IQは高いのになぜ会話が通じない!?(初級編)ーー発達障害・グレーゾーンによくある言葉の間違いーー

IQが平均以内にある発達障害・グレーゾーンの人たち。が!彼らが陥りがちな「発達障害・グレーゾーンに独特の言葉の遅れ」があります。今日は、日常会話で何かと気になる言葉の特徴についてお話しします。
 

【目次】

1.言語能力は低くないのに、なぜ会話が通じない?
2.言葉の「字面」と「意味」が違うことを理解する
3.発達障害・グレーゾーンに伝わらない言い方
4.初級編:行動を端的に示す言葉のチョイスがベスト!

 

1.言語能力は低くないのに、なぜ会話が通じない?

 
 
発達障害・グレーゾーンの子どもたちは、IQテストで言語能力を計測すると平均内のスコアを叩き出します。
 
 
自閉症スペクトラム(ASD)、アスペルガータイプなら平均以上であることも珍しくありません。
 
 
 
 
日常の会話能力も一見すると、問題ないように見えます。
 
 
でも、お母さんや先生たちは、「なんだか意思疎通ができないなぁ…」という、モヤっとした苦労を抱えていることが多いんです。
 
 
指示を出しても、
 
 
・なぜか指示が正しく伝わっていない
 
 
・傷つけることを言ったつもりはないのに、急に子どもが怒る
 
 
・お願いをしても全然聞いてくれない
 
 
「空気が読めないから」の一言で片付ければそれまでです。しかし、それではコミュニケーション能力どう育てたらいいのか、分からないままになってしまいますよね。
 
 
空気が読めない理由を、言語発達から読み解いてみましょう。
 
 
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2.言葉の「字面」と「意味」が違うことを理解する

 
 
言葉って難しいですよね。こちらが伝えたかったことを、相手が理解してくれるとは限りません。
 
 
「空気を読むんだよ」って発達障害・グレーゾーンの子たちに言ったら、「えっ?空気って読めるの?」とか言っちゃいそうですよね。
 
 
まず覚えておいて頂きたい言葉の法則があります。
 
 
言葉というのは、「字面」と「意味」が必ずしも一致していません!すごく極端な例ですが、比喩や皮肉を思い浮かべるとわかりやすいと思います。
 
 
漢字練習をしているノートを覗き込んで、お母さんが「今日もとっても綺麗な字ね」と言ったとき。
 
 
① 本当に字がきれいな場合
 
② とっても雑に書いている場合
 
2通りの想像ができますよね?
 
 
①は、字面意味一致している場合。
 
 
②は、字面意味一致していない場合。皮肉な言い方ですね。
 
 
発達障害の子どもたちや大人たちは、この字面意味一致していないときの理解がとっても苦手です!
 
 
上の例で言えば、①と②のどちらが話し手の意図を表しているのか?については、文脈を読み取るしかありません。あえて言葉で表現するなら、
 
 
高めの声のトーンで、笑顔で言っているなら①の確率が高いでしょうし、
 
 
低めの声のトーンで、目が笑っていないなら②の確率が高いでしょう。
 
 
でもご存知の通り、発達障害・グレーゾーンの人は空気が読めませんから、第1段階として、文脈で①か②かを判断することが難しいんです。
 
 
それに加えて、第2段階として、字面と意味が不一致の表現理解は苦手なので、「②の方が正解ですよ」と言っても、意味がわかりづらいのです。
 
 
このダブルパンチの分からなさで、国語の点数が高くても、日常会話での意思疎通が苦手になりやすいのです!
 
 
 
 
日本語は特に、一番大事なことをあえて言葉にせずに「察する」文化がありますから、発達障害・グレーゾーンの子たちにとっては、なかなか暮らしづらい言語環境と言えます。
 
 
ですから、発達障害の子どもを支援するお母さんや先生は、字面と意味が異なる表現をできるだけ使用しないことが大切です。
 
 
今日は、字面と意味が異なってミスコミュニケーションを招きやすい言い方を知っていただくために、まずは例をご紹介しますね。
 
 

3.発達障害・グレーゾーンに伝わらない言い方

 
 
授業中、漢字ドリルをしている最中、Aくんは消しゴムを忘れたことに気づきました。そして、隣の席のBくん(発達障害・グレーゾーン)に話しかけました。
 
 
Aくん「ねぇねぇ、消しゴム忘れちゃったんだよね」
 
Bくん「ふ〜ん」
 
Aくん「…」
 
 
これ初級です。Aくんは、どのように言うべきだったか分かりますか?
 
 
この文脈では、「消しゴム忘れちゃった」の意味は、「消しゴム貸して」ですよね?
 
 
だけどBくんには、本当にAくんが「消しゴムを忘れた」という事実を報告してくれているだけにしか聞こえていません。
 
 
ですから「ふ〜ん」と答えます。「貸して」と言われていないので、消しゴムは貸しません意地悪ではないのです。だって、言われてないんですもの、「貸して」って…。
 
 
 
 
字面と意味が不一致のとき、言葉の裏にある話し手の意図を想像することは、とっても難しいんです。これと同じようなシチュエーション、あなたのご家庭では起こっていませんか?
 
 
例えば、
 
「ちょっと〜、お母さん、この荷物重いんだけど〜!」
 
「ふ〜ん」
 
 
これ、お母さんは「重いから持って欲しい」とお願いしていますよね?でも「持って欲しい」と言葉にしていないので、子どもには、その意図は伝わっていません。
 
 
「重いんだな〜」という事実は伝わっているでしょう。でも、「持って欲しい」って頼まれてないから…となるわけです。
 
 
こんなとき、「意地悪ね!どうして手伝ってくれないの!?
 
 
な〜んて、お子さんに文句を言っていませんか?お子さんとしては、急に怒られちゃって逆にびっくりです。だから、子どももキレ返す。こんなやり取り、よ〜〜く見かけます。
 
 
お母さんは言ったつもり。子どもは「聞いてない」。
 
 
こうしたちょっとした言い合いは、こちらの言葉の使い方を工夫するだけで激減し、「あんなに言い合いをしていたのは何故だろう?」と思うほどに改善します!
 
 
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4.初級編:行動を端的に示す言葉のチョイスがベスト!

 
 
初級編のポイントはズバリ、単語のチョイスを変えるだけ!
 
 
「消しゴム忘れちゃった」じゃなくて「消しゴム貸して
 
 
「荷物が重いな」じゃなくて「荷物持って欲しいな
 
 
察することを求めるような言い回しではなく、ストレートに「〜して欲しい」と伝える単語をチョイスします。
 
 
日本語的には直接的すぎて、ちょっと図々しいような、やや失礼に感じる言い回しになって気が引ける場合もあります。
 
 
でも、発達障害の人にはちょうどいいんです!
 
 
他にも、こんな相談もありました。家族がまだご飯を食べているのに、ダイニングテーブルを離れて一人リビングでゲームを始めてしまう。
 
 
だから「もう、そんなところでゲームしないでよ〜」とお母さんは声をかけたそうです。
 
 
私が「○○くん、めちゃくちゃ怒ったでしょ?」と言うと、「そうなんです、先生!どうしてですか?」と。
 
 
お母さんが「そんな所にいないで」と言ったのは、「まだダイニングに居なさい」と言いたかったからですよね?
 
 
でも、お子さんには字面通りそこにいてはダメだ」と伝わっているんです。
 
 
このときお子さんは、
 
 
「いっつもそうやって僕を邪魔もの扱いして!なんなんだよ!」
 
 
と怒って部屋を出て行ったそうです。むしろ、素直な行動です。でも結果として、お母さんから見ると、意図と真逆の行動をとられたことになります。
 
 
「ダイニングにいろ」と言っているのに、リビングまで出て行ってしまいましたからね。だから更に怒ります。で、子どもはさらに混乱です。
 
 
お母さんが最初にチョイスすべき言葉はコレでした。
 
 
「こっちにおいで(来なさい)」
 
 
もちろん、これってお母さんは悪くありません!
 
 
お子さんに意図を読み取る力がない上に、勝手に思考が別の方向に進んでしまうからこそ、起きているトラブルなのですが、それが難しい!
 
 
「〜しないで」と言っても、何をして欲しいか伝わらないのです。
 
 
「〜して」言えば済むケースがほとんどです。
 
 
ですので、子どもにとって欲しい行動を、そのまま言葉にするのがベストです。できれば、動作レベルにまで落とし込んだ単語をチョイスすると上手くいきます。
 
 
「待って」と言うのも、子どもにとってはまだ抽象的な指示にしか聞こえません。
 
 
待って欲しい時には「そこに座って、マンガ見てて」というふうに、待つ時の動作や行動を指示するといいんです。
 
 
何に注意を向けるといいのか、行動の的を端的に言葉にしてください
 
 
 
 
これが初級編のポイントでした。次回は、中級編を解説しますね!
 
 
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執筆者:吉野加容子
(発達科学コミュニケーショントレーナー、学術博士、臨床発達心理士)
 
 
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