発達障害、自閉症スペクトラム(ASD)の診断が出ている6歳の息子のことで相談です。こだわりがとても強く、気に入らないことがあると癇癪を起します。お友達間でもトラブルが多いのですが、「ごめんなさい」と謝れないので困っています。そろそろきちんと謝れるように教えていきたいのですが、どうしたらいいでしょうか。
6歳・男の子のママ
我が家の息子もなかなか「ごめんなさい」が言えない場面が多く、頭を悩ませていました。お友達に、ただ謝って済ませればいい問題ではありませんから、どう教えていくか難しいですよね。息子は現在6歳となり、最近はきちんと謝る素直さや優しさが育ってきました。その変化や成長を見てきた私が解説します!
発達科学コミュニケーションリサーチャー 瀬名香織
【目次】
1.「ごめんなさい」と謝れないのは発達障害に関係している?
2.トラブル回避のために子どもに謝らせようとするしつけは逆効果かもしれません
3.ASDの子どもの素直さを育てて、お友達に心から謝れるようになる対応法
①本人の言い分を最後まで聞く
②自分のしたことが良くないことだと再認識させる
③謝り方を教える
1.「ごめんなさい」と謝れないのは発達障害に関係している?
子ども同士の喧嘩やトラブルは、毎日のように起こりますよね。しかし、発達障害・グレーゾーンの子どもは社会性が育つのが遅い傾向にあり、その分トラブルが増えがちです。
うちの息子も、トラブルメーカーになる場面が多いのですが、お友達に「ごめんなさい」が言えないため、状況が悪化する場面を多々見てきました。
「謝りなさい!」
「自分が悪いときは謝らないといけません!」
など注意や指導しようとしても、反発し反抗的な態度になります。
その態度や言動を見ると、こちらもつい感情的に叱ってしまいそうになりますが…
けれど、よく考えてみると「ごめんなさい」と謝ることは難しい作業が積み重なっているんです。
・自分がしたことが悪いことだと理解する
・そのことを認める
・自分がしたことで、相手がどう感じたかを理解する
・相手を思いやる
・その気持ちを言葉や態度で表現する
こんな風に分解してみると難易度が高いことが分かります。
その上、発達障害、その中でもアスペルガー症候群や自閉症スペクトラム(ASD)傾向のある子どもは、相手の気持ちを想像することが難しいという特性があるため尚更謝れないことが多いです。
また、全体の状況を把握することが難しいため、そもそも自分が悪いと思っていない、ということも考えられます。
息子の場合はこの2つのことに加えて、だんだん落ち着いてきて「謝りたい」と思えるようになってきても、謝るタイミングを完全に失って意地を張っている、ということも多々ありました。
2.トラブル回避のために子どもに謝らせようとするしつけは逆効果かもしれません
発達障害の子が「ごめんなさい」と謝れないと、周囲から「怒りっぽくてわがままな子」というレッテルを張られることが増えます。
トラブルが起こると、謝れない息子がさらにヒートアップしていく…その姿を見た子どもたちは「もうほっとこう。向こうに行って遊ぼう」とその場を離れてしまいます。
息子自身は1人残されたときにハッとして、初めてそこで状況を理解する、ということもありました。
こんなことが重なると、誰も息子と遊んでくれなくなるのでは?という私の心配は大きくなるばかり…
「早く謝りなさい!」と咄嗟に言ってしまったこともありますが、決まって「ふんっ!」とそっぽを向いて余計に怒らせるハメに。
やってしまった行為に対して指摘しているだけなのですが、子ども側からすると否定されている、責められている、と受け取ってしまっているのです。
ですから、お母さんが息子さんのためを思って謝れるように教えていたいと焦る気持ちも分かりますが、前述の通り、謝れないにはいくつかの理由が考えられます。
ASDの息子が謝れないことに対して不安を感じて「謝りなさい!」と叱ることは逆効果だという事が 分かりました。
できないところを指摘して修正しようとするしつけの考え方は一旦置いて、その理由を探るところから始めてみましょう。
3.ASDの子どもの素直さを育てて、お友達に心から謝れるようになる対応法
それでは、どうしたら子どもがしっかり謝れるようになるのでしょうか。対応をお伝えしていきます。
◆①本人の言い分を最後まで聞く
発達障害の中でもアスペルガー症候群や自閉傾向がある子どもは独特なこだわりがあったり、不安感が強い子も多いです。自己肯定感も低く、自信を失いかけている子もいます。
そのため、お友達が親切心で言ったことが「注意された!」「指摘された!」という反応になってしまい、喧嘩になることがあります。
息子は、落としたタオルを拾ってくれた子に「僕のだぞ!」と怒ってしまったこともあります。取られたと勘違いしたのです。
状況を冷静に理解すればわかることなのですが、脳の特性上、衝動的な反応が出やすいこともあり、相手からすると一方的で理不尽とも取れる行動を起こします。
独特な視点や観点をもっているということを理解した上で、息子さんの言い分を最後までしっかり聞いてあげてください。
たとえどんなに身勝手な言い分であっても、どうしてそうなってしまったのか、まずは聞いてあげることが大事です。
そうすると、聞いてもらった!という安心感で息子さんは気持ちを落ち着かせることができます。そして、お母さんは息子さんの感じ方や気持ちを知ることができますので、どう納得させるのが良いかの手がかりが掴めると思います。
◆②自分のしたことが良くないことだと再認識させる
子どもを納得させるには、まずは否定されたと感じさせない、自己肯定感を下げないような対応をすることが最も大事な要素です。
そして、発達障害のアスペルガー症候群や自閉傾向がある子は、相手の視点に立って物事を考えることが難しいので、他の人も自分と同じ気持ちだと考えてしまいがちという点も念頭において接していく必要があります。
息子には、絵本や家の中でのやり取りで根気よく伝えてきました。
トラブルを起こしたときは興奮して何を言っても耳に入りません。ですので、落ち着いたときの予防教育が大切です。
当事者が息子本人だと冷静になれませんし、指摘になってしまうと自己肯定感を下げる原因にもなります。ですので、第三者の状況を見せて、息子の意見を聞いたりしました。
例えば、喧嘩してお友達に謝って仲直りする場面がある絵本を使って、「この〇〇ちゃんは、このときどう思ったんだろうね」など登場人物の状況や気持ちを考えながら会話をする。
謝った方が良い場面なのか?自分だったら何て謝るか?ただ読むだけでなく、ロープレをしていくのがおすすめです。
また、我が家では「夫婦の寸劇」もよく使う手です。
例えば、主人が私の足を踏んでしまったときに「痛い!」と大げさに言います。そうすると主人は「ちょっと当たっただけじゃない」などと言い訳をして謝りません。
そして私はまた大げさに痛がって、プンプン怒ります。夫は息子に「ママ怒ってるね。パパはどうしたらいいんだろう?」と相談します。
息子「謝りなよ」
主人「やだよ、わざとじゃないもん」
息子「わざとじゃなくても踏んじゃったんだし、ママ痛そうだから可哀そう。」
主人「謝った方がいい?」
息子「絶対謝った方がいいよ!」
主人「わかった。謝ってくる」
などといったやり取りが2人の間で繰り広げられます。
そして無事に謝れた主人と、私は大げさに仲直りをするのです。そのあとは主人は息子に「ちゃんと謝って仲直りできたよ。アドバイスありがとう。」とお礼を伝えます。
これは、悪気がなくわざとではないことでも、謝らないといけないことがある、ということを理解させることが目的です。
そして、パパとママの仲直りするのに役に立てた、パパからありがとうと言われたことで、自信にもなり自己肯定感が育つことにつながっていきます。
もちろんこれは全て主人とは流れを想定してやったこと。以前は、ここぞという場面でアイコンタクトで寸劇開始の合図を出して始めていましたが、最近は息も合ってきて合図なしでも始められるようになりました(笑)
こんなことができるのも、日ごろから息子の課題について話し合い、どうしていきたいのか、夫婦で意見を出し合ってきたおかげだと思います。
相談者さんも、息子さんの特性や課題を観察し、納得させるにはどんな方法が合うのかを探ってみてくださいね。
◆③謝り方を教える
息子の場合、謝る必要性を理解できたとしても、どう謝ればよいのか?や謝るタイミングが分からない、という様子も見られました。
謝りたいのに謝れない…そんな様子が見受けられたら、「謝りたい気持ちがあることは素敵なことだよ」とその思い自体を褒め認めます。
そして、日常生活の中でもきちんと相手の目を見て、誠意ある謝罪の姿勢をお母さん自身が見せていくことが大事です。
もし、息子さんが1人で謝りに行けないのであれば、「ママも行くから一緒に謝ろう」と誘ってあげてください。
私は、相手のお子さんに声をかけて「お話聞いてくれる?」と謝るきっかけを作るところまでお膳立てしました。
それでも謝るのを躊躇していたら、「さっきは〇〇してごめんね」とお母さんが謝ってもいいと思います。その様子やセリフを学ぶ機会を作ります。
例えば、園や学校で起こったできごとを帰宅後に反省している様子があれば、先生にも相談し、翌日に協力を依頼して謝るきっかけづくりや言葉のサポートを協力依頼してもよいと思います。
謝ることはその場でできるのが良いのですが、あとからでも良い、ということをしっかり伝えてあげて欲しいです。
誰しも対人トラブルは避けて通れません。そんなときに、相手だけでなく自分自身を責め続けることは避けなければなりません。
そのためにも、反省して謝るスキルは身に付けておきたいですね。
そのベースになるものは「自信」。僕は大丈夫!と思えること。絶対的な安心感から生まれる自信が、素直さや自己肯定感を生み、自分の否を認める強さにもなります。
お母さんが日ごろから気持ちをしっかり聞いて、肯定的な関わりを意識して続ける、その繰り返しで、自信は育ってきます。
そして、謝罪する理由やその方法をお母さんが根気よく教えて、謝罪する経験を積み重ねると自然と謝れるようになってきます。
ASDの息子の謝れない悩みが解決できた素直さを育てることができた対応例を参考にしてみてくださいね。
小1になったうちの息子ですが、未だに気持ちの切り替えが難しく、自己防衛の衝動的な反応からすぐに謝れないことも多いです。
お友達に謝るときに「一緒についてきて」や「ママ、代わりに言って」などと言うこともあります。
そんなときは私は二つ返事でOKし、あとから謝ろうと思えたことを褒め、仲直りできたことを一緒に喜びます。
私に対しても謝れない場面が多々ありますが、何やらぶつぶつ言いながら自分でクールダウンし「ママ、〇〇しちゃってごめんなさい」と謝れるようになりました。
翌日まで引きずって、イライラしていた1年前とは様変わりです。
「いいよ。謝れてかっこよかったね。」と、すぐに謝罪を受け入れて、抱きしめると何とも誇らしげな表情です。
間違ってもそのあとに、「けどさ、あれがこーであーで!次からはもうやらないでね。」なんて余計なことはくれぐれも言わないように注意してください…私はこれでせっかくの息子の謝る素直な気持ちを台無しにしてしまいました。
反省して謝れたら、それでよし!子どもはまた同じことを繰り返しますが、「またか!」と思わずに対応してあげてくださいね。
執筆者:瀬名香織
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)
(発達科学コミュニケーションリサーチャー)