家では話すのに学校では話せない…。場面緘黙の子どもに悩む保護者へ。不安や緊張から話せない理由を脳科学の視点で解説し、安心して「伝えたい」を育てる家庭でできるお家療育を体験談とともに紹介します。
1.家では話すのに、学校では話せない…
「学校では一言も話せていません。」
先生からそう言われて、戸惑ったことはありませんか?
家では学校であった出来事を楽しそうに話したり、歌を歌ったり、家族と笑い合ったりしているのに…「学校で話せない」と聞いても、すぐには信じられないママも多いでしょう。
小さな頃から大人に話しかけられても首を振るだけ。
お友達とは一緒に遊んでいても、自分から話すことはほとんどない。
それでも、「そのうち慣れるだろう」と大きな心配をせずに過ごしてきたご家庭も多いのではないでしょうか。
しかし、小学校へ入学すると状況は変わります。
学校生活では、「話すこと」が求められる場面が一気に増えます。
勉強は理解できているのに、人前になると声が出ない。
困っていても先生に助けを求められない。
友達と話したくても話しかけられない。
そんな姿を知って、「このままで大丈夫なのかな」と不安になるのは当然のことです。
もし今、「早く話せるようにしてあげなきゃ」と焦っている親御さんがいるなら、まず知っていただきたいことがあります。
それは、場面緘黙の子どもは「話さない」のではなく、「話したくても話せない」ということです。
家庭では話せても園や学校では話せない状態が場面緘黙であり、「話さない」ではなく「話せない」と理解することが大切です。
だからこそ、本当に必要なのは、「話す練習」を増やすことではありません。
まず知っていただきたいのは、「話せるようにすること」よりも大切な視点があるということです。

2.「話せるようにしなきゃ」と焦るほど、親子で苦しくなっていました
私の生徒さんFさんのお子さんのお話です。
Fさんのお子さんは、家ではとてもおしゃべりな女の子でした。
学校であった出来事を楽しそうに話したり、お気に入りの歌を歌ったり、家族とは笑顔で会話を楽しんだり。誰が見ても「話せない子」には見えませんでした。
一方で、幼い頃から恥ずかしがり屋で、保育園ではほとんど人前で話すことがなかったそうです。
先生から話しかけられても、小さくうなずくだけ。
お友達と遊ぶことは好き。でも、自分から話しかけることはほとんどありません。
その頃のFさんは「人見知りで恥ずかしがり屋な性格なんだろう。」そう思っていたそうです。
ところが、小学校へ入学すると、Fさんの気持ちは大きく揺らぎました。
最初の個人面談で先生から言われたのは、「学校では、まだ一言も話せていません。」という言葉でした。
「このままで友達はできるのかな。」
「授業についていけなくなるんじゃないかな。」
不安ばかりが大きくなり、Fさんは少しでも話せるようになってほしいと願っていました。
けれど、お母さんであるFさんが頑張れば頑張るほど、娘さんは困ったような表情を浮かべるだけで、状況は変わりませんでした。
そんな時に出会ったのが、発達科学コミュニケーションの学びでした。
そこでFさんが初めて知ったのは
『この子は話さないのではなく、話したくても話せない状態なんだ。』ということでした。
その日からFさんは「話せるようにすること」を目標にするのをやめました。
代わりに、「この子が安心して過ごせるにはどう関わればいいのだろう。」という視点で、毎日の関わりを少しずつ見直していったのです。
すぐに大きな変化があったわけではありませんが、以前より表情がやわらぎ、学校でうなずいて気持ちを伝えられる場面が増え、先生に小さな声で返事ができたという報告も届くようになりました。

3.「話さない」のではなく「話せない」|安心すると脳は動き始めます
「どうして家ではあんなに話すのに、学校では話せないの?」
場面緘黙のお子さんを育てる多くの保護者が、一度は抱く疑問ではないでしょうか。
実は、場面緘黙の子どもは話したくないのではなく、「話したくても話せない」状態だと考えられています。
私たち大人も、突然大勢の前でスピーチを頼まれたら、頭が真っ白になった経験はありませんか?
心臓がドキドキして、言葉が出てこなくなる。
「ちゃんと話さなきゃ」と思えば思うほど、余計に緊張してしまいます。
これは、脳の中にある扁桃体という部分が、「危険かもしれない!」と反応しているためです。
扁桃体は、不安や緊張などの感情を処理する役割を担っています。
人は不安を感じると、脳は「考える」よりも「身を守る」ことを優先します。
場面緘黙の子どもは、この不安を感じるセンサーがとても敏感です。
学校で先生に話しかけられたり、みんなの視線を感じたりすると、脳は「ここは危険かもしれない」と判断し、自分を守ろうとします。
その結果、身体が固まり、声を出そうと思っても出せなくなってしまうのです。
だから、「ちゃんと話してごらん」「返事だけでもしてみよう」と励まされても、本人にとっては簡単なことではありません。
むしろ「話さなければ」というプレッシャーが大きくなり、不安をさらに強めてしまうこともあります。
では、親は何を大切にすればよいのでしょうか。
それは、「話せるようにすること」ではなく、安心できる環境をつくることです。
脳は、「ここは安全だ」と感じられると、少しずつ周りに目を向ける余裕が生まれます。
小さな成功体験を積み重ねることで、脳は「この場所でも大丈夫なんだ」と学習していきます。
以前、お家療育シリーズ第4弾では、「不安が強い子どもには、安心の土台が必要です」とお伝えしました。
そして第5弾では、「安心できると、子どもは挑戦する力を発揮できる」とお話ししました。
場面緘黙の子どもも同じです。
安心という土台があるからこそ、「伝えてみよう」という気持ちが芽生えます。
では、そのために家庭ではどのような関わりができるのでしょうか。
次では、今日から実践できる「安心して『伝えたい』を育てるお家療育」をご紹介します。

4.家庭で今日からできる|安心して「伝えたい」を育てるお家療育5選
ここでは、ご家庭で今日から実践できるお家療育をご紹介します。
◆① 「話せた?」より「安心して過ごせた?」を大切にする
学校から帰ってくると、つい「今日は先生と話せた?」と聞きたくなりますよね。
でも、場面緘黙の子どもにとっては、その質問がプレッシャーになってしまうことがあります。
そんな時は「楽しかったことあった?」など、安心して気持ちを話せる会話から始めてみましょう。
「話せたか」ではなく、「安心して過ごせたか」に目を向けることで、子どもも「話さなきゃ」という不安から少しずつ解放されていきます。
◆② 「できていること」を実況中継する
場面緘黙の子どもに必要なのは、「話す自信」よりも、「自分はできる」という自信です。
おすすめなのが、発達科学コミュニケーションでお伝えしている「実況中継」の声かけです。
例えば…
「ランドセルを自分で片付けたね。」
「宿題を最後まで頑張ったね。」
「靴をそろえているね。」
など、子どもが普段している行動をそのまま言葉にして伝えます。
特別なことを褒める必要はありません。
「自分はできている」という実感が積み重なることで、少しずつ自己肯定感が育ち、「やってみよう」という気持ちにつながっていきます。
◆③ 安心できる場所で、お友達と過ごす時間をつくる
学校では話せなくても、自宅なら安心して過ごせるお子さんは少なくありません。
そんな時は、気の合うお友達を家に招いて遊ぶ機会を作ってみましょう。
慣れた環境の中では、不安が和らぎ、自分らしく過ごしやすくなります。
「話すこと」を目的にするのではなく、「一緒に遊べて楽しいな。」そんな経験を積み重ねることが大切です。
◆④ 「話せる場面」を少しずつ広げていく
「学校で話せないなら、学校で頑張らせよう。」そう考えたくなるかもしれません。
けれど、いきなり大きな目標を目指すと、子どもの不安は強くなってしまいます。
例えば…
家では話せる。
↓
お友達が家に来たら話せる。
↓
公園なら話せる。
↓
放課後の校庭なら話せる。
というように、安心できる場面を少しずつ広げていくことが大切です。
小さな成功体験を積み重ねることで、「ここでも大丈夫だった」という安心感が脳に蓄えられていきます。
◆⑤ 「話せた」ではなく「伝えようとした」を一緒に喜ぶ
場面緘黙の子どもにとって、大きな声で話すことだけが成長ではありません。
- 先生の顔を見られた。
- 小さくうなずけた。
- 会釈ができた。
- 小さな声で返事ができた。
どれも、お子さんにとっては大きな一歩です。
そんな時は「頑張ったね。」ではなく、「先生に伝えようとしたんだね。」「勇気を出したんだね。」と、その行動の過程を認めてあげてください。
親が結果ではなく「挑戦した気持ち」を受け止めてくれることで、子どもは安心し、「またやってみよう」という気持ちを育てていきます。

5.目指すのは「どこでも話せる子」ではありません
お家療育で本当に大切にしたいのは、「話せること」ではありません。
大切なのは、お子さんが「伝えても大丈夫」「ここなら安心できる」と感じられる経験を積み重ねることです。
その安心が、小さなうなずきや会釈、小さな声での返事へとつながり、少しずつ「自分の気持ちを伝えたい」という力を育てていきます。
焦らず、お子さんの小さな一歩を一緒に喜びながら、その子らしいペースで成長を見守っていきましょう。





