1.起立性調節障害はどのくらいで治る?先が見えず焦っていませんか
朝になっても布団に入ったまま起きられない。
起きられたとしても学校へは行けない。
午後からは元気になるのに勉強もしないでずーっとスマホ。
声をかけても無視されるか生返事でなかなか動こうとしない。

子どもが起立性調節障害になると、「どのくらいで治るんだろう」「いつになったら以前の生活に戻れるんだろう」と、先の見えない毎日に不安を感じることはないでしょうか。
起立性調節障害の子どもを前にすると「このままで大丈夫なの?」「少しでも動けるようにしてあげなければ」と焦ってしまい
・ちゃんと朝に起こそうと頑張って声をかける
・生活リズムを整えなきゃと早寝の必要性を伝えようとする
・学校が無理なら家でできること!と買い物やお手伝いに誘う
どれも、子どもの将来を心配する親御さんならだれでもやってしまう行動です。
今回の動画で体験を語る大下真世さんも、起立性調節障害から不登校になった息子さんを前に、「なんとかしなければ」と一日中気を張りながら過ごしていました。
ところが、良かれと思って働きかけを続ける中で、息子さんは自分で鍵を作り、部屋にこもるようになりました。
そこで大下さんが見直したのが、息子さんへの接し方でした。
「どうしたら子どもを動かせるのか」ではなく、「子どもが自分で動くために、親はどう関わればいいのか」
大下さん親子に起きた変化を見ていきましょう。
お話しする人
大下真世さん
発達科学コミュニケーショントレーナー
起立性調節障害から不登校になった息子さんとの体験を通して、「子どもを動かす」ことから「子どもの持つ力を引き出す」関わりへ変わった過程をお話しします。
聞き手
清水畑亜希子さん
発達科学コミュニケーションマスタートレーナー
大下さんが息子さんを何とか動かそうとしていた当時の葛藤や、親の接し方を見直していった体験を振り返りながら、息子さんが自分から動き始めたきっかけをひもときます。
2.早く治して学校へ戻そうと息子を動かし続けた
大下さんは看護師、保健師として働いた経験があり、病気や発達についての知識も持っていました。
子育てにも自信があり、「良妻賢母」に憧れ、子どもの成長に良いと思うことを一生懸命取り入れていました。
ところが、受験して入った中学校の1年生の冬、息子さんが起立性調節障害になります。
どのくらいの期間で治るのか…とにかく治療をして体調が良くなりさえすれば学校へ行けるようになると思っていました。やがて、息子さんは
「俺、二度と学校行かない」
「二度と勉強しない」
と言うようになりました。
大下さんは、朝起こそうと光を当てたり、好きな音楽を大きな音でかけたりしました。
学校へ行けないならオンライン授業を受けられないか。
午前中が無理なら午後から勉強できないか。
少しでも息子さんが動ける方法を探し続けました。
息子さんはオンライン授業にも参加しました。しかし授業が終わるとトイレへ駆け込み、休み時間の間ずっと出てこられないこともありました。
やらせたら「本当にこれでよかったのかな」
休ませたら「もう少し声をかけた方がよかったのかな」
学校だけではありません。
起こすか寝かせるか、運動はどうするか、お風呂はどうするか。
大下さんは、一日の中で何度も判断を迫られているように感じていました。

「毎朝、夢ならいいのにと思って目を開ける」
それほど疲弊していったのです。
3.部屋の鍵を自作した息子の姿から見直した親の関わり
大下さんと息子さんはもともと仲の良い親子でした。
だからこそ、心配する大下さんは息子さんに声をかけ続けました。
ところがある日、息子さんの部屋のドアを開けようとしても開きません。

工作が得意だった息子さんが、もともと鍵のなかった自分の部屋に自作の鍵を取り付けていたのです。
「なんで鍵を作ったの?」
いつでも話せる親子だと思っていた大下さんにとって、大きなショックでした。
振り返ってみると、起立性調節障害の治療で大切な
『水分を取ること』→「水分取った?」
『薬を飲むこと』→「薬飲んだ?」
など、息子さんを心配して交わしていた会話の多くが指示になっていたことに気づきます。
大下さんは悪くしようとしていたわけではありません。それでも息子さんには「また言われた」「また注意された」と、否定されたように感じられていたのではないかと振り返っています。
大下さんは「鍵をかけた」という行動を息子さんからの大きなサインだと受け止め、一度距離を取ることを選びました。
さらに、1日1時間に制限していたゲームも解除。iPadやSwitchを渡し、好きに使える状態にしました。
それは簡単な決断ではありませんでした。
大下さんを動かしたのは、「息子の笑顔をもう一度見たい」という思いでした。
暗い部屋で過ごす息子さんを見て、以前のように目を輝かせる姿をもう一度見たい。そのために、それまで正しいと思っていた親の関わりをいったん手放したのです。
4.指示をやめると自分で考えて動く姿が見えてきた
大下さん自身、「半分賭けのような形だった」と振り返るこの選択。
指示を減らし、少し距離を取るようになると、息子さんは最初、iPadでゲームをしていたそうです。
ところが1か月ほどするとゲームにも飽き、自分の行きたいところや、やりたいことを探し始めました。そして部屋から出て、大下さんに自分から話しかけるようになりました。
発達科学コミュニケーションを学び始めてからは、大下さんはさらに「子どもに指示を出して動かそうとする」ことをやめていきました。
受講から3週間ほどたったころ、息子さんが前年に参加したがっていた科学甲子園ジュニアの校内テストがあることを知ります。
以前なら「得意なんだから受けてみなよ」と勧めていたところを、「行くかどうかは別として、こんなのあるよ」と情報だけを渡しました。

すると息子さんは自分で「行く」と決め、そのためにどうするかを大下さんへ相談してきたのです。
大下さんの中でも、子どもを見る基準が変わっていきました。
以前は
「学校へ行ったか、行かなかったか」
「勉強したか、しなかったか」
「朝起きたか、起きられなかったか」
という二択で見ていました。
けれど、その間にも、迷う力、決める力、決めたことを口にする力、一歩踏み出してみる力がある。
それまで見逃していた小さな成長が見えるようになったと大下さんは話します。
5.動いたかどうか・治ったかどうかだけでは見えない子どもの成長
起立性調節障害はどのくらいで治るのか。
先の見えない毎日を過ごしていると、親にとってとても気になる問いだと思います。
けれど今回の大下さんの体験は、「この接し方をすれば何か月で治る」という話ではありません。
子どもが動かない姿を見ていると、親は「どうしたら動かせるのだろう」と考えたくなるかもしれません。
けれど、大下さんの体験から持ち帰りたい(学びたい)のは、「ゲームを自由にすれば動く」「声をかけなければいい」という方法ではありません。
まず見直してみたいのは、子どもを動かすことだけが、今の接し方の目的になっていないかという視点です。
例えば、声をかける前に「今伝えようとしていることは、子どもへの指示になっていないかな」と一度考えてみる。
何か情報を伝えたいときも、すぐに「やってみたら?」と答えまで渡すのではなく、子どもがどうするかを考えられる余地を残してみる。
そして、「できた・できなかった」の結果だけではなく、その途中にも目を向けてみる。
迷っている。
自分なりに考えている。
気持ちを言葉にした。
相談してきた。
外から見るとまだ動いていないように見える時期にも、子どもの中で起きている変化があるかもしれません。
大下さん自身も、以前は「子どもを動かす方法」を探していたと話しています。
そこから、「子どもの持っている力をどう引き出すか」を考える子育てへ変わりました。

正解を親が先に渡すのではなく、今の子どもの中にある答えを知ろうとする。
今日からすべての接し方を変える必要はありません。
まずは、いつも「動かさなきゃ」と思って声をかけている場面を一つ思い浮かべてみませんか。
その場面で少しだけ待ってみたら、わが子のどんな力が見えてくるでしょうか。
「どのくらいで治るのだろう」と不安になったときこそ、治ったかどうかだけではなく、昨日まで見えなかったわが子の小さな変化にも目を向けてみませんか。
執筆者:岡千恵
(発達科学コミュニケーションアンバサダー)
どのくらいで治る?どのくらいで行ける?
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