1.発達性ディスレクシアの子ども達はどんな大人になっていくのか?
発達性ディスレクシアという障害をご存知でしょうか?
知能や聞いて理解する力には問題がないとしても、読み書きだけが特に困難な障害です。まったく読み書きできないわけではないけれど時間がとてもかかったり、苦手ながらも日本語の読み書きはできるのに英語は習得できなかったり…と、人によって様々な特性がみられます。
私の息子もギフテッドと自閉症スペクトラム(ASD)の特性をもち、文字の読み書きの場面で苦手な部分があります。
子どもには、自分のもつ特性を強みに変えて生きていってほしい。そのために、得意を伸ばして生きているパステルキッズの話を聞きたいと思い、今回、漫画家の千葉リョウコさんにインタビューしました。
千葉さんは、
『うちの子は字が書けない』
『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』
という2冊の本を出版されています。2冊の本の中では、千葉さんの2人のお子さんが発達性ディスレクシアと向き合い、自立に向けて成長していく様子が描かれています。
ポプラ社より発売中です。
うちの子は字が書けない
著:千葉リョウコ 監修:宇野彰
発売年月:2017年7月
「うちの子は字が書けないかも」と思ったら
著:宇野彰、千葉リョウコ
発売年月:2020年2月
お兄ちゃんのフユくんは、小学校6年生の時に発達性ディスレクシアと判定され、高校生まで専門機関で読み書きのトレーニングを受けています。妹のナツちゃんは、中学2年生の時に発達性ディスレクシアがあることがわかりましたが、お兄ちゃんのフユくんよりも障害の程度は軽く、本人の意思でトレーニングは短期間のみで終了しています。
障害の程度も様々ですが、子どもの考え方も様々で、自分の特性との向き合い方や乗り越え方には色んなパターンがあるのだなということがわかる内容になっています。
今回は、特性も性格も違う2人のお子さんの自立へ向けてお母さんである千葉さんがどのように関わってきたのかを教えてもらいたいと思います!
2. 発達性ディスレクシアの子ども達に必要な自己受容
まずは、お子さんに発達性ディスレクシアについて伝えた時の気持ちについて伺いました。
ーー『うちの子は字が書けない』の中で、お兄ちゃんのフユくんと千葉さんがLDディスレクシアセンターの宇野先生から診断を受けている場面がありますね。フユくんが障害を知ることでショックを受けるのではないか?という心配はありませんでしたか?
「フユは、読み書き障害だけではなくASDの特性も持ち合わせていて、元々通級に通っていました。自分が周りの子とは違うことを気づいていたようだったし、それがどうしてなのか知りたいだろうなと思いました。
それに、LDディスレクシアセンターの宇野先生はとても気さくな人で、この先生から話してもらえるなら大丈夫だろうと思っていました。
後からフユに聞いたら、『自分のことを知れてよかった。』と話していて、一緒に聞けてよかったです。
娘のナツは、まったく人見知りがなく、誰とでもすごくフレンドリーです。彼女はADHD、ASD、読み書き障害と特性がいろいろあるけど、社会性がとても高いです。
そして前向きで、ディスレクシアのために英語ができないのですけど、『私はこれができなくても平気!』という感じです。『漢字を書くときはスマホで調べればいいし!』とトレーニングもほとんどしませんでした。
しっかりと障害について伝えることによって、フユは苦手を克服するためトレーニングをするという選択をしました。ナツは、『書けないものはしょうがない』とスマホなどのICTを活用する選択をしました。2人にはしっかり伝えてよかったと思います。」
ーー発達障害の診断を不安に思うお母さんも多いのかなと思いましたが、子どもが特性と向き合いながら成長していくためには自己を受容することがとても大事なプロセスですね。
千葉さんのように、お母さんがどっしりと受け入れてくれていると、子どもも安心して自分と向き合えますね!
3.子どもの特性に合わせた進路の選び方
次に、将来を見据えてどのように進路を選んできたのかをうかがいたいと思います。
ーー読み書きが苦手だと、学年が上がるごとに勉強面での課題にぶつかると思いますが、進学の際に困難だったことはありましたか?
「勉強に関しては、それこそ小学1年生のひらがなからずっと苦労していましたが、特に高校は大変でした!
2人とも見学や体験に行って好きなことができる私立学校を選んだのですが、学校独自のルールが厳しくて、こちらの希望通りに合理的配慮をしてもらうことができませんでした。
『読み書きが苦手です。配慮をお願いします』と言ってあっても、テストの点数が悪かったときに出される課題が書き取りやノート提出だったりします。公立校においては合理的配慮の提供は義務なので、対応してもらいやすいのかもしれません。
私立校における合理的配慮は義務ではなく『努力義務』です。学校独自のルールがあり、それに従えないなら退学してくださいというところもあります。1人だけに時間をさくことはできないと言われたこともあり、気持ち的にも辛い時期でした。」
ーーそれは辛いですね。しかし、千葉さんの本を読んで、発達性ディスレクシアに対する配慮が希望通りにしてもらえない中で、フユくんもナツちゃんもやれることを頑張る!という姿勢で、それぞれとても頑張っているなと感動しました。その後、2人はどのような進路に進んだのですか?
「お兄ちゃんのフユは、調理の専門学校で2年間勉強して就職活動をしているところです。最初はたて続けに面接で落ちてしまっていました。緊張してしまって、本来の自分の良さを出せないようで。
親目線ですが、長く付き合うといい子とわかるタイプなんですよ!
『50社くらい受け続けたらどこか受かるところあるよ!』と伝えたら、またやる気をだして動き始められました。最近、仮採用をもらえたところがあって就職にむけて頑張っています。」
本でも書きましたが、フユの場合は調理が得意だったわけではありません。好きなことでもありませんでした。ただ食べることは好きで、調理は苦手ではなかったのでこの進路を選びました。
宇野先生も本の中でおっしゃっていましたが、サラリーマンだって『サラリーマンになりたい!』と目指すわけでもありませんし、仕事でしている業務そのものが好きなわけではないですよね。
毎日続けられる苦手ではないことを積み重ねていくうちに、そのなかに楽しみを見いだせたり、自分が役に立てていることや達成感を感じられたりする。フユにもそういう日が来るといいな、と思っています。」
ーー専門学校での配慮は必要でしたか?
「日々の課題に関しては、先生や友達のサポートがあり、苦手なところは避けてやらせてくれていたと感じています。専門学校生活は本当に楽しそうでした。
文字に関しても、専門学校では課題はすべてipadで提出するシステムだったので困ることはなかったみたいです。お知らせ事項もメールやPDFで受け取れるので、保護者としても高校よりとても楽でした。」
ーー読み書きに関しては大人に近づくほどICTを利用できる環境が整い、楽になっていきますね!ナツちゃんはどうしていますか?
「ナツの進路は、イラストを学べる専門学校です。本当にイラストが好きで小さい頃からずっと描いているんです。今はライブ2Dや3Dといったソフトなどの練習もしています。イラストも全部デジタル制作です。
イラストが好きだからといってただ専門学校に通ってもイラストレーターにはなれないですよね。自分がどれだけ努力できるかにかかってきます。
幸い、ナツは絵に関しては上昇志向が高いので、本当にすごいです。好きなことなら集中して何時間でもやっていられるというのは、彼女の特性をいい方向につかえているということではないかと思っています。努力を、努力だと思っていないんですね。
専門学校に入ったら、すぐ就職活動がはじまるでしょう。何十社にもエントリーして『受けるだけ受けてどこか当たればいいな〜』なんて前向きに言っています(笑)」
ーー今は色々な学校があって、好きなことや得意なことを学んで将来に生かすことができる道が増えていますよね。2人とも自立に向けて頑張っていますね!
4.子どもの得意を発見する秘訣はある?
2人のお子さんが好きなことを見つけて、好きなことで生きていこうと決められた千葉さんの家庭では何か特別な子育て方法を実践していたのでしょうか?気になるお母さんの関わり方を聞いていきます。
ーー苦手がありながら自分に合った道を選んで将来を考えているフユくんとナツちゃんは、同じような子ども達にとってとても希望となる成長をしているなと感じます。千葉さんは、きょうだいの興味や関心をそれぞれ気づいて、伸ばしてあげようと意識していましたか?
「強く意識していたわけではありません。ただ、私自身、漫画家としての仕事も忙しいので、子どもたちが好きなことを1人でできるように材料はたくさん与えていましたね。
フユは、ゲームや小説が好きだったので、本をたくさん買ってあげたし、ゲームも時間の制限などはしていませんでした。
ナツは、絵を描く、おりがみ、貼り絵など。材料さえあれば一人で黙々と楽しめる子でした」
ーーナツちゃんの絵の才能についてですが、漫画家であるお母さんが教えることはしていないのですか?
「知らない間にどんどん上達していましたね。
私がやったことがあるとすれば、発達性ディスレクシアで英語が読めないので、英語で書かれた文字をちょっと読んで教えてあげたり、読み飛ばして探している文字が見つからないっていうときは、一緒にさがしてあげたりしたくらいです。」
ーー子どもの好きなことをとことん応援していらっしゃったんですね!生活面で注意したり言い聞かせたりすることはありますか?
「社会人として生きていく上で、遅刻はしないようにということだけはしっかり伝えてきました。路線を間違えたりすることがよくあるので、2人とも出かける時は1時間前くらいには到着するように家を出るようにしています。なので滅多に遅刻はしないですね。
私が教えたのはそれくらいです!就職もすぐにできなくてもいいと思っていて、『働いて自立できるまで何年かかっても、住む家はあるから大丈夫だよ。アルバイトして水道光熱費くらいははらってもらうけどね!』と伝えていますよ。」
ーー子どもには、親の心配を押し付けてあれこれ言ってしまいたくなりますが、最小限守って欲しいことだけ伝えて後は見守る姿勢が大事なのですね。
5.大切なのは共感力
ーー本を読んでいて、フユくんもナツちゃんもお母さんとよく話して気持ちを伝え合えるコミュニケーションをとれているなと感じましたが、お子さんが素直に向き合ってくれる秘訣はありますか?
「私が好きに生きていて、二人にもそうしてほしいと思っているので、好きなことは好きなだけしていいよという風に言っているからでしょうか。
先日、ナツが『ママガチャSSRだった!』って言ったんですよ。
ーーママガチャSSR??
「ゲームでガチャを引くと、SとかSRとかランクが出てくるんですね。一番いいのがSSRです。スペシャル・スーパー・レアっていうことですね。
お腹の中でお母さんを選ぶガチャを何回も引いていて、SSRのお母さんを引き当てたっていうことらしいです。『好きなことを好きなだけやっていいよと言ってくれるお母さん他にはなかなかいないよ』と言ってくれています。」
ーーそれはとても嬉しい言葉ですね、感動します!「私のお母さんが1番!」という気持ちがあってこそ、子どもは心を開いてくれるのですね。最後に、子どもが発達の特性を持っていて不安なお母さん達がたくさんいると思うのですが、そんな読者の皆さんにメッセージをお願いします。
「うちにはフユとナツのほかにもう1人、小学5生の男の子、アキがいます。アキは学校に行きたがらない時期がありました。
『なんで1列に並ばなきゃいけないの?』
『なんでじっと座ってないといけないの?』
と、学校のルールに違和感を感じているような子です。
たしかに、学校には本当にそれ必要なの?と思うようなことってあるなと感じます。学校が決めたルールに従うことが難しい子もいる。
『友達も先生も勉強も好きだけど学校という存在が嫌いだ。』とよく言っています。
今は大分行けるようになったのですが。私も3人目なので子どもがぶつかる困難も笑って落ち着いて対応できるようになりました。
アキが一番嬉しいのは、共感してもらえること。通級の先生が、『わかるよ、アキくんの気持ちよくわかるよ』と言ってもらえたときとても嬉しかったと話していました。
私もあまり学校好きじゃなかったなと思います。だから、子どもが、『嫌だ、怖い、苦手』と言う言葉に自分の経験を重ねて、『お母さんもこんなことあったよ』と寄り添って話してあげるといいんじゃないかなと思います。
『みんなと同じにするのは大変なんだよね!わかるよ!』って。
身近な大人にそう思ってもらえると安心感が生まれますよね。その気持ちを満たすことができたら子どもは苦手なことも頑張ろうという気持ちが出てくるのかなと思います。
どうしても苦手なことは、これだけはちょっと許してくださいよっていうところを先生に親子で一緒に交渉するといいのかなと思います。」
ーー千葉さんのようにお子さんの気持ちを受け入れて、色んな気持ちを語り合える親子になって子どもの成長を喜びたいです。千葉さんありがとうございました!
6.苦手のある子ども達が社会で活躍できる日
千葉さんのお話はいかがでしたか?
私は、千葉さんが子ども達のことを一人の人として考えや行動を尊重しているところがとても素晴らしいと感じました。お子さん達の様子を明るく楽しそうに褒めて語ってくれる姿に、こちらまでワクワクしてしまいました!
特性がある子どもを育てる上で、将来への不安は常についてくることだと思います。
そのため、子どもが食いっぱぐれないようにと読み書きをみんなと同じようにやらせなきゃと無理に頑張らせてしまうことはありませんか?
お母さんの不安を押し付けると、子どもは安心して得意なことに没頭することができません。
子どもの苦手に寄り添い、子どもが苦手を「自分の力で乗り越えたいのか」「周りの人に助けてもらいたいのか」を対話することが必要ですね。
子どもが素直に対話してくれるお母さんになるために必要な力は、共感力です!
お母さん自身の焦りや不安はまず置いておいて、子どもの気持ちを認めて聞いてあげましょう。
苦手なことを受け入れて、お子さんが安心して好きなことに取り組めるようになると、お母さんも子どもの将来を見守れるようになりますよ。
それまでにお母さんが、お子さんの苦手と得意を認めて、励まして、自信をたくさん授けてあげて、子どもが伸び伸びと社会に巣立てる基盤を作っていきましょう!
『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』より
千葉リョウコさん
漫画家。千葉県在住。家族は夫と専門学校生の長男、長女、小学生の次男とトイプードルの5人+1匹。長男と長女のふたりが「発達性読み書き障害」と判定され、それぞれの性格や症状にあったサポートをすべく奮闘中。
執筆者:すずき真菜
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
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