子どもが部活を辞めたいと言っている。
けれど、退部届をなかなか出せない。
もう部活には行っていない。
退部届も書いた。
先生に言うと言いながら、動けない。
そんな宙ぶらりんの状態が続くと、
子ども自身もイライラしやすくなります。
そして、
その気持ちを
身近なお母さんにぶつけてしまう
ことがあります。
子どもも苦しい。
お母さんも苦しい。
お互いに苦しくなっていくのです。
「辞めるなら早く出せばいいのに」
「先生に迷惑がかかる」
「いつまでこのままにするの?」
そう思うのは自然なことです。
けれど、親が先に退部届を出して
終わらせてしまう前に、
一度見てほしいことがあります。
子どもは辞めたくないのではなく、
自分で終わらせたいのに、
まだ心の整理が追いついていない
状態かもしれないからです。
退部届を出せない子を見て、親が苦しくなる理由
子どもが退部届を出せない時、
親も苦しくなります。
部活に行っていないのに、籍だけ残っている。
先生や仲間にどう思われているのか気になる。
はっきりしない姿にイライラしてしまう。
特にまじめなお母さんほど、
「周りに迷惑をかけてはいけない」
「けじめをつけなければいけない」
「辞めるならきちんと伝えるべき」
という正しさが強く働きます。
もちろん、それは間違っていません。
けれど、その正しさだけで
子どもを動かそうとすると、
子どもは責められているように感じ、
さらに動けなくなることがあります。
親が見ているのは、
退部届を出すか出さないか。
けれど、子どもの中では、
先生に会う怖さ。
友達にどう思われるかの不安。
途中でやめることへの罪悪感。
そういった気持ちが
重なっていることがあります。
「出せない」は、心の整理が追いついていないサインかもしれない
親から見ると、
退部届はただの紙かもしれません。
けれど子どもにとって、
退部届を出すことは、
部活に区切りをつけることです。
先生との関係。
仲間との関係。
続けられなかった自分。
頑張れなかった自分。
そういうものに向き合う行為
でもあります。
だから、
「辞めたい」と思っていても、
退部届を出すところで
止まってしまうことがあります。
これは、
やる気がないからとは限りません。
本当は続けたかった。
本当はうまくやりたかった。
でも、もう戻るのは難しい。
その葛藤がある時、
子どもは前にも後ろにも進めなくなります。
親から見ると宙ぶらりんに見える時間も、
子どもにとっては、自分の気持ちを
整理している時間かもしれません。
親が先に終わらせると、「自分で決めたかった」を奪うことがある
私自身にも、苦い失敗があります。
我が子が、学校に行かなくなって
しばらく経った頃、部活をやめるのに
なかなか退部届を出せずにいました。
私は、
その宙ぶらりんの状態を
見ているのが苦しくて、
やめるなら早く出せばいい。
この中途半端な状態を早く終わらせたい。
と思っていました。
そんな時、たまたま先生が
家に来てくださったことがありました。
私はそのタイミングで、
子どもの代わりに
退部届を出してしまったのです。
けれど、後から分かったのは、
子どもは、自分で出したかった
ということでした。
すぐには動けなかった。
けれど、
自分のタイミングで、
自分で区切りをつけたかった。
私は、その時間を待てませんでした。
子どもが決められないことが
苦しかったのではなく、
私自身が、その宙ぶらりんの状態に
耐えられなかったのです。
その出来事は、
親子の信頼関係を
大きく崩すきっかけになりました。
親が代わりに
動く必要がある場面もあります。
けれど、
サポートと代行は違います。
親がすることは、子どもの代わりに
終わらせることではなく、
子どもが自分で終わらせられる状態を
整えることです。
宙ぶらりんの時間は、子どもが決める力を取り戻す時間
子どもが答えを出せない時、
親は早く白黒つけたくなります。
けれど子育てでは、
すぐに答えが出ない状態に耐える力が
必要になることがあります。
これを、
ネガティブ・ケイパビリティ
と言います。
すぐに決められない。
答えが出ない。
白黒つけられない。
そんな時間は、親にとっては不安です。
けれど、子どもにとっては、
自分の気持ちを整理し、
自分で選ぶ力を取り戻している時間
かもしれません。
ここで親が先に答えを出すと、
一時的にはスッキリします。
でも子どもの中には、
「自分で決めたかった」
「自分のタイミングで区切りをつけたかった」
という思いが残ることがあります。
反対に、考える余白をもらい、
選んだ結果を受け止めてもらえる経験は、
子どもの0か100かの思考を
少しずつ和らげます。
困った時に困ったと言える。
迷っている時に迷っていると言える。
助けてほしい時に助けてほしいと言える。
この力が、
困難を乗り越えていく土台になります。
親ができるのは、退部届を出すことではなく「出せる状態」を整えること
では、親はどう関わればいいのでしょうか。
大事なのは、
「出しなさい」と迫ることでも
「もう出しておいたよ」と
終わらせることでもありません。
子どもが自分で出せる状態を整えることです。
まずは、
何が引っかかっているのかを分解します。
「辞めることは決めている?」
「まだ迷っている?」
「何が一番しんどい?」
「先生に会うこと?」
「友達に聞かれること?」
「退部届を出した後どう思われるかが怖い?」
退部届を書く。
学校へ持っていく。
職員室に入る。
先生に渡す。
この一連の行動は、
子どもにとって
大きな山に見えていることがあります。
だから、小さく分けます。
「今日は書くだけにする」
「渡す日はあとで決める」
「職員室の前まで一緒に行く」
「最後に渡すところだけ本人がやる」
親は代わりに終わらせるのではなく、
道筋を整えることができます。
声をかけるなら、こんな言い方です。
「退部届を出すかどうか、
最後はあなたが決めていいよ。
出したい気持ちがあるのに動けないなら、
一緒にやり方を考えよう。」
「お母さんが勝手に出して
終わらせたいわけじゃないよ。
あなたが自分で区切りをつけられる形を
探したいと思ってるよ。」
退部届を出すこと以上に大事なのは、
子どもの「自分で決める力」を守ることです。
これは、退部届だけの話ではありません。
習い事を続けるか、やめるか。
学校に行くか、休むか。
試験を受けるか、受けないか。
大会に出るか、出ないか。
進路をどう決めるか。
子どもが
大きな判断を迫られる場面では、
親の方が先に不安になり、
早く答えを出したくなることがあります。
けれど、
子どもがすぐに決められない時は、
「やる気がない」
「はっきりしない」
「逃げている」
と見る前に、
今、この子は何に迷っているのか。
何が怖いのか。
本当はどうしたい気持ちが残っているのか。
そこを見ていくことが大事です。
親が先に答えを出すのではなく、
子どもが自分で決められる状態を整える。
その関わり方が、退部届だけでなく、
習い事、学校、試験、大会、進路決定など、
子どもが人生の中で
何かを選ぶ場面の土台になっていきます。
子どもがすぐに答えを出せない時こそ、
親が急いで終わらせるのではなく、
その子の中にある漠然とした不安を、
コミュニケーションで
少しずつ明らかにしていくことが大切です。
何が怖いのか。
何に迷っているのか。
本当はどうしたい気持ちが残っているのか。
そこを一緒に見ていける関係が
戻ってくると、
子どもは少しずつ、
自分で決める力を取り戻していきます。
その子の中にある
「自分で決める力」を信じて、
そっと支えていきたいですね。


