外し、メイクものっぺり(それは顔のせい笑)で対応します。白黒などのコントラストのシマシマの柄、チェック柄などは、脳の視覚野に強い刺激になりますので着ません。
指示を出すときや大事なことを言うときは、手も体も動かさず、私の顔だけに注目しやすくします。
◆ポイント3 触覚の環境刺激を取り除く
発達障害のお子さんは、一般的にではありますが、触覚も弱めである場合が多いです。ですから触覚過敏や鈍感になりやすい感覚です。肌に触れている洋服の刺激が気になって、いっつもモソモソしている。椅子に触れる感覚が気になって、姿勢を色々と変えまくっている…
まぶたを閉じれば遮ることができる視覚と違って、触覚は遮断することのできない厄介な感覚です。
基本的には、本人の心地の良い物を使い続けてもらうのが一番簡単で、不注意症状も目立ちにくいですね。
チクチクするので、洋服のタグを切っておられるご家庭は多いと思います。
触覚で一番厄介なのは、覚醒が低くなっている時に爪噛みや皮むき、ペン噛みのような自己刺激的な行動が起こりやすいこと。
やめろと言ってやめられるものではありません。無理にやめさせると、別の自己刺激をし始めるお子さんも多いです。
そんなときは、やめなさいと言うよりも、子どもの覚醒が上がるような(テンションが上がるような)刺激を与える方が自己刺激はおさまります。あるいは、何か強めのザラザラしたような物を触らせると、強い触覚刺激が入って落ち着く場合もあります。
不注意対応その1は、本人の「地と図」のアンバランスさを補うため、環境にある不要な五感刺激を減らすことがポイントでした!
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執筆者:吉野加容子
(発達科学コミュニケーショントレーナー、学術博士、臨床発達心理士)
(発達科学コミュニケーショントレーナー、学術博士、臨床発達心理士)